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色づく絆と結びの手  作者: 琴深矢 余暇
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第11話「固有魔術」

そろそろ、用語とかの解説をぼちぼち入れようかな

異変は始まる。

前触れなく、勢いを持って、押し寄せてくる。

物語とは転換点なくして始まらない。ファンタジーなポエムの綴りにトラブルが色を落とす。




第11話「固有魔術」




冒険者ギルド・ノーブル支部

その応接室に、ナハトはいた。


「それで、森の方の状態は今のところどうなんだ?」


ナハトが質問する相手。この国では珍しい純色の黒髪、そして顔に武将傷を揃えた男。それが、今回彼に調査の依頼を出したギルド・ノーブル支部の支部長代理、クリス・ミッドナイトだ。


「正直言って、かなり深刻だ。依頼で森に入った冒険者達からの報告によれば、本来は深層からは降りてこないはずの魔獣数種が中層域あたりで確認されている」


机の上に数種の魔獣がリストアップされた紙が置かれる。

それを見て、ナハトも目を細める。


「オオカミ系の変異体や大型系統が度々確認されているが、主に降りてきているのは鬼人(オーガ)種か……確かにあまり芳しい現状とは言えないな」


鬼人(オーガ)は成人男性の倍はある体格に固い岩をも簡単に打ち砕く剛腕、更に狡猾な知性を持った厄介な魔獣だ。当然、分類される等級も高水準、弱い個体であっても【ハイエストランカー】クラスの冒険者でなければ単独討伐は不可能と言われている。普段は森の深層からは滅多に出てこないが、ここに来て中層域で頻ぱんに出没しているというのはかなり危険だ。


「ギルド側としては新たな変異体、更にはその先まで考えて事態を検討している。そして、その確証の為に……」


「オレに頼ったって訳か」


クリスは頷く。

確かに、今回の森の異変。調査を任せるなら最深部にだって潜れるくらいの実力者が欲しいというのもわかる。


「昨日、ミサが出ていたのはそれ関連か?」


「ああ、俺は止めたんだが……マスターがどうしてもこの目で確認すると言って聞かなくてな」


疲れた感じに肩を竦めるクリス。

まあ、ミサの事だからそう言う展開は想像に難くない。そんなことする暇があるなら、クロフィのことも自分で迎えに行って欲しかったが。

しかし、何はともあれ事前には受ける言っていたんだ。深刻な状況なのは確かだし、表立って被害が出る前に方はつけたい。概要を聞いた感じ、オレの立場的(・・・)にも放っておけん事柄だ。今回は真面目にやるとしよう。


「よし、分かった。とりあえず、出来るだけ奥まで潜って調べてくれば良いんだな?」


そう言って、席を立つ。


「感謝する。報酬は弾ませてもらおう」


「おう、そうしてくれ」


こうして、オレはギルド支部を後にした。







「こ、これは……」


砂煙立ち込める訓練場。

起こったことを言葉にするならば、一瞬にして勝敗は決まった。否、勝敗は始まる前から決まっていた。だが、そこに至るまでの過程があまりにも簡潔だった。

そこに悠然と立つ銀髪の少女と、その足元で気絶している生徒たち。

全員一撃でダウンさせられ、そこに駆け引きや技の押収はなかった。


「予想はしていたが、あの歳でこのレベルとは恐れ入る」


マリアはクロフィの実力を見ようとも考えていた。流石に半人前の生徒相手では本気は出さないだろうが、少しでも動きを見られれば実力は案外正確に測れる。

そして、結果は予想を越えるものだった。無駄のない動き、体内での魔力運用、そして技、純粋な拳打を武器とする闘士しては至高の領域に近い身のこなしだ。攻撃される場面がなかったので反応速度の方は見切れなかったが、それもこの次で垣間見えることだろう。


「流石の実力だな。クロフィくん」


生徒たちに指示を出して気絶した四人を医務室に運ばせて、クロフィに話しかける。


「うん、準備運動くらいにはなった」


そういって、少女は軽く伸びをしている。壮年の戦士ならば凝りがパキパキと音を鳴らしそうだが、少女の身体は年相応に軟かいのでそんな事はない。自分もまだまだ若輩だが、この少女は更に若い。体格は恵まれてないかもしれないが、むしろ小柄な上であそこまでのパワーが出せるのだ。女として戦うならば、ここまで理想的な体型もないだろう。


