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ストーカー令息と変態令嬢の話

変態には侯爵令息がお似合いだ

作者: 白澤 睡蓮

『ストーカーには公爵令嬢がお似合いだ』のその後のお話です。読んでいない方は前作からお読みください。

 午前の授業終了を知らせる鐘が鳴り、僕は紙袋片手に、カフェテリアへの道を急いだ。普段なら彼女と一緒に向かうけど、今日は別々の選択授業だった。彼女が今か今かと僕を待っているのは、経験則で分かっている。


 辿り着いたカフェテリアで、僕はいつもの場所に彼女の姿を見つけた。お気に入りのテラス席で僕ジャック・シュトラインを優雅に待つ、僕の婚約者アルス・リーライ公爵令嬢だ。


「待たせてごめんね」

「そんなに急いで来なくても大丈夫よ」


 アルスが乱れた髪を直してくれた。


「ありがとう」


 アルスが座る向かい側の席は、空席で誰も座っていない。かつて有象無象が狙っていたその席は、今や僕の特等席だ。僕が席に着くと、給仕が日替わりランチを準備してくれた。


 もともとカフェテリアの食事は美味しいと評判だ。アルスと一緒に食べると、それが益々おいしく感じる。二人で食事し、時々目があう。幸せな時間だ。


 食事を終えて食後の紅茶を楽しんでいると、アルスが話しかけてきた。


「ねえ、ジャックはどうして眼鏡をかけているの?」


 婚約者になって三か月経つが、僕たちはお互いにまだ知らないことも多い。


「世の中には魔眼封じや、認識阻害の眼鏡もあるみたいだけど、僕のはただの近眼用だよ」


 返事するや否や、アルスに眼鏡を奪われた。


「やめてよう。アルスのことが見えなくなるから」


 ぼやける視界に目を細める僕。折角近くにいるのに、見えないなんて拷問も良いところだ。なんか周りがざわついてうるさいけど、そんなのどうでもいいから早く眼鏡を返して。


「う~ん、目つき悪く見られるのもいいわ。たまらない」


 見えないけどアルスが嬉しそうなのは分かる。


「僕は全然見えない」


「見えないのなら、見えるぐらいに近くに来ればいいじゃない」


 アルスに眼鏡を返す気はないようだ。身を乗り出すアルスに、僕は必殺の一言を言い放った。


「眼鏡を返してくれないと、プレゼント渡せないよう」


 すぐにぼやけた視界はクリアになった。アルス自らの手で、眼鏡をかけてくれたのだ。お願いしたら、またやってくれないだろうか。また今度頼んでみようと心に決めた。


「プレゼントって何?」


 彼女の嬉しさを隠しきれない声に、僕も嬉しくなってしまう。持ってきた紙袋をアルスに差し出した。


「はいこれ。頼まれてたやつだよ」


 アルスが紙袋の中から取り出したのは、アルスの希望にそって作った、僕お手製のクマのぬいぐるみだ。僕の髪色と瞳の色に合わせて、黒い毛並と黒い瞳になっているけれど、真っ黒は寂しいので、実在の熊を参考に白い模様を胸のところに入れてみた。


「屋敷に帰ったらさっそく、部屋を見渡せる場所に置くわね」


 僕が作ったと言う時点で、察しの良い人なら気付くかもしれない。ぬいぐるみの瞳は監視魔道具になっていて、僕の部屋にある鏡に視界が映し出される設計だ。


 一緒にいられれば、僕のアルス欲は満たされるので、婚約前に比べてストーカーの頻度は減った。というかストーカーしに行くと、お前またアルス様のストーカーに行ってたのか、という目で両親に見られるのだ。精神的ダメージがけっこうすごい。


 かといってストーカーを完全に止められずにいるのは、いつアルスが誰かに奪われるんじゃないかと、不安だからだ。こんな僕アルスにつり合わないと、いつも心のどこかで思ってしまう。きっとこれから先も、完全に止めることは不可能だ。それでもアルスはストーカーが減ったことが寂しいようで、今回のおねだりとなったのだ。


「見た目重視にしたから、魔力が全然もたないんだ。二、三日に一回は魔力の補充をお願いしていい?」

「分かったわ。お安い御用よ。どうすればいいの?」

「触るだけで大丈夫だよ。必要な分を勝手に持っていくから」

「触るだけなら、抱きしめるのもありね。貴方が必ず見たくなるような補充方法を……ふふふ」

「お手柔らかにお願いします」


 嬉しいけれど、そこは釘を刺しておいた。あんまりあれなことをされると、僕の身が持たないから。


「私がお願いしてから、こんなにすぐにできるなんて思ってなかったわ」

「渡すのはデートか、家にお邪魔した時の方が、本当は良かったんだろうけど、アルスに早く渡したくて」

「その愛が嬉しくてたまらない。貴方は自分が思っているよりも、ずっと優秀よ? もっと自信をもっていいのに」


 アルスに今まで、何度も言われたことだ。でも人の根っこは、そうそう変わらないわけで。


「それで自信が持てたら、苦労しないよう」

「でも自信がないおかげで、私へのストーカーに走ってくれて、こうして私は今幸せなんだから、自信がないのも悪いことじゃないわ」


 僕が作ったぬいぐるみを抱きしめて微笑むアルスは、この世のものとは思えないぐらいに可愛かった。


 それはいいんだけど。


「ああ、ストーカーとは言っちゃだめ。誰が聞いてるとも限らないから~」


 僕は小声で抗議した。テラス席とはいえ、カフェテリアの一部だ。僕のストーカーぶりや、アルスの変態ぶりがばれるのは非常にまずい。


 僕の言葉にアルスははっとして、何かを思いついたようだった。内緒話をするように、アルスに顔を近づけられた。


「ねえジャック、盗聴というものに、興味はないかしら?」

「…………少しだけある」


 どんな君でも大好きだよ!



 こうしてストーカーと変態の日常は、今日も平和に過ぎていくのでした。

リーライ公爵「第二王子と一つ違いだから、本当は彼に嫁がせたかったんだよ。それがあそこまでへんた……感性が独特だと、流石に無理があったね」


続きのお話投稿しました。『ストーカーは公爵令嬢とデートする』は作者ページかシリーズページより、どうぞよろしくお願いします。

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