第16話「村の案内」
第16話「村の案内」
陽光が照らし、草葉が雨の雫を伴って煌めく。
空にはまだ若干の曇り模様だが、その隙間から差し込む光がより神秘的に映る。
そんな中、ルクスと旅の少女セレシアは村に向かって歩を進めていた。
「雨、夜の間に止んでよかったですね」
ルクスがそう言うと、セレシアも同意する。
「昨日はかなりの豪雨だったからね。お陰で今も服がジメジメしてるよ……」
雨の当りづらい所には居たのだが、当然その程度で防げるほど軽い雨脚ではなく、二人共ほとんどずぶ濡れの状態だった。
二人はあの後、即席の寝床を作り交代で見張りをしながらも夜を開かした。幸い、次の日に続くような天候でもなく今はその雨天も鳴りを潜めている。
「はは、そうですね。……でも、なんだかボクは悪い気はしてませんよ」
「え、どうして?」
セレシアはその言葉に小首をかしげる。
「こんな立地の村ですから、外の人、それも冒険者の方に会うのは珍しいんです。自給自足、他を頼りながらも確立して生きてきた住人は外を知らない人も多い。ボクもその一人だから、なんだか楽しくなってしまいまして」
大雨の中、これほどに物語めいた出会いにこの歳の少年ならば憧れない訳もない。この感覚は至極真っ当な感性だ。
「少年だね。うん、良いと思うよ。そういう感覚を持ってる子は私も嫌いじゃないから」
対するセレシアもこの少年については少し気になっている側面があった。
昨日の森の中で、遠く離れた場所から性格に自分の位置を感覚だけで探り当てた少年。第一印象は興味の対象というところに収まっていた。
■
それから、一時間ほど歩いてようやく森を出た。
「やっと、着いたー!今回も長い道のりだった」
目の前に見えるのは特に変わった様子のない平凡な村。村の入口からはすでに青い海が見える。
「……まずは、村長の家に案内しますね。この村には宿がないので、客人は一先ず村長に通す決まりになっているんです」
あまり人が寄り付く所でもないし、客人とはいっても年に一度来るか来ないかだからだ。
「わかった。それじゃあ、お願いね。ルクスくん」
■
村の中をセレシアさんを連れて歩く。
村長の家・兼・役所は村の一番奥、海に面した場所にあるため入口からはそれなりに歩かなければならない。
「この村では海に面していますからね。四季のどれにおいても魚介類を食べるんますけど、農業や家畜なども飼っているので、殆どは自給自足の生活を送っています。魔術具などの高価で手に入りにくい物だけ、町まで出て定期的に購入しているんです」
道中では村の主な事情について軽めにセレシアさんに説明していた。特に隠すほどの何かがある村ではないし、こういったことは話しやすいのだ。
「村に魔術師はいないの?」
セレシアさんがそう聞いてきたのに対して、ボクは首を横に振る。
「居た時期もあったそうなんですけど、今は一人も……元々、魔術師の家系じたいこの村にはなかったみたいで」
魔術は遺伝的な側面で当人の力量が決まる事が多い。魔術に向かない体質でもなりあがれなくはないが、それをするには莫大な資金を費やす必要がある。
「なるほどね。だから、術式の気配がしないんだ」
「術式の気配ですか?」
聞きなれない単語だ。魔術師の間では普通のことなのだろうか。
「そ、魔術師が特殊な術式を描いて魔力を行使するのは知ってるよね?魔力には体内魔力と空間魔力の二種類があるんだけど、魔術を使った場合、そこにあるはずのない物。空間魔力とは別に、術式発動に使用したその人の体内魔力が少なからず残留する。だから、気配でなんとなくわかるの」
それが魔術師の常識なのか、果たしてセレシアさんだから分かる事なのかは自分には計り知れないが、彼女のいうことは的を射ているだろう。
「そこまでわかるんですね。確かに、ここ十年以内に魔術がこの村の中で使われたことはないです」
彼女のことばを肯定する。
先導して歩きながらルクスは思った。この少女は本当にただの魔術師なのだろうか。と……
佇まいというか、雰囲気が精錬されているというか、空気感はおおらかで優しい少女なのにそれだけじゃない。上手く言葉にできないけれど、それがボクが彼女に抱いた印象だった。
◆
「着きましたよ。ここが村長の家です」
目の前には村の中でも際立って立派な三階建ての家がある。
「ありがとう。ルクスくんが案内してくれて助かったよ」
そう言って微笑む彼女に一瞬、見惚れてしまうが慌てて我に返る。
「あ、いえいえ、こちらこそ色々と話を聞けて楽しかったです!」
不思議とあったばかりのはずの彼女とは仲良くなっていた。
彼女の人当たりの良さがそうしてくれたのだろう。友達と呼べる人があまり居ないボクからすれば嬉しい事だった。
それから、村長に事情を説明してセレシアさんを客室に通してもらって、ボクはそのまま家に帰った。
薬草を届けたかったが、それ以上に疲れていたので明日にでも行こう。
◆
家に帰ってきて、ご飯もほどほどにベッドにごろりと寝ころんだ。
「はあ、疲れた」
実に濃密な二日間だった。
まだ昼間だが眠気が襲ってくるくらいには体力を使った。
「セレシアさん、か」
冒険者であり魔術師でもある少女。外見はボクと同じくらいなのに達観していて、物の説明もうまく、大人びた彼女に少なからず運命的な出会いをしてしまった。
雨の降る森の中で出会うなんて、まるで物語みたいだ。
「……明日も、会えるかな」
ルクスは自然と彼女にまた会いたいと思っていた。
明日の仕事は休みだし、薬草を届ければあとは自由なので訪ねて見るのもいいだろう。
瞼が自然と重くなっていく。
視界が少しずつと暗くなっていって、ボクは眠りに落ちた。
◇
村長さんの家の客室を貸してもらって、早速わたしはベッドに転がった。
「久しぶりのふかふかのベッドだぁ」
ずっと野宿だったでベッドの感触がずっと恋しかった。自然の中で休むとどうしても体が凝り固まってしまうから、女の子としてはベッドで寝られて、更に湯を張ったお風呂にも入れるのはご褒美に等しい。
村長さんは奥さんとの二人暮らしで、共に年配で私のことを快く受け入れてくれた。お風呂もこの家の物を貸してくれるみたいで至れり尽くせりだ。
「それにしても――ルクスくんか」
少女もかの少年の事を考えていた。
森の中で出会った不思議な少年。普通な様に見えてどこか異質な雰囲気の彼が、少し気になっていた。今まで出会ってきたどの人間とも違う気配で、どちらかというと『魔』に寄った存在感を感じた。
魔術師の家計はこの村にはないと言っていたけど、彼にはすこし何かありそうな気がしてならない。幸い、すぐに出立するわけじゃないので滞在している間にちょっとずつ知っていくことにしよう。
「あんな子に会ったのは初めて、また会いたいな」
彼女も自然とルクスに興味を持っていた。
これがただのありふれた恋愛感情であったなら、物語は慎ましく落ち着いたものであっただろう。しかし、違う形で物事は揺れる。
まるで、それこそが運命であるかのように……
今回はすこし短めです




