伯爵令嬢は兄嫁に離婚を促す。
遅筆です。
全体的には出来上がってますが、上手く纏まりません(^o^;)
サリエ・アルカナ・エインズレイ侯爵令嬢は、困惑していた。
連れて来られた婚家であるサザランド伯爵家の、余りに歓迎とは程遠い冷たい空気に・・・。
エインズレイ侯爵令嬢の前には夫であるルーク・サザランド伯爵の実妹が、隣に腹心らしき侍女を侍らせて堂々と立はだかっていた。
伯爵令嬢も侍女も非常に苦々しい表情だ。
胡桃色の髪を引っ詰めに結い黒に近い茶色の瞳、ベージュの詰襟長袖のシンプル且つ草臥れたドレスを纏った地味な侯爵令嬢を、美しい金髪と青い瞳の華やかな伯爵令嬢が見下ろしている。
身に纏う装束も色こそ藍色と派手ではないが、質が良く装飾も華やかなドレスを身に付け、普段使いとして出過ぎない程度の上品なアクセサリーを身に付けている。
(勝っているのは身分の侯爵令嬢ってとこだけね・・・。)
と、サリエは自嘲気味に考える。
「こんにちは、エインズレイ侯爵令嬢。貴女の為に申し上げますわ。お兄様の為でもありますので、この際ハッキリさせたいと思いますの!」
キッとして私を見詰める眼に迷いは無い。
「お互いの為にも貴女、お兄様と離婚して頂けないかしら?!」
(・・・は?婚姻届に署名したのって昨日ですよね?それでもって、サザランド伯爵家に来たのがつい先程・・・。いくらなんでも早すぎません?)
そして目の前に突き付けられたのは離婚届の書式。
「お兄様は貴女との結婚に同意しておりませんの。とっくに無効だと思っていた婚約を今更持ち出されて、強引に婚姻届に署名させられたのですわ!」
「はあ、あの・・・、では旦那様も離婚をお望みという事でしょうか?」
そう言うと、サザランド伯爵令嬢(名前を知らない!聞いて無い!)は顔をしかめた。
「当たり前でしょう?!お兄様はなんとか婚姻を回避すべく、色々努力なさったというのに、貴女の父親ときたら・・・全く話が通じない!」
(でしょうね、私も激しく同意しますよ~。)
ほとんど会ったことの無い父親の顔を思い浮かべながら、サリエは『さもありなん。』と思った。
(私に言われても嬉しく無いと思いますが、サザランド伯爵家の皆様もお気の毒ですわねぇ。)
思わず遠い目をしていると、サザランド伯爵令嬢は更に苛立ちが募った様子だ。
「ちょっと、貴女!此方が何も知らないと思って甘く見ているの?!」
(・・・は?!まさか例の事がバレてる?!)
サリエは一瞬焦ったが、続いてサザランド伯爵令嬢が発した言葉に安堵した。
「貴女がエインズレイ侯爵の愛人の子で、ずっと平民として暮らしていた事も恋人が居る事も、ちゃんとアマリア様から聞いております!」
『成程、これで合点がいった』とサリエは内心で呟いた。
自分の半分だけ血が繋がった妹が、サザランド伯爵令嬢にあることないこと吹き込み、それを信じた伯爵令嬢は兄を侮辱されたといきりたっているという訳だ。
まあ、確かに由緒正しき伯爵家にしてみれば、馬鹿にされたと憤るのも無理は無い。
見るからに真っ直ぐな気性の伯爵令嬢にしてみれば、言われた事に驚き頭に血が昇るのは当然の成り行きといったところか・・・。
そもそも今回の縁談をサリエが聞いたのは昨日の朝で、呼び出されたエインズレイ侯爵家で3日待たされた後の事だった。
急な結婚に驚き、抵抗するサリエに告げられたのは、ほとんど会ったことの無い父親の無情な言葉。
「予てよりサザランド伯爵とお前は婚約していた。約定により伯爵に嫁いでもらう。異論は一切受け付けない。」
それだけ言うともう用は済んだとばかりに、父である侯爵は言葉を切り姿を消した。
次に父が現れたのは、サザランド伯爵との婚姻届調印の直前であり、有無を言わさず婚姻届に署名させられると、満足げな父に調印式に使われた応接室を追い出されてしまった。その後、何の話し合いが有ったのか、サリエには全く分からず今に至っている。
サリエに分かっているのは以下の点である。
1.サザランド伯爵家はこの結婚に納得しておらず、離縁を望んでいる。
2.サザランド伯爵家の意思を無視して、サリエはエインズレイ侯爵たる父に因って嫁がされた。
3.父であるエインズレイ侯爵の評価は底辺で、大変嫌われているらしい。
4.おそらく、一旦結婚さえすればエインズレイ侯爵家とサザランド伯爵家の面目は立つ。
これらを踏まえた上で、サリエとその仲間達は動き出す。
サリエにとっても婚姻破棄、離婚は望む所だ。
ただ問題は、それがちゃんと正式に行われる事であり、そこが曖昧なままでは非常な不安を残す事になる。
今のところ、離婚を明言しているのは夫の妹であり、本人である夫のルーク・サザランドではない。本人の意思確認は必須事項である以上、取り敢えずルーク本人に面会する必要がある。
だが肝心の本人は最後に会った後、仕事で呼び出しを受けたらしく、王宮に参内し屋敷には一度も帰って来ない。騎士団という職業上、任務に因っては何日も帰れない事をサリエはよく知っていた。
『あと何日でお帰りになるのか?』
それに因ってサリエのとるべき行動は変わる。ただあまり猶予は無いのだ。サリエにも都合というものがあるのだから。
困惑するサリエにサザランド伯爵の妹は、一方的に言葉を繋ぐ。
「貴女、この書類に署名して出ていって下さいな?!粘ろうとしても無駄よ!我が家は貴女を歓迎していない。食事も寝床も用意する意思は有りません!」
『つまり、ここに滞在するのに必要な事を与える意思が無い、という事ですね~!』と冷静に理解しながら、サリエはサザランド伯爵家に滞在出来る期間を3日と計算した。
あくまでも表面は困惑するする様子を見せながら、今後の予定をはじき出すサリエに気付かず、サザランド伯爵の妹は言いたい事だけを言うと退室していった。
一人になった部屋で、サリエは大きな溜め息をついた。
この屋敷の人間がどう考えているかは知らない。再度言うが、なんとしてでも伯爵本人から、確たる言質を取った上で去らねばならない。このままでは大きな不安を残してしまう。
寝台の無い応接室に滞在するのは、サリエにとって障害にはならない。食事が出なくても、サリエには非常食が有る内は問題無い。(サリエは非常食を持つ習慣が有る。)
ただ現在は無為に時間を過ごす事を許さない状況に有った。
困惑しながらサリエは行動の指針を決定する事にした。
読んで下さり、ありがとうございます。