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名無しの手紙

作者: 冬草

初めましての方は初めまして。

そうでもない方はお久しぶりです。

冬草です。


cigaretteの本編書けって言葉が聞こえてきそうですが、御免なさい筆が走っちゃったんです。

今回も一人称視点です。


色々隠してあるので良ければ考察とかどうぞ。

その考察の答えに関して答えるつもりはありませんが。


良ければ自分目線で読んでみて没頭してみて下さい。




ーーー俺の元にこの手紙が届き始めたのは、夏季休暇に入ってすぐだった。



可愛いらしいデフォルメされた犬の袋で後ろにハートのシールで封をされた手紙。

そして、裏の右下に俺の住所と名前。

この部屋に呼んだデリヘルかどっかで行ったキャバ嬢の悪戯か?

そう思いながら封を切る。


手紙の内容は他愛のないものだった、長い夏休みになってしまったから一緒に遊べなくてさみしい。

と言った様な内容だ。

ついでに写真もついていた。

可愛らしい少女の写真だ、白いワンピースを着て麦わら帽子を被った少女が笑顔でどこかの家の前に立っている。


ここで気付いた。

これは間違って届いた手紙だったのだ。

字も少し拙く感じる。

恐らく小学生くらいの子なのだろう、間違っていると返信を書こうかと悩んだが、残念ながら住所が書いていない。

まぁ、返事がなかったら直接その子の家に行くだろう。


ーーーこの時はそう軽く考えて、手紙を書類を積んで有るところに適当に投げ捨てた。



翌日、怠惰な朝を迎えた俺はいつもの様にポストを確認しにいく。

…また手紙が入っていた。

昨日と同じ絵柄、昨日と同じ住所と名前。

もう別人だと分かっている手紙を開けるつもりもなく、一応取るだけ取って中身は覗かない様にすることにした。


この4日の休暇が終わる日まで、その手紙は毎日のように届く。

開けていないので、中がどうなっているかは知らないが手紙を入れている封筒の絵柄が途中で犬のイラストから普通の犬に変わった。

それくらいだ。


そして、今日だ。

このクソ暑い中今日から出社するのかと思いながら重い体を起こして仕事の準備をしていた。

玄関に付けてある扉のポストに物が投函される音がなった。

朝6時頃のことだ。

新聞なんて取っていない。

そもそも投函時間はもっと早くないか?

そんなことを考えながら歯ブラシを咥えつつ玄関ポストの中身を確認した。


ーー手紙だ。

慌てて扉を開ける。

が、遅かった。

遠くの方を走り去っていく白いワンピースを着た女の子の姿が見えたが、あれがその子なのかはわからない。

間違えて声をかけたら事案も良い所だろう。

手紙の裏には住所がなくなり、俺の名前だけが書かれていた。

直接手紙を届けにきたということなのだろう。

…だが、なぜ俺に届けるのだろうか。

ここに越してきてからしばらく経つが、間違った手紙はこれ以外届いたことはない。

そして恐らく今日の手紙は本人が直接投函してきたものなのだろう。

…小学生相手とはいえ自分宛に来ていないものを開けるのは非常に心苦しいが、一応今回の分は開けてみることにしよう。

封筒は変わっていない、が住所が消えているので別人の可能性もある。


おわり。


たった一言。

そう書いてあった。

何が、終わりなんだろうか。

悪戯が終わり?確信犯だったのか?


食卓机の上に置いたその手紙を眺めそんなことを考えながら、出社の準備を整えた俺はいつもの電車に乗るために家から飛び出した。



ーー十二時間くらい後に帰ってきて、ポストを覗いた。

犬の封筒。

裏には俺の名前。

今回は、封筒の中身が膨らんでいた。

触った感じは硬く、棒状で、長さは8cm程。

程よく、くの字に折れている。

何か猛烈に嫌な予感がして、俺はその場で手紙を開いた。


ーー中には丸まった紙。

ため息が出た。

取り敢えず買って来た惣菜と一緒に家に持って入ることにした。


惣菜を開けて夕食を食べながら、少し曲がってしまっている硬く巻かれた紙を開いてみる。


手紙を読んで


と書いてあった。

自然と喉が鳴った。

今まで来ていた手紙を読んでいないのがバレているのだろうか。

インスタントの味噌汁を啜りながら、今まで来ていた手紙を開けていく

中には他愛のない内容が書かれていた。


開けた一つ目には


照りつける太陽が今日も眩しい。

こんな日はお家で涼むのが1番だよね。

ゲームもいっぱいあるから遊びに来てもいいんだよ?


