第1話「始・第一章」
こんどはうやうやむやにせず、書ききって見せます!!
一枚の紙、依頼書を確認して歩を進める。
町を外れた、薄暗い森の中、ある場所を目指す。
第1話「始」
少し木々を潜り抜ければ、目的の場所は見えた。
「ここだな」
廃れてはいるものの、つい最近まで人が居た形跡のある石造の立派な建造物
打ち捨てられてから、大体一か月程度か?
明かりのない建物の中を進みながらも、逐一の警戒は怠らない。
空気があまり良くない。すぐにでも、目的を果たしたいところだが、如何せん広い。
建物内の情報を手に入れようと、資料をあさる。
Artificial Angel、資料にはそう書かれてある。
人工天使とは、また忌々しい名を付けたものだ。前任者には畏怖の念が堪えないな。
ここは魔術関連の研究所で間違いない。人体実験の資料も多数見つかる事から、法外な事にもかなり手を出していたはずだ。
オレも他人の事を言えた義理じゃないが、ここの責任者は相当な狂人だな。
■
発見した見取り図と、数枚の資料を元に目的の場所を特定する。
「随分と厳重だな」
本命は地下室にあり。どの時代でも、どの世界でも、危ないモノや見られたくないモノは地下に隠す。
鉄製の厳重な扉に、幾たびも備えられたトラップ、ここにいる者を相当に逃がしたくなかったと見える。
殺傷性の高い罠もいくつかあるが、まあ、この程度なら問題ない。
「特に、結界がかなり複雑だ」
この魔術世界において、見せたくないものには取り敢えず結界で蓋をするが、ここはその数も強度も相当だ。
「到着っと」
全ての警備を潜り抜けた先には、ひとつの牢屋がある。
扉は打ち破られていて、中にはすんなり入れるようだ。
さて、問題はここからだな。
緊張感もほどほどに、牢屋の中に入る。
「……だれ?」
声が聞こえた瞬間、あたりの空気感が変わる。
声が聞こえた方、牢屋の隅っこに視線を移すと、やっと見つける。
「オレは冒険者だ。Artificial Angel、依頼で君のことを保護しに――」
「帰って」
突き出される拳。
言葉を遮るように放たれたそれは、ある意味を不意打ちにも等しい上にかなり速い。
「話は、最後まで聞こうな?」
「――ッ!?」
だがそれを、難なく受け止める。
放った相手は、一発で仕留めきれると思っていたのだろう。すぐに、拳を引こうとする。
「くっ、離して……」
オレは突き出された拳を引けないように、力強く握り固定する。
攻撃した本人である少女は若干顔をしかめて、生気を感じさせない目で睨む。
「攻撃しないと約束できるか?」
聞くと、少女は首を振る。
「それは無理、攻撃しないと、殺される」
なるほど、これは凄まじいな。
「因みに聞くが……誰にだ?」
「あなた以外に、誰かいる?」
「オレはそんなことはしない」
目の前にいるのは、まだ年端もいかない少女だ。
流石のオレでも、罪も無い子供を殺めるようなことはしたくない。
「だったら、離して」
「離したら、また殴りかかるだろ?」
「当たり前」
まさに聞く耳持たずだ。
別段、殴りかかられても負ける気はしないので、離してもいいのだが……この少女、見た目に似合わずかなり強い。
相当高位の身体強化魔術をかけているとみて、間違いないだろう。肉体もかなり鍛え上げられている。今の打撃もオレだから簡単に反応できたが、少し腕に自信がある程度の使い手ならば本当に1発ノックアウトだっただろう。
そんな少女とこの閉鎖空間でやりあえば、加減を誤って怪我をさせてしまう危険性がある。
「だったら、断る。オレは殴られたくない」
「私は、殺されたくない。顔もよく見えない相手と話すなんて、無理」
いや、それは誰だって同じだ。
しかし、良い事を聞いた。確かに、ここは暗くてモノも見えずらい。
「……そうだな。これだと、お互いの顔も暗くて見えずらい。よし」
オレは空いている方の手で人差し指を立てる。
少女は警戒して、びくりと震える。
人差し指に意識を向けて、光源をイメージする。
指の上に、小さな光が出現し牢屋内を照らす。
「これ、魔術……」
「その通り。しかし、光量が少し眩しいな」
小さくなるように念じると、光は少し減少して丁度良くなる。
魔術、それは……
自然界を漂うエネルギーである魔力を操作し使用する術方。式の組み方によって効果は様々、応用方法も戦闘面のみに留まらず多岐にわたり、現代の人々にとっては無くてはならない物と化していた。
「さてと、これでよく顔が見えるな」
視線を移して、少女の方を見る。
銀色の目がこちらを見つめる。
外見は十代半ばくらいの少女で、全体的に小柄だ。腰まで届く髪の色は白銀。肌は白く、こんな場所に長くいたせいかかなりボロボロだ。しかし、それでも隠しきれない程の人間離れした神秘性を感じさせる。
もちろん、整った童顔は可愛らしいと言えるものだが、人間離れした美貌からはそれ以上の何かを感じる。
ただ、全体的に見て悲惨なことに変わりはない。奴隷服と言えるほどに粗末なボロ衣や、痩せ細った傷だらけの身体は、およそ年相応のものとは言い難い。
白い肌にちらつく生々しい裂傷や痣の数々は、その赤みや状態からも相当に酷いやられ方をしたのが見て取れる。
それを見て、内心にぐつぐつとした怒りが累積する。だが、それは表に出さずあくまで冷静にやりすごす。
「こんなことして、なにが目的?」
「言っただろ、保護しに来た。ミサ・ハート、からの依頼でな」
その名を口にした途端、少女の瞳が揺らいだ。
「オレはナハト。冒険者だ。彼女が君を探してる」
次回は10月10日に投稿します
作者「今度こそ、物語を終幕に持っていきます!」