「……次が最後、そして、本番」


少女はまばらに散らばる生徒たちの一角を一瞥した。


「ほう、やはりわかるのか?」


視線の先にいるのは、マフラーを巻いた茶髪でポニーテールの少女。アイナ・F・ピースフル、この演習における最後の班のリーダーにして、クラスの中でもブッチギリの実力を誇る生徒だ。


「並みの使い手の練度じゃない。一番強い」


彼女は初めて私を見た時も一目で実力を見抜いて見せた。ただ、観察眼が凄まじいというだけではないな。


「ご明察、アイナはこの中でもブッチギリの最強だからな。もしかしたら、流石の君でも少し危ないかな?」


「ちょっと、その気にならないと足元をすくわれるかも」


純粋な警戒の言葉。しかし、それとは裏腹に銀色の瞳は今までと同じく無彩色で焦りや緊張は欠片も感じられない。


「ふむ、そうか。まあ、そこそこに頑張ってくれ」


マリアはそれだけ言って、一足先に距離を取った。クロフィの余裕の意味、それを知っているかのように。







少しの休憩の後、すぐに最後の戦闘を始めるように指示が出された。

さっきと同じように、相手の生徒と対比する位置に立つ。


「ふぅ……」


短く呼吸。

さっきは相手の実力が知れていたので、見栄え程度で適当に構えたが、今度はちゃんと相手を見据える。

視線の先には短剣を持った茶髪の少女。マフラーをしているので口元が見えないが、表情は完全なポーカーフェイス。


やはり、他の生徒たちとはレベルが違う。


マリア程ではないかも知れないが、かなり鍛え上げれている。

その証拠に相対しただけで、その練度が見て取れる。そして、後ろに控える術師三人、あくまでアシストだけ適当にやらせて一人でやるつもりらしい。


「それじゃあ、始めてくれ」


合図、それと同時に思考をシャットアウトする。

ここは研究所じゃない。だが、戦闘である以上は本気でやる。でないと……


「ッ!」


反射的に姿勢を倒す。案の定、さっきまでわたしの頭があった場所に短剣の一閃が通り過ぎる。


速い。


こういう風に不意の一撃で安易に刈り取られる。

戦いの勝敗は、単純な強いかどうかでつくほど甘くはない。


「やるね」


その一言と共に、牽制で蹴り上げを放つ。

斬撃を空ぶった前傾姿勢、普通なら顎に直撃するが、姿勢を上手く変えて空いている方の手で弾かれる。

蹴り上げの勢いを殺さずに跳び上がり、空中をクルクルと回ってから距離の離れた場所に着地する。


相手はすでに体勢を整えて構えている。


わたしもすぐに構える。


「強いね。マリアが言うだけある」


そう言うと、相手が始めて言葉を発した。


「……準備体操はこれくらいで良いですかね?」


それは挑発とも取れる言葉。まあ、確かに小手調べをしたのは事実だ。けれど、それを言うなら……


「そっちこそ、後ろの術師三人は飾り?」


戦いの最中にこんな会話をするのなんて、生まれて初めてだ。

今までは戦いとは研究者がわたしを測る為の実験に過ぎなかった。だから、少しでも気を緩ませれば待っているのは死だけだった。

だから、今の状況は素直に楽しい。


「使えば、本気を出すんですか?」


「さあ、やってみればわかるんじゃない。準備体操は終わりなんでしょ?」


調子に乗って、ミサやナハトの口調を真似てみる。

終始無表情なのは変わりないけど。


「……」


後ろに指示を送ると、術師三人も息を合わせて魔術を発動させた。幾枚もの術式が浮かび、粒子となってアイナに付加される。


「相手を、自分を甘く見ていると、痛い目を見るかもしれませんよ?」


空気が変わる。

附与されたのは恐らく身体強化の上位魔術。なるほど、威圧感がさっきの倍にまであがった。


「……」


ここから、会話は不要だ。

後は向かってくる敵を叩き潰すだけ。


さっきの比ではない速度で距離が詰まる。


「せあ!!」


繰り出される斬撃は先程のような単発ではなく、高速の連続剣。


「っ」


両手を手刀の形にして、目を見開いて敵の動きを見る。そして、襲い来る斬撃を後退しながら一つずつ捌く。

