第8話「その人のところへ」
遅くてすみません!!
【魔術学院】
魔術学を主体におく教育施設
世界全土の国々が国家事業クラスで研究を進める魔術学の英才教育を行う機関
次代の優秀な魔術師育成を目的として、豊富な人材と多岐にわたって知識が集う名門
主に設備の整った研究施設などに併設されることが多い
学級名称
初等部【リッチ】
中等部【メイス】
高等部【ワイズ】
主に年齢別にこの三部にわけれて習熟する
第8話「その人のところへ」
日は沈んで、町は昼間とはまた違った様子の賑わいを作り出す。
夜の帳がこぞってなりを潜めるほどの光の中を、俺と彼女で歩く。
あの後、外壁上にて日が落ちるまでの時を堪能し、そして日が落ち切った。今は元来果たすはずだった目的を果たすために歩いている。
「ナハト、今は何処に向かってるの?」
銀色の瞳が夜の町を彩る光を反射して、オレに向けられる。
夜の市場には目もくれず通り過ぎようとするオレを疑問に思ったのだろう。
確かに、次の行き先に関しては、外壁を出るときに「ついて来れば、わかる」とひとこと言ったきり、何も伝えていない。
しかし、オレは着くまでこの子に場所の詳細を話すつもりも無い。話さない理由に関しても同様にだ。
これは、別に単なる気まぐれやエゴというわけではなく、元々彼女を保護するようオレに頼んだ依頼主との約束でもある。
報酬をもらう以上、クライアントとの約束事は絶対だ。冒険者が依頼を受けるとはそういう事だし、例えそれがどんな意図によるものであれ、引き受けている以上、簡単に私情を介入させていい事柄でもない。
そのため、直接抵触することは言えない。
――だが
「ま、ヒントを与えるな。――とは、言われてないわな」
「え?」
独り言ちると、少女は何のことかわからず首を傾げる。
やれやれ、情が移りすぎたな。と、自分でも情けなく思う。とはいえ、あんな場所にまで連れ出して、あんな事まで言ったんだ。
今更、隠し事もなにもないだろうし、過度な秘密主義が要らぬ誤解を招き、この子に機嫌を損ねられても大変だ。
「そうだな……」
しばし考えてから、こう言った。
「お前を探してる人のところに、だよ」
その言葉を聞いた瞬間、彼女の瞳が揺れた。
■
市場の賑やかしから逃れて、20から30分ていど歩いた。
あれだけ眩く道を示していた光源は最低限度の物に落ち着いて、ようやく夜の雰囲気が見えてきた。
そして、それに比例して目的地の影も濃くなってくる。
少女はあれから口を開いていない。
表情を確認しようにも、前髪が絶妙に影を作って視認の余地を許さない。
目的地が近づくごとに、いままで歩いた歩数も当然回数を折っていくのだが、今ではその当然すら重く感じる。
オレは心の中でこう思った。
―ひょっとしたら、本当は余計なことをしてしまったのかもしれない―
後悔先に立たずである。
実際のところ、依頼主とは旧知の仲ではあるものの、この少女との間にどんな関係性があるかまでは知るべくもない。
最初に彼女に依頼主の名前を出した時の反応からして、悪い方の仲ではないと思っていたのだが、最早それすら不安になってきた。
いや、そもそも依頼主はどうして情報の開示に制限をかけたんだ?
それなりの訳があるだろうが、その部分がわからないから不安も加速する。
どうか、オレの杞憂であってくれ。
そう半場願いにも近い思考をしていると、もう目的地は目の前にあった。
それを目の当たりにして、オレは意を決した。
「――ここが、お前を本当の意味で連れてきたかった場所」
オレはその建物を示唆する。
「ノーブル魔術学院だ」
■
広大な敷地面積を持ち。世界の魔術学院の中でも最高峰の学術・研究成績を誇る魔術界隈のエリート校――それが、ノーブル魔術学院だ。
元々、この学院を作るためにこの町はできたと言ってもいい。そこに、魔獣や森から採取できる貴重な資源に商業的な価値が見出され、ここまでの経済力や規模を誇る町になったのだ。
学院創設までの経緯などは別の談で触れることにするが、とにかくそんな歴史的な背景のある町なのだから、当然領主――統治者は学院に深いかかわりを持つ。
いや、深いかかわり、なんて言葉ではその人を現すには足りないだろう。まあ、とにかく見てみればわかると思う。
オレと少女は学院内の廊下を歩いている。
警備に事情を話せば、快く通してくれた。
本当ならここに来てから、すぐにでもここに来るつもりだった。しかし、門番の話では森の方に出ているらしかったから、確実に帰ってきているであろうこんな時間帯にお邪魔することになったのだ。
そして、さっきからこの少女との間に流れる重苦しい空気にそろそろ疲れてきていた。
もういっそ、依頼主に全て丸投げしてオレはすぐにでも帰りたい。
まあ、そういう訳にもいかないんだがな。
「……」
この空気を作り出したのは、オレの軽率な発言だ。その責任は間違いなくオレにあるし、情報開示の制限を受けていたはずなのにそれを留意した上で行った違反行為にも近い言葉の落とし前はせめてつけねばなるまい。
「ここだ」
この学院には何度も来たことがあるから、校内の構造は大体把握している。それは目的の場所も同様で、そこにはなんの迷いなく到達する。
示唆した木製の重厚な両扉、それを視線に捉えるためか彼女の視線と共に顔が動く。
「まずはオレが入るから、呼んだらそっちも入ってきてくれ」
「うん、わかった」
事の運びを粗方伝えて、オレは扉をノックする。
コンコンという音を立ててから、しばらくしない内に返事が返ってくる。
『入って』
聞こえた声に反応して、オレは扉を開く。
「邪魔するぞ」
そう言って、部屋の中に入る。
中は執務室のような様相を取られていて、当然視線の先にはこの部屋の主が使う執務机がある。
「よ、数か月ぶりくらいか?――ミサ」
自身のデスクにて幾枚もの書類に目を通している存在、そいつに対してオレはお構いなく声を掛ける。
「ん……ナハト?」
紙面から目を離し、視線をこちらに向け、第一声にてオレの名前を口にする。そして、俯いていたので見えずらかった表情も露になる。
特徴的な赤い髪、青色の瞳、幼さの残る顔立ち。
ただの少女だと言われた方が納得がいくであろう容姿からは、おおよそ想像できないだろう。
――ミサ・ハート、件の依頼をオレに出した主であり、ノーブル魔術学院の現学院長である。
次回は三日後くらいにあがります




