眩しいワイシャツ
宴も酣になってくると、酔いが回ってきた一郎はスーツの上着を脱いだ。
目に飛び込んできたのはネクタイにも丁寧にアイロンがけされて、ピンと糊がきいたまっ白なワイシャツ姿。襟も袖も、ハンカチも。どこもかしこも奥さんの手がかけられており完璧な仕上がりだった。まったく隙がない。
香澄にはそのワイシャツ姿の一郎が眩しく見えて仕方がなかったのだ。丁寧に仕上げられた一郎の姿からは、嫌でも奥さんの存在が感じられる。
「クリーニングに出すとワイシャツもスゲー高いんだよな~。うちはかみさんがアイロンがけしてくれるから助かるけど…」
そんなふうにアイロンがけしてくれる奥さんへの感謝の言葉を聞いた途端に、香澄の気持ちは一気に冷めたのだ。驚くほどに…。
目の前にいるのは一郎には違いないけど、もう昔の一郎じゃない。そう思い知らされた。
“ワイシャツ”の話を聞いた時、香澄は一郎の事を、もう“ひとりの異性”としては意識出来なくなっていた。彼は奥さんのもの。既婚者なのだ。そんな彼とどうこうなるだなんて…考えちゃいけない。
一郎はやっぱり“友達”なのだ。それ以上でもそれ以下でもない。ただの“大事な友達”なのだ…と。
しかし、
なぜか香澄は、微かな期待を裏切ってくれた一郎と、彼の奥さんに感謝したい気持ちになった。“ありがとう”…と。
それは、微かながら(もしも不倫になったら…)という香澄の危うい気持ちを抑えてくれた事と、数年ぶりに会った一郎が、奥さんのおかげで見違えるほど“いい男”になっていたからかもしれない。




