第21話「迫る危機」
それ以降は、セレシアに魔力の使い方について度重なる注意を受けた。
彼女の前以外では無暗に力を解放しないこと。こればかりは必ず守るように言いつけられた。
『君の魔力的な素質は凄いものだけど、同時に危険でもあるの。だから、使う時は必ず、私の目の届く範囲だけにすること。約束だよ?』
僕が魔術を使えるようになりたかった理由、それは死んだ両親にあった。
両親は僕を産む前は冒険者として活動していたのだ。
たった一枚、残っている両親が若い頃の写真。そこには、笑顔で写っている2人の姿がある。それは2人が冒険者として旅をしていた時の道中である強大な敵を倒した時に撮ったものらしい。
父のことは殆ど思い出せないけど、とても強かったのは覚えている。僕の剣術は父にその基礎を教わったものだから当然だ。
だから、僕の中にそんな大きな力があると聞いた時には真っ先に2人のことが浮かんだ。
「……父さん、母さん、僕は――」
昔は冒険者になることは夢だった。
けれど、両親が死んでからは夢どころではなく生きて行くことだけに必死だった。
けれど、こうして舞い込んだきっかけを単なる偶然だとは思いたくなかった。
この体に眠っているという多大なる力は、母と父からの贈り物なんじゃないのか?
2人は死して尚、僕の背中を押してくれようとしてるんじゃなのか?
父が使っていた剣は今も大切に保管してある。何でも彼が愛用していた名剣中の名剣らしくそれだけは触らせてもらえなかった。母が死んだ後も、何だか後ろめたくて取る事の出来なかったそれを……
「――確か、この辺りだったはず」
ほんの思い付きで、僕は鍵のかかった棚からそれを取り出した。
「これが、父さんの使っていた剣」
蒼色の鞘に、黒いグリップと言った感じの一見すれば目立った装飾も少ない剣だ。けれど、その重みは普段使っている鋼の剣と比較にならないほどだ。どっしりとくる手応え、僕はその柄を掴み力を込めた。
■
森の最奥にある古代の遺跡、その石床が振動する。
遺跡内を住処にしていた動物や虫達は一様に散っていきその異変を知らせる。
「……マリョク、アノトキノオンナ――ファンタズム」
黒い肌、人を何倍も上回る巨体。
それが一歩、また一歩と踏みしめるたびに周囲の空間も揺れる。
「コロスッ!」
それは闇夜に紛れて、魔獣という災害を引き連れて進行を開始した。
□
宿の自室に戻ってきたセレシアは、紙面に術式の写しを行っていた。
ルクスが自分が居ない時でも魔術の勉強をしやすくするためだ。必要な術式の大半を書き終えて、伸びをしようとしたその時だった。
「――ッ!?」
肌を突き刺した巨大な気配を感じて、弾かれたように立ち上がる。
「何?今の気配……」
確かに感じた。森の方向から並々ならない圧力……
「一体、何が起こっているの」
即座に千里眼を発動させて森の方向を見る。すると、そこには驚くべき光景が映っていた。
「嘘……なにこれ」
セレシアは表情を険しくする。すぐにローブを着用してとんがり帽子を被ると、部屋を出る。急いで宿舎を抜けて、傍にある村長の家を訪ねる。
「村長さん!出て来てください!」
大声を上げてで呼び出すと、すぐに老年の村長が出てきた。
「冒険者さんでしたか、どうされました?」
セレシアは鬼気迫る様子で、村長に告げる。
「村の人達を一か所に集めてください。今からこの村に――」
突如として現れた危機がそこまで迫っている事実を……
「魔獣の大群が押し寄せてきます!」




