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色づく絆と結びの手  作者: 琴深矢 余暇
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第12話「本気の意味」

桜舞い散ってますねぇ

第12話「本気の意味」


戦うための力。

わたしに言わせてみれば、それは初めから自分の体に備え付けれた機能に過ぎない。自分の意思が介在しない領域でまるでアタッチメントを取り付けていくように追加していくように人とかけ離れた場所に近づいていく。

世間一般にはこれを、悲劇的というのだと学んだ。


「そう、あなたも……」


目の前で力を高めていく自分とそう変わらない少女。

程度や幅に差はあれど、自分と同じような境遇の気配を感じた。







生徒たちがざわめきだす。

アイナが発動させようとしている魔術がその原因だ。


「先生、アイナを止めてください!」


生徒の一人が慌ててマリアに進言する。


「アイナ……」


マリアは考えていた。

常に指導者としてのあり方に迷い。戦いを教えるものとしての矜持に揺らぐ。どれだけ厳しく魂の限り教えに尽くそうと命を落とす者は居る。

進むのが戦いの道であるならば、それは仕方のないことだ。教えるのが誰であろうと、身を守るのは自分自身だから。


そして、今回の状況も予測できていないわけではなかった。


だから、これは博打に等しいのかもしれない。アイナにクロフィという異常(イレギュラー)をぶつけて鬼が出るか蛇が出るか。だが、教師としては止めるべきだというのはわかっている。


さあ、どうでたものか。


「必要ない」


短い一言がしっかりと聞こえた。

そうして、判断をしかねていた時にクロフィがこちらに向かって告げた。


「これくらいは問題ない。負けないから」


声音はあくまで一定、焦りや緊張は感じられない。ただ、事実だけを告げる戦う者のそれだ。

生徒たちはその発言を自信の表れと取ったのか、ほとんどの者が彼女の雰囲気に圧倒されている。


「わかった。任せよう」


こうしている間にも、アイナの魔力が高まっていくのがわかる。並みの使い手であったなら、必死で助けを求めているであろうほどの威圧感を目の前にして、この余裕だ。


さあ、この博打はどう転んだものか。







固有魔術はそのほとんどが最上級クラスの魔術と同じ威力を誇る。

術式構文や性質の話をしだすと複雑なんてレベルは軽く超えるので、難しいことはわたしにもよくわからないが、その凄まじさはよく知ってる。

前置きが随分長かったが、ここからが本番だ。


アイナの魔力の高まりが最高に達して、こちらを見据えた。


「空の風域、発動」


その一言が開戦の合図となる。


アイナが跳躍し飛び上がり、順手持ちに切り替えたダガーで斬撃を繰り出す。迫りくる刃を、身体硬度を上げ腕をクロスさせ受け止める。

腕にかかる圧力がさっきまでの比じゃない。足を起点に地面が蜘蛛の巣状にひしゃげる。


「くっ……」


しかし、本来なら今の一撃は後の隙を考えて躱すべきものだった。それをしなかった……いや、できなかった。


「さっきみたいに躱さないんですか?」


出来たらしている。しなかったのはアイナが早すぎて間に合わなかったからだ。そして、それほどの早さを伴った斬撃は何倍も重い。だから、弾くことも難しい。


身体強化の段階を上げてダガーを打ち払い反撃。


手加減無しに突き出された拳はアイナが後退したことで空を切る。


今の動きも恐ろしく早い。


「動き出しは見える。それ以外は目視不可能」


状況を整理する。

まず飛び上がりからの落下加速を積んだ初撃、続くわたしのカウンターの回避。速度は今のわたしでは追いつけない。アイナが使う術式の内容は身体強化の類?


「動かないなら、こちらから行かせてもらいますっ!」


アイナが動く、今度も動き出しは見えるが……


「見えない」


背後に危険な感じがして、咄嗟にカウンターを繰り出す。拳と刃が衝突して互いに弾かれる。間髪入れずに回し蹴り、アイナも蹴りを合わせる。

脚と脚がぶつかり、弾かれ距離が離れる。


「今の感触――」


今の蹴り合わせ、手応えが生身の物じゃなかった。まるで足なにかに跳ね返されたみたいな。


「空の風域……なるほどね」


わかった。アイナの固有魔術の正体が……


「まだ、受けに回り続けるつもりですか?」


「ううん、カードはもう出そろったから、その必要はない」


受けではなく攻撃の構え、もう初見潰しは恐れない。ここから一気に決める。


「反撃開始」




身体強化・段階上昇

姿勢を低くし足に力を込めて地を蹴る。やることは単純、接近して拳か蹴りを当てるだけ。

意思に従って足が体が動く。最速でアイナに近づく。


「来たっ!」


初撃の拳打はアイナのガードを破ることなく跳ね返る。放った拳が何度弾かれようと、防がれようと、当たるまで途切れなく放つ。放っては退く、放って離れる。ホット&アウェイの戦法。ただ正面から連続攻撃を行うなど面白くない。相手が縦横無尽のスピード勝負を好むなら彼女よりも使い手として格上のわたしはそれに則って勝負してあげよう。


