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色づく絆と結びの手  作者: 琴深矢 余暇
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第13話「変わったもの」

今回はゆったりとした回です(文字数すくなめです)


第13話「変わったもの」


ナハトが町を出て半日ていど経った時、彼は森の中層まで辿り着いていた。


極力魔獣との会敵は避けて、安全にかつ迅速に進んできたが日は傾き夕暮れ時に差し掛かっている。


「今日はこの辺りで野宿だな」


この森は一日やそこら歩き続けたくらいで踏破できるほど生易しくない。どれだけ立地に詳しく効率的に進んで来ようと最深部に辿り着くには、最低でも丸二日はかかる。場合によっては一週間かかることもある。


適当に火おこしの準備や簡易的な寝床を見繕って、ようやく一息つく。


「クロフィは大丈夫だろうか?」


彼女は正直いって、言葉選びが得意な方ではない。思ったことは割とズバスバ言うのでコミュニケーション能力自体はそこまで低い訳ではないと思う。

だからこそ、学院で生徒などに失礼なことを言ってトラブルになっていないとも限らない。


「……不思議だな。まだ会って一週間も経ってないのに、ここまで気になってしまうんだから」


ミサが放っておけなかった理由がわかる。オレも彼女のことは放っておけない。庇護欲とかそんなことではない。なんとなく、見ていると大きな運命の中心に彼女が居るような気がしてしまうのだ。


らしくもなく、この先のことを考えた。

そして、クロフィがどんな選択をするのかも気になった。







その頃、夕暮れ時の学院の医務室に二人の姿があった。

ベッドで横になり薄い寝息をたてるアイナと、その傍らで椅子に座り本を読むクロフィだった。


あの後、気絶したアイナは医務室に運び込まれた。幸い特に主だった大きな怪我などはなく掠り傷ていどで済み、起きるまで医務室のベッドで寝かされることになった。

その時、クロフィは「わたしがやったから、わたしが起きるまで傍で見てる」と言って医務室に残った。マリアから借りた戦闘魔術の教本を暇つぶしの種にして、彼女が起きるのを待っていた。


「……」


特に表情を変える訳でもなく、黙々とページをめくり読み進める音だけが医務室に木霊する。次第に少なくなっていく残りの紙が時間の経過を伝える。


クロフィは読み進めるのを一旦止めて、ふとアイナの方を見た。


変わらずに目を閉じ寝息を立てている彼女の事をジッと見つめていると、彼女の体が少し揺れ動いた。表情筋が揺れて、もぞもぞと何度か寝返りをうつ。


「うぅ……」


しばらくしてから、低い呻き上げて目を開けた。

瞼をパチパチと開閉して、瞳が周囲の様子を確認する。次第に体を起こして立ち上がり、グッと伸びをしてから声を発した。


「ここは」


頭の中の記憶は不鮮明で、寝起きの頭はまだそこに居るということを認識していなかった彼女の声を聞いて覚醒する。


「おはよう、体の方はだいじょうぶ?」


「え……く、クロフィさん?」


そこで、ようやく演習のことを思い出して、アイナは即座にクロフィに頭を下げた。


「申し訳ありませんでした!学長の客人相手に私はなんて無礼なことを――」


「別にいい。気にしてないし、わたしは怪我もしてないから、そっちこそもう一度聞くけど体の方はだいじょうぶ?」


クロフィは表情は全くの変化させることなく言葉だけを紡ぐ。


「……はい、特に痛みもないですし問題ないです」


まだ、謝り足りなかったが素直に返答する。


「そう、よかった。術式開放を使ったみたいだったから、心配していた」


アイナの無事を確認して、クロフィの表情がすこし和らいだ。その表情を見て、アイナがぽかんとした。

柔らかく自然な安堵の表情。しかし、それは無表情な彼女しか知らないアイナからすれば珍しいものだった。


「どうしたの?」


クロフィに声をかけられてようやく我に返る。

そして、その質問に対して素直に答えようか迷ったが、途中から考えをやめて返答した。


「いえ、その、そんな表情もするんだな。と、思いまして……ずっと無表情で感情の起伏が少ない人なのかと」


表情、自分の顔を手で覆ってみる。

自分は今、安心していた。感情がアイナのいう「そんな表情」を作り出したというのが、今のわたしには理解できた。

それを教えてくれた彼のことが浮かび、それを大切に包むようにして胸を両手で覆う。


「するよ、大切な人がわたしにくれたものだから」


クロフィはそう言って微笑んだ。


それから、クロフィとアイナは容態の報告にだけ行って、その日は既に遅かったのでお互いに自身の部屋に帰った。







学院内の中にある自分に割り振られた客人ようの宿泊部屋。

クロフィは部屋に戻ると、早速部屋に備え付けられているバスルームに向かう。


服を適当に脱ぎ捨てて、浴室に入るとまず初めにシャワーを浴びる。こうして、自ら体を清めるという習慣は自分にはあまり無かった。施設では妙な機械にいれられて、冷たい液体に浸して汚れを落とすだけだった。

こうして、暖かいお湯を浴びる場所をお風呂というのは知っていたが、実際に入った記憶はない。先日、初めてお風呂に入った時には少々戸惑った物の自分はこのお風呂を以外と気に入っていた。


頭をシャンプーで、体をボディソープで洗い流すと浴槽に浸かる。


「はぁ……」


自然とそんな吐息が出てしまう。今日は仕方なかったとは言え「限定解除」までやったので少々疲れた。最近はあまり戦闘という戦闘をしていなかったので、体が凝り固まっていないか心配だったけど問題なくてよかった。

湯船に浸かる自身の幼い身体を自身の指先でなぞる。淀みない乳白色の肌、傷や痣など一つもない美麗、これはナハトが治してくれたおかげだ。

わたしは別に傷や痣も別に気にしてはいなかった。そもそも、生に対する執着も曖昧だった。


でも、今はそうは考えない。

この命も、綺麗な身体も、全部ナハトが守り繋ぎとめてくれたものだから、粗末になんてできない。傷つけられたくないし、もっと生きていたい。


「もう、わたし一人の体じゃない」


自分が自分でなくなってしまった。わからないことが日々を重ねるごとにわかっていき、またすこし世界が広がる。

また、新しい場所に行けばわたしの世界は劇的に広がるのだろうか?


わたしはこれから先、なにをしたいんだろう。

次は5月の中旬辺りに出します

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