手首、刀身の側面、刃ではない部分に的確に当てて軌道を逸らす。


合計にして百回ほど弾いても、相手の勢いは衰えない。

このまま体力勝負をしても良いけど、攻めれるだけというのも面白くない。


「……!」


斬撃の隙間、僅かなタイミングを見計らって相手に軽く体当たりする。


「くっ」


連撃を最小限の動作でブレイク、一瞬とは言え怯む相手。

拳を握りしめ、半身ごと引き絞る。


「えい」


気の抜けるような掛け声と共に振りぬかれた拳が、腹に突き刺さる。


「ぐっ……は!?」


そのまま勢いよく吹っ飛ぶ。

地面をゴロゴロと転がって、後方の術師の所まで到達してようやく止まった。


「だ、大丈夫?」


術師の少女が、アイナに近づき手を伸ばす。だが……


「必要ないです!これくらいで、大袈裟」


それを振り払って、立ち上がる。

だが、もろに入った打撃のダメージは軽くなく、腹を押さえている。


「でも、そんなにふらついて……」


心配する術師をアイナがキッと睨む。


「必要ないと言ってるんです。二度言わせないでください」


「……わかりました」


術師は逡巡したが、結局後ろに下がってしまった。


「さあ、続きを――」


「回復の魔術、かけてもらった方が良かった」


わたしの言葉が彼女の言葉を遮る。


「さっきの打撃はそこそこ力で打った。魔力はそこまで込めてないけど、ダメージは大きい」


「なにが、言いたいんですか?」


アイナが俯きがちに言う。


「折角の術師が勿体ない」


術師をサポーターとしてのみ使うのは、まだいい。けど、それなら回復やら軽い援護射撃くらいはさせないと置いている意味が薄れる。

身体強化のみ任せて、自分は特攻。四人班という条件に取って付けたような役割。その身体強化も、おそらくは自分一人でもできる程度のものをやらせている。

つまり、アイナは自分一人だけ実力で相手を倒すことにこだわってる。


「なにが理由かはわからない。でも、意味ない」


真面目な事を言う時ほど、普段の言葉足らずな口調になるのは良くないのだと、ナハトと行動して知ったけど、この様な言い方しか今はできない。

そして、それが彼女の心に触れた。


「なんですか、それ?」


ゆっくりと、俯いた姿勢からこちらを向く。


「良いですよ。それなら……もう、こっちも訓練なんてやめです」


辺りの空気感がまた変わった。


「ん?」


そして、アイナの様子もさきほどまでとは別物の張りつめたもの変化する。


周囲の魔力がアイナに集まりだした?

何をするつもり?


「術式開放」


その言葉をトリガーに、アイナの足元に魔法陣が出現して弾ける。それと共に凄まじい突風と緊張感が周囲を威圧する。

内側で高める身体強化の魔術にしては、魔力の外部放出量が多過ぎる。かと言って、外界に働きかける類の代物でもない。

それに、【術式開放】は禁術指定こそされていないが、かなり危険な技だ。魔術を扱う者にとって、【術式開放】は必殺の切り札と言っても良い。現段階で起動している全ての魔力を解除するのと引き換えに、普通では有り得ないほどの魔力の出力が可能になる。


しかし、【術式開放】はその性質上使用するのに大きなリスクを伴う。常人を越えた魔力と一口には言っても、それはどれだけ低かろうと一個の師団クラスの魔力になる。

そんな魔力を扱う以上、もし失敗して暴発でもしたら使う術式によっては周囲への被害も大変なことになる。それに、場合によっては術者が二度と魔術を使えなくなる例だってある。それ以外にも、体の部分的な壊死なども考えられる。だから、禁術指定寸前の危険な技なのだ。


そして、そんなことをしてまで発動させたい魔術。凡庸な魔術師ではお目にかかる機会すらないない。国内でも使用可能者が数人いるかどうかの才能の極地。


「固有魔術――」


ここで始めて、わたしは自覚する。

使わせてはいけない物を、自分は引き出してしまったのだと。

次話は四月始めくらいに投稿します

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