と書いてある。

…間違えている様にしか思えない。

そもそも差出人の名前も、住所も何の情報もない。

写真もついているが、どこかの屋内で1日目の少女とゲームが映っているだけだった。

取り敢えず次を開けてみることにする。


怪我しちゃった、でも、大丈夫。

大した怪我じゃないから安心してね。

でもお見舞いに来てくれると嬉しいな。


…文章に脈絡がない、日記みたいなものの様に感じる。

いや、子供の手紙ならこんなものなのか?

これにも写真が付いている。

掌に包帯を巻いた部分だけが映っている。


開けていない最後の手紙だ。


捨て猫を拾ったよ、可愛いよね。

お父さんが飼っていいって、今度見にきてね。


これにも、写真が付いている。

そこにはーー屋内でピースをしている白いワンピースを着た少女だけが写っていた。

猫は写っていない。


カタンッ。

扉についているポストの中に何かが投函された音。

…どこか確信を持って、俺はポストの中を確認した。

中には手紙。

犬の書かれた手紙だ。


封を切って中身を確認する。


遊ぼう?

かくれんぼしよ?


もう一度、喉が鳴る。

突然電気が消えた。

そして、すぐ電気が付く。


カタンッ

また、手紙が届いた。

手紙の封を切る。


もういいよ。

私を、見つけて。


背筋が凍る感覚。

俺に話しかけるように手紙が届く。

こんなこと、普通に考えて起こり得るはずがない。

ここに越して来る時に下調べはしていた筈だ、この場所に関する悪い噂も聞いていない。

小さい頃から今まで霊感なんてものも持っていた覚えもない。

家から飛び出したほうがいい気がして、ドアノブに手をかける。


ーーー当然のように、扉は開かなかった。


カタンッ

また、届いた。

覗き窓から外を確認する。

当然の様に誰もいない。

封を切る。


早く、私を見つけて。


この時の俺は恐らく諦めの境地の様な顔をしていたに違いない。

とにかく、この状況を何とかするために、手紙に書いてある通りの行動をすることにした。


トイレの扉を開ける。

誰もいない。

風呂場の扉を開ける。

誰もいない。

カーテンを捲る。

誰もいない。

ベランダを確認する。

そもそも、窓が開かなかった。


ーー意を決して冷蔵庫を開ける。

誰もいない。

冷凍庫の方も開けてみる。

誰もいない。

クローゼットを開く。

誰もいない。

キッチン下の収納を開けてみる。

誰もーーいない。


人が隠れられそうな場所を探したにも関わらず、どこにもーー。


カタンッ。


玄関の方からまた音が鳴った。

手紙を投函する音が。


今までの物と違うーーどこか湿った赤い手紙だった。

斑な色をしている気がする。

封をきり、中を見る。


見つかっちゃった。

写真を見て。


届いていた、四枚の写真のことだろうか。

机の上に置いておいた手紙を確認しに戻る。

その内一枚の写真に、キッチン下の収納の中から俺の顔を取ったとした思えない映像が映っていた。


ボトリッと、玄関から音が聞こえた。

これは、手紙の音じゃない。

液体を含んだ質量のある何かが玄関ポストに入れられている音。

嫌な予感が脳をよぎる。


ーー慌てて、俺は身を隠した。

「いーぢ、に“ーい」

ゴボゴボと粘性の水が泡立つ様な音と共に数字を数える声が聞こえる。

当然の様に、玄関ポストから。

ボトボトという音は数えられる数字と共にドンドンと大きくなっていく。

「なーな“、はーぢ。」

ガコンッと、玄関ポストが内側に開く音と、グチャグチャグチャと、肉がくっつくとしか言いようのない音が耳についた。

「キューう、じゅ〜う。」

10を言い終わる頃には、可愛らしい少女の声が耳に入ってきた。


「もういいかい?」


この狭い家の中で声を出せば場所が割れるのは間違いない。

もういいよ、とは間違っても声を出すことはできない。


「もう、いいよね。」


その言葉を呟いた瞬間、俺の隠れていた場所の扉が開き始める。

