第一話 変わる世界と帰ってきた男
見切り発車です。たぶんエタります。
その日地球に彗星群が衝突した。その彗星群はなぜか地球の直近にいきなり現れるまで観測できず、各国政府と科学者はパニックに陥った。発見から地球に衝突するまでわずか6時間ほど。人々はいきなり頭上に現れた星々が落ちてくるのを見上げて絶望した。
しかし人々が予感した破滅は訪れなかった。その彗星群はほとんどが謎の光によって形作られており、質量をほとんど持っていなかったのだ。そのため破滅的な衝撃波などは起こらなかった。だが、破滅は別の形で訪れた。モンスターの発生である。彗星の衝突からしばらくしてどこからともなく現れるようになるモンスターは生けるものに襲いかかり、人々は否応なく変質した世界で戦いに巻き込まれることになっていく。世界が変わってしまったきっかけの彗星群の衝突。この事件は世界を変えてしまったことからのちにワールドインパクト、と呼ばれることになる。
と、そんなことは露知らず、彗星が現れて地球に衝突するまでをまるまる夢の中で過ごしていた男がいた。日本国北海道の山の中、周りに民家とてない畑のなかにポツンと立つ家のなかで寝ていたその男は、寝ていたがために彗星群の出現に気づかず、従って自身目掛けて落ちてきた彗星にも気づくことはなかった。彗星は世界を変える。彗星は世界を繋ぐ。彗星が命中したその瞬間、寝ていた男はこの世界から異世界へと飛ばされてしまったのだ。
しかし次の瞬間、もう一つの彗星が男のいた場所に落ちてきた。するとそこには一人の少年が現れた。
「や、やっと帰ってきた……。って、なんじゃこりゃあ!? ど、どうしてこの体のままなんだ!?」
(愛し子よ……聞こえますか? ファモチキください)
(女神さまァア!? コ、コイツ直接脳内に……!)
(クスクス、このやりとりも懐かしいですね。……こほん。愛し子よ、落ち着いてお聞きなさい。あなたはこれまで私と、私の世界のためによく尽くしてくれました。その褒美としてあなたを元の世界に帰しました。しかし、あなたの知らないうちにそちらの世界は変質してしまったのです)
「変質、ですか?」
(そう、魔力が存在しなかったはずのそちらの世界には魔力が満ち、そのためモンスターも発生するようになったようなのです。愛し子たるあなたがせっかく帰った世界ですぐに殺されてしまっては褒美になりません。そもそもあなたが望んだ、元の世界に帰るだけでよいという願いだってささやかすぎる願いなのです。それでは私の気がすみません。そこで私は愛し子たるあなたが私の世界で培った力をそのままあなたに持たせて元の世界に帰すことにしたのです。あなたがそちらの世界でも無事に、よく生きていけるようにと)
「え、それはなんというか、ありがとうございます? ……あれ、いやでも女神さま? この国じゃ戸籍ってのがありましてですね、元の姿じゃないと身分の証明ができないのですが」
(……えっ)
「えっ」
(……。えーと、でも元の体ではあなたやあなたの眷属の力には耐えられませんし、それくらい幾つもの困難を乗り越えてきたあなたにとっては些細なことですよね! 愛し子よ、私はいつまでもあなたの幸福を祈っていますよ……。よ……。ょ……。)
「ちょっと? 女神さま? 女神さまァァァ!?」
こうして男は元の姿とは似ても似つかぬ少年の姿となって異世界から帰ってきた。この物語は変質した世界で異世界帰りの男が無双する物語である。