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俺だけ別ゲー  作者: 歩家
5/5

第五話 遭遇

 タケルは姿が変わったこともあり、以前にもまして世間から距離をおく隠者のような生活をしてはいるものの、まったくの自給自足をしているというわけではない。週に一回くらいの頻度で十キロ以上離れた町まで買い出しに行っている。

 地球に戻ってからは免許証の写真と現在の姿があまりにも異なるために、生活の足であった車が使えなくなった。万が一警察に免許の提示を求められたら説明ができないからだ。

 そこでタケルは倉庫からロードバイクを引っ張り出した。ヘルメットとサングラスを装着したロードバイク乗りのスタイルならば、そのまま店で買い物だって可能であると踏んだのだ。ヘルメットは外したとしても、特徴的にすぎる赤い瞳だけでもサングラスで隠せば、他人からは謎の外国人という認識で済むはずだとタケルはやや楽観していた。買い込んだ荷物が大物の場合は怪しまれないように配達を頼むしかないが、それ以外はバックパックをカムフラージュにインベントリに入れればよいだろう。


(親父の若い頃に乗ってたらしいのがあって助かった。ありがたく使わせてもらうよ親父)


 しかしタケルはいまの身体能力が人外のそれになっていることを失念していて、峠道をかっ飛ばしてしまっていた。やがて登りでも車をぶっちぎる道東に現れるチャリの亡霊として噂されることになるが、これは本編とは別の話である。


 ◇


 この日もタケルはロードバイク乗りスタイルで最寄りの街(自宅からの距離十数km)に買い出しに来ていた。ワールドインパクトからはすでに一ヵ月が経過している。世間は魔法で大騒ぎしているが、慣れ親しんだ海沿いの田舎町はあいも変わらずの寂れた雰囲気でゆるやかな時を刻んでいた。

 タケルが資材の手配や食料品などの買い出しを終えて帰ろうとすると、町から出ようかというところで帰り道の方向に規制線が張られて警察が封鎖しているのが目に入った。野次馬の声を拾うとこの封鎖の原因はスライム騒ぎであるらしい。

 この頃になるとスライムは全高が1メートルを超えるものも現れるようになり、どこからともなく現れるスライムに対して社会はじわじわと不安を強めつつあった。街中に現れた場合は警察が対応していたが、スライムは色が濃くなるほどに耐久力があがり処理までに時間がかかることも増えた。そのために最近ではこうして周辺を封鎖してから大人数で対処することも増えたということらしい。

 タケルはロードバイクから降りて規制線のそばからその奥を窺った。強化された視力でスライム周辺の様子を見ると警官たちはスライムを囲んで長い棒で滅多打ちにしていた。どうやら心配はいらないようだ。

 タケルが回り道で帰ろうとして規制線から離れようとしたとき、近くに止めてあるミニパトのそばに知っている顔を見つけた。


「アヤメちゃん? この町に配属されてたのか」

「ん? ……君、誰? どうして私の名前知ってるのかな?」

「あっヤベ」


 ショートカットで凛々しい顔つきの女性警官である彼女–時任アヤメ–は、タケルのお隣さん(距離3km)一家のお孫さんであり、少し前に警察官になったと聞いていた。少し前といってもタケルの体感時間でいえば数十年ぶりの再会であり、あまりの懐かしさについ声が出てしまったのだ。しかしタケルは元の姿ではない。見知らぬ外国人の少年に名前を呼ばれたアヤメは当然ながら不審な顔をした。

 

「あ、すいません人違いでした!」

「ばっちり名前呼んでおいて人違いはないでしょ。君ちょっとサングラス外してお顔みせてくれるかな?」

「え、いやーその」

「おーなんだ時任、ナンパされてんかー? ……んー? どうしたのかなー? ……ちょっと君、その自転車の防犯登録確認させてもらおうかなー」


 タケルがうろたえて挙動不審になっていると、アヤメだけでなく、近くにいたもう一人の婦警も近寄ってきてしまった。髪をお団子にまとめた婦警は圧を感じるような貼り付けた笑顔である。高価なロードバイクは盗難被害が多いものだ。不審な少年がそれに乗っていたらとりあえず職務質問するというのがお決まりの流れである。タケルは冷や汗が止まらない。


(ヤバいヤバい、顔見せるだけならまだしも、防犯登録ってこれは親父のチャリだから俺の身元がバレる! ……いや、見た目違うんだから下手すると盗んだものと疑われたら最悪捕まる!? そしたら身分証明できないから……ぜったいろくなことにならないぞ! こうなったら……)


「あっコラ! 待ちなさい!」

「すいません待てませえええん!」


 タケルはロードバイクに乗って逃げだした。しかしアヤメはもう一人の婦警とともにミニパトで追いかけてくる。


(やっちまったー! よりによってアヤメちゃん警官になってるし! こうなったらなんとか振り切るしかない!)


「前の自転車ー! 止まりなさーい! って速い!?」


 タケルは自宅の方向に向かうのはまずいと判断し、海外線に向かった。人外スペックをフルに活かしてスタートダッシュを決めたタケルだが、しかしアヤメもさるもの、ミニパトでドリフト走行を決めて追い縋ってきた。


(ミニパトでドリフトぉ!? な、なんちゅードラテクだよ?! アヤちゃん成長しすぎぃ!)


 しばらく追いかけっこが続いた。本来ならタケルはミニパトなら置いていけるほどのスピードを出せるのだが、街中であるがゆえに飛び出してくるかもしれない歩行者と接触、というか跳ね飛ばしてしまう危険を考えるとあまり無茶な速度は出せなかった。タケルにとって幸いなことにほかの警官やパトカーなどの応援は来ない。タケルは知らないことだがこのとき市内にスライムが複数出現し、警察はそちらの対応に手を取られていた。


(よし、海岸通りだ、ここならもっと速度だせるから千切れる……何!?)


 本格的な逃走に移ろうとしたタケルの魔力感知にいきなり巨大な気配が引っかかったのはそのときだった。おもわずロードバイクを滑り込むように急停止させてその気配がある方向である海を見やると、沖が盛り上がるように隆起した。

 そこには巨大な山のような、黒々としたスライムが陸地に向かってきていたのだった。

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