変わった外見、変わらぬ中身
「それにしても。ふたりとも全然変わってないね~」と、千晶は綺麗にネイルされた指で、香澄と一郎を代わる代わる指差した。
「そうだね~」と一郎も香澄も、千晶に返事を合わせたが、何年ぶりともなれば、さすがに変わっていないことはない。
香澄ももう“あの頃”とは違う。
あれから…
幾つもの社会の荒波に揉まれて挫折もしたし、幾つかの本気の恋や悲しい失恋も重ねてきた。
その都度、まるでターミネーターのように復活してこられたのだが、純粋に幸せな未来を夢見ていた“あの頃”とは違う。
現実的なものを重視するようにもなってきたし、歳を重ねる毎に、恋にも転職にもだんだん慎重に、そして臆病になってきた。
だけど、昔から変わりたかったところは、残念ながら何も変わっていない。
実は今。
同じ会社に少し気になる男性がいるのだが、引っ込み思案な性格が災いして、やはり告白出来ないでいるのだ。
今までの恋はすべて相手の方から告白されてスタートしてきた。
体型も肌質も、二十代前半のピチピチだった頃と比べたら、少しは絞って変わったし、年齢的にはだいぶ大人になったはずなのに…。
自分が変わっていないのは“臆病”なところなのかもしれないな…と、香澄は思わず自分の事を振り返って、クスッと笑った。
(3人の中では、千晶が一番変わったかもしれないな)
一郎に向かって夢中で話す千晶を眺めながら、香澄は思っていた。
バレエで鍛え上げられたという、しなやかで華奢な面影は一体どこへやら…。
贅沢な暮らしのせいなのか、はたまた出産や育児、不規則な仕事や接待のせいなのか…。自慢だった彼女の体はすっかり丸みを帯びていて、いかにも高級そうな有名ブランドのワンピースがきつそうに見える。
真っ黒で艶々していて自慢だったストレートなロングヘアも、今はまるで外人のような金髪に変わった。ストレートヘアはふわふわのウエービーヘアになり、おでこを全開にして無造作に束ねられていた。
髪全体にキラキラ光るラメが振り撒かれていたが、彼女のイメージからはほど遠く、どこか不釣り合いに見えるのは何故だろう…?
千晶は買ったばかりの指輪を自慢していたが、香澄は目の前の千晶に、昔の“お姫様”の面影を感じられず、少し残念に思いながら見つめていた。
しかし、彼女の“存在感”は健在だった。
洋服やバッグも立派なブランド品で、香澄にはとても買えそうにない。
靴も、洋服に合わせて何十足も持っているというご自慢のフェラガモで、彼女のリッチな生活ぶりが一目でわかる。
けれど、見た目は変わっても、内面は昔と変わっていなかった。
何よりも変わっていなかったのは、彼女の“マシンガントーク”だった。
いや、千晶の強引なほどの自己アピールぶりは、むしろ以前よりパワーアップしたようにさえ感じる。
「通ってるダンス教室で、今度大会に出られるかもしれないの」
「この間、うちの妹がハワイからやって来て…」
「ねぇ、知ってる?最近テレビによく出ているタレントの○○さん!実は、うちのダンナの友達なのよ。うちのダンナはね…」
等と、案の定自分中心の話ばかり。
宴は彼女のリードで進んでいった。