「今の私にスピード勝負を挑むつもりですか!!」


アイナもわたしを追う。互いの攻撃が交差する度に周囲の空気が断裂する。

ただ一撃で終わる単発なんて攻撃とは言えない。決まらなかった衝撃は全てが囮、命中したそれが本命となる。


「なぜこちらの土俵で戦おうとするんですか!?」


「わたしもスピードには自信ある。ただ、それだけ」


嘘は言っていない。真剣にはやっているのだし、戦い方についてはとやかく言われる筋合いはない。

拳と刃が拮抗し、手と手が組み合い、一進一退の攻防が勝負を停滞させる。


「あなたの魔術、発動と同時に周囲の風を操れるようになる。まだ、完全には使いこなせてないみたいだけど」


【空の風域】という、術式名が意味する通りの能力というわけだ。

この能力を使って加速するからあれほど速い。打撃が届かないのは、恐らく空気を集約させて纏っているからだ。しかし、それほどの魔術なら自身に纏ったりする以上に、相手の動きを制限したり遠隔で風の刃を発生させたりもできるはず。それをしないのは、アイナがこの術式をまだ使いこなせていないからだ。周囲の空間などに作用する類の魔術を扱うには、凄まじい経験と練度を要求される。途方もない認識能力が必要になる。

遠隔で術式を発動させるのに、普段より集中力と時間が必要になるのはその為で、発動させる位置が自分から少し離れるだけで途端に難しくなる。


「戦闘においては魔法(・・)にも匹敵する優位性がある。どれも強力な固有魔術の中でもかなり使い勝手の良い能力」


固有魔術を使える者は稀有だ。大陸に数人いるかどうかというレベルで希少な存在であり、その中でも、この汎用性の高さは素晴らしいと言っていい。

だからこそ、彼女がここまで不安定な理由がよくわからない。


「さっきも言ったけど、なにを焦ってるの?ゆっくりと伸ばしていけば、確実にその魔術の真価はあなたを裏切らないのに」


技術や能力は才能があろうと一長一短で身にはつかない。


「指導や説教なら勝ってからやってください!」


「そう…わかった」


本人がそれを所望するなら負かせてあげよう。


「ふぅ……っ!」


息を吐き、拮抗する刃を腕に流した魔力を放出して払いのける。


「それじゃあ少し、本気を出す」


周囲の魔力を身体に集める。


「魔力定着、術式起動」


魔力を術式に変換、発現する効力の対象を自分に設定。

基本術式に様々な情報を付け足し、構築を完了する。


「身体魔力一段階目、解禁」


クロフィの身体に纏わりつくように出現した魔術陣に、新たに出現した陣が重なり跡形もなく砕け散る。

それと同時に彼女を中心として、膨大な量の魔力と威圧感が放たれる。


「これ、は……」


アイナはまるで信じられない物でも見たような目で彼女を見る。


次元が違う。今のワンアクションだけで周囲の空気そのものが悲鳴を上げた。


風が彼女を避けて通り、空間に漂う魔力が質を変える。


「何をしたんですか?」


アイナはそう聞かずにはいられなかった。


「難しいことは何もしてない。ただ、体内魔力の一部を解禁しただけ」


体内魔力の解禁。

クロフィは研究所にいた頃、異常なまでの魔力の高さから暴走を危惧した研究者たちに、それを封印する術式を付与されていた。本人はそんなものいつでも解除することができたが、別にあっても負けることはなかったのでずっとそのままにしていたのだ。

今彼女は、複数ある制御式の一つを解除した状態ということになる。


「体内魔力の解禁って、それじゃあ今までのあなたは――」


「おしゃべりは――終わってから」


クロフィの姿が消える。

アイナがそう認識した時にはクロフィは目の前にいた。一蹴にして接近したと文字に起こせば簡単に聞こえるが、その速さが尋常ではない。アイナは自分の固有魔術を使いこなしてはいないが性質はよく理解している。自分の魔術は対人戦において魔法(・・)を除けば最強クラスの術式であるという事を……


でも、見えなかった。


速さと思考・反応速度には相応の自信がある。そんな自分が全く見えない領域での移動。動く気配にすら追いつけなかった。


「こ、このッ!」


苦し紛れの迎撃、空気を圧縮して纏わせたダガーを振り下ろす。しかし、そんなものが彼女に通じる訳がない。


「……」


覇気や声なき無言の一閃がアイナの鳩尾を捉える。


「く、ぅ……」


息つく間もなく地に伏せる。そのままアイナの意識は沈んだ。

次は4月の中旬~下旬あたりに投稿します(もしかしたら2本出すかも)

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