慌てて、俺はドアノブを掴んで扉を閉めようとした。

ーー閉まる前に、白くて細い指が扉の間に挟まった。


「見ーつけた。」


気付けば、叫びながら、俺は、扉を何度も開け閉めしていた。

何故そんな行動を取ったのかはわからない。

扉が開き始めた時に一瞬見えた、目らしき部分が、複数の黒目で埋まっていたからだろうか。

それとも、1回目に強く締めた時にちぎれ飛んだ指が床に落ちた後地面を這い始めただからだろうか。

閉めるたびに飛び散る、肉と、血。

その度に増えて体を登ってくる指と肉片。

それが口を無理やり開きながらーー


ーー気付くと、俺はその場で眠っていたらしく、目を覚ました。

昨晩のことは全て仕事で疲れていた幻覚だったのだろうかーー。


その言葉を、否定するように。

目の前に見覚えのある手紙。


「開けて。」


どこからか、そんな言葉が聞こえた気がした。

幻聴で、済ませる。

済ませてしまいたい。

だが、心のどこかで、その声に従わないと何かまずいことが起こるという予見があった。

いや、予見とは違う。

確信の方が言葉的には近いのだろう。


昨日から何度目かの喉を鳴らして、手紙を開ける。

そこには、一枚の写真と、手紙。

写真には、棺に入った黒髪の少女。

手紙には「もういいよ」の文字と近くの住所が書いてあった。


ーー会社に仮病の連絡を入れて、俺はその住所に行くことにした。



そこは、あまりにも普通の一軒家だった。

インターホンを鳴らすと、どこか疲れた怪訝そうな女性の声が「はい?」と言ってきた。

間違いなく不審者である、と自分で思いながら俺はインターホン越しの女性に語りかけた。

最初は冗談はやめて下さいと言っていた女性だったがこの五日間で起こったことを掻い摘んで話すと、声色が変わった。

「そう、手紙と写真…あの子の見た目も…ちょっと待っていただけるかしら。」

玄関が開き、出て来たのは40代後半くらいの女性だった。

「ごめんなさいね、趣味の悪いセールスか何かと思ったんだけど…どうも違ったみたいねぇ。」

そう言いながら冷たいお茶を出してくれたので、俺はそれを一息に飲み干した。

「ええ、もう察してらっしゃるかと思いますけどあの子は亡くなってます。

 かくれんぼ、好きだったから貴方には迷惑をかけてしまったのかもしれないわね。」

迷惑どころの話ではなかったが、とは思ったが口には出さずに笑ってごまかす。

そして、想像通り、俺の家に出てきた子は亡くなっていた。

「それで、その手紙ちょっと見せてもらえるかしら。」

俺は頷くと、持って来ていた手紙を渡した。

「ああ、間違いないわね。あの子と同じ文字。

 ちょっと待っててくれる?」

そう言いながら、女性は足早にどこかへと消え、2分ほどで戻ってきた。

「ほら、これ、この部分。」

そう言いながら、大学ノートを開いて見せてくる。

「この「い」の部分ね、何度言っても右の方を長く書いちゃうのよ。

 ね、同じでしょう?」

確かに、お見舞いや眩しいなどの文字と同じ文字に見える。

「なんで、あなたのところに出たのかは分からないけど、良かったら拝んでいってあげてくださる?」

そう言いながら、女性に案内されるままに仏間に通らされ、おりんを鳴らして写真を見た。




「は?」


そこには、写真に写っていたのとは別の少女が映っていた。



読了有難うございました。


今回もキャラと怪異に関して後書きで書いておきます。


【登場人物】

主人公(貴方)

貴方は4日の夏季休暇に入った社会人です。

一体なにと遊んだんでしょうね。


40代後半の女性

貴方の家の近くの子供を亡くした女性です。



【怪異】

名無しの手紙の送り主。

かくれんぼを強要してくーーあれ?何か聞こえませんか?

え、聞こえません?







カタンッ


ほら、聞こえましたよ絶対。

貴方のポストから。

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