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彼と彼女と4つの季節  作者: 井上まどか
秋のストーリー
6/15

変わらぬ関係


「ほら、香澄!ぼんやり立ってないで。

早く、早く~!ほら!ここに座って~!」


既に乾杯を済ませていた2人の姿を見て、軽いショックを受けた香澄に向かって、千晶は店全体に響き渡る大きな声を出して手招きした。


「二人とももう来てたの?

遅れるって言ってたから、ちょっと寄道してたの。遅れてごめんね…」


席に着くなり香澄はそう二人に謝ったのだが、千晶はうなずくわけでも、久しぶりの再会の挨拶をするわけでもなく、


「ねぇ、ねぇ!素敵なお店でしょう?

この店はね。人気俳優の○○さんや

歌手の○○とかがお忍びでやってくるのよ!

それからね…。この前なんか…」


等と、知り合いのご主人がシェフをしているというその店を、まるで自分の店のように紹介し続けた。


その話だけで、一体何分過ぎただろう。


香澄は座ったものの、お預けをくらったまま。

千晶の話に圧倒されてドリンクさえオーダー出来ない状態だった。


しかし、千晶の話の勢いは止まりそうにない。



香澄は話の合間を見て


「私もビール頼もうかな」


と、店員を呼ぼうとしたが、


「やだな~。話の腰折らないでよ。

あのね、この店の名前の由来はね…」


と、千晶は話し続けて、まったく香澄の声に耳を貸そうとはしなかった。


香澄は(千晶は相変わらずだな…)と小さな溜め息をついた。


千晶は学生時代からこうだった、今も変わってないんだなと、改めて感じていた。


学生時代と同じ。

再会の時も、やはり千晶のペースなのだ。


そんな様子を見かねた一郎は、ぐいっとすっかり気の抜けたビールを飲み干すと、


「千晶~。もう十分わかったから!

とにかく、香澄が来たんだから、もいっかい乾杯しようぜ~」


と、昔と同じスマートさで、千晶の店自慢を止めに入った。


「…あれ?まだ乾杯してなかったっけ~?」


ようやく千晶も気付いたようだ。


千晶は一郎には素直に従うのだ。


「ごっめ~ん」


舌をペロリと出して香澄に笑った。


香澄は嫌味に聞こえない程度に「私は乾杯…まだよ」と苦笑いした。



一郎の誘導でやっと千晶の店自慢が終わった。


「すみませ~ん!」


一郎は素早く手をあげて店員を呼ぶと、


「えっとねー。ビール、3人前ね~。

なるべくダッシュでヨロシク!」


と、注文してくれた。


ほどなく冷えたビールが届いて、


「かんぱ~い!」


ようやく3人はグラスを重ね合わせる事が出来、久しぶりの宴が始まった。



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