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色づく絆と結びの手  作者: 琴深矢 余暇
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第9話「ミサ・ハート」

見てくれてうれしい

魔術師クラス


魔術師は扱える魔術の威力、功績、知識の量によって様々なクラスに分けられる


最高位.賢者


1位階.英雄級


2位階.宮廷級


3位階.師級


4位階.上級


5位階.中級


入門.初級


最高位を賢者として大まかにわけて七階分のクラスがある

更に派生し別位階へと進む場合はこの限りではない




第9話「ミサ・ハート」




ミサ・ハート、魔術界において知らぬものなどいないほどビックネームである。

その功績、偉業は多岐にわたる。


弱冠十歳にてここ、ノーブル魔術学院を飛び級で更に首席として卒業。

その後、冒険者として世界をまわり数々の危険な依頼をこなして実力をつけ、ここノーブル魔術学院の学長に就任したりと見るものを震撼させる壮大なキャリヤと人生。


一言で表すなら天才、控えめに言って能力の鬼。


魔術階位はもちろん英雄級で、しかも最年少だ。




そんな彼女がオレに出した一つの依頼。


「ある子を見つけてほしい」


大体のことは自分でも解決してしまう彼女が依頼と聞いた時点で、なにか予感はしていたが、あえて詮索はしなかった。そして、端的言うと二つ返事で引き受けた。


別になにか特別な思いがあったとか、そんな事はなかった。


ただ、依頼を断る理由はなかったし、むしろ受ける理由こそあった。危険であると念を押されはしたが慣れっこだったので気にすることではなかった。




そして、遂に依頼完了の時が来た。







赤髪の少女がオレに向ける視線は、怪訝、疑念といった様々な感情が混じっている。

オレがここに来たということの意味は理解しているのだろう。


「それで、どうだったの?」


彼女は腰かけていた椅子からも立ち上がって、こちらを見ている。

握りしめる小さな拳にはいつも以上の力が込められているのが分かる。不安な気持ちもあるのだろう。彼女にとってそれほどに大事なこと――銀色の少女は重要な存在なのだろう。


「安心しろ。今呼ぶ」


オレは背後の扉を開く。

部屋の前には壁に背をもたれてじっと待っていた。


「話は通した。入ってくれ」


オレがそう言うと、少女はこくりと頷いて中に入る。

部屋の中ではミサがこちらを見て待っている。少女が一歩一歩と部屋に入り、遂に彼女と邂逅した。

依頼はこれにて完了。あとはわき役に徹するとしよう。


「……ひさしぶりね」


ミサがそう言って、少女の前まで来て頬に手を添える。銀色の少女は嫌がる様子もなく、それを受け入れる。


「ずっと、会いたかった。――ごめん。本当なら私が自分でむかえにいくべきだったんだけれど、こんな形になっちゃって」


そういうミサは本当に嬉しそうで、彼女がこんな風に感情を表に出すのは珍しい。それほどに、この少女のことが大事だったのだろう。


優しい声音で、思いのたけを口にする。だけど、後ろめたさから俯いてしまう彼女に少女がやっと口を開く。


「そんなことない」


その否定にいったいどれほどの想いが込められているのだろう。

あの夜に聞いた、少女とミサの思い出。少女からしてみれば、心が壊れかけてしまうほどに辛いことだらけだった人生の中で、唯一の光。


「ミサは、わたしにとって光だった。会えなくても、目の前にいなくても、あなたのくれたモノが、確かに感じられたからいまのわたしがある」


ここで大事なのは、ミサがそれをちゃんと自覚しているのか。自分が十分に彼女にとって得難いものを与えたという認識があるかどうか。


「でも、私は自分の手であなたを助け出さなきゃならなかった。それが、私の責任だったの」


ミサが引き摺っているのは、やはり彼女を自分の足で迎えに行けなかったことだ。理由はそれ以外にも沢山あるのだろうが、それが責任というわかりやすく認識しやすい枷になってミサを縛り付けている。

彼女が彼女自身を縛り付けている状態とすら言える。

だが、こう見えてこのミサという人間は難しい立場にいる。学院の長を初め、他にも様々なことに席と身を置いている。

だからこそ、生死不明、何処にいるかもわからない少女一人を見つけ出す為だけに手前勝手に動くことはできなかった。

しかし、別にそれ自体は悪いとは思えない。

薄情にも思えるかもしれないが、彼女にも積み上げてきた物と投資してきた時間がある。だから、そこで感情に任せて動かずにオレみたいな冒険者に頼むのは良い判断だ。


だが、頭ではわかっていようとも心の奥で納得できない自分がいるんだ。


「わたしは、会いたかったからここまで来た。もう一度会って、あの時、話したこと、話せなかったことを確かめるために!」


だが、あの暗い研究所を飛び出し、自身の足でここまで来た少女にも負けないほどの思いがある。

少女はそれをミサに伝えることを諦めはしない。


「……」


そして、ミサもそれに答えようとしている。

むしろ、彼女にも伝えたいことがあったからこそ、自分のもとに連れてきてほしいという依頼を出したのだ。ここに来て、喉元にひっかかった思いを外側に出そうとしているのがわかる。


仕方がない。


「見てられないな」


そう一言こぼす。


「ミサ、気持ちはわからなくもない。でもな、こいつを迎えに行く責任以前の問題に、お前にはこいつの言葉に答える義務と責任がある。そして、こいつには知りたいことを聞く権利がな」


オレもあの研究所の中で資料を閲覧したから、ある程度の事情は知っている。

ミサがあの研究について理解しているのは確実だ。だからこそ、ここまで返答に詰まる理由もわかる。しかし、会うと決めて依頼まで出したのは彼女自身、それは不安や迷いを押し殺し言わねばならない事を伝えるという事でもある。

オレは基本的に少女の味方をする。その理由は明確な被害者だからだ。


「……そうよね」


一瞬、俯いたあと顔を上げる。

もう、大丈夫そうだ。


「ありがと、お陰で吹っ切れた。そして、ごめん。久しぶりに会えたから、少し動揺しちゃってたみたい。――ちゃんと話すわ」


いつも通りの凛々しい魔術師としてのミサ。

まあ、元はといえばオレの訪問の仕方にも問題があった。もう少し考えて行動すべきだったな。


「でも、その前に――」


ミサが少女に近付き、そして背中に手を回して抱きしめる。


「生きててくれてありがとう。クロフィ」


本当に言うべきことというのは文面に表せばかなり短いものかもしれない。

だが、言葉は他人に心を伝えるうえで必要不可欠なものだから……


こんな、一言がなによりも大事なんだ。

次回は一週間後にあがります

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