予想外の再会
これならきっと“家族へのプレゼント”として持って帰ることができるだろう。
季節物だし気楽に受け取ってくれるはず。
予算も“野口英世”で収まってくれていてちょうどいい。友達としても合格点だ。
「お願いします」
財布を出してレジで会計を済まそうとした時…。
「あっ。ちょっと待ってください。…あの、これもお願いします」
見ているうちに一郎とお揃いの“記念品”が欲しくなって、結局自分の分も購入することにしたのだ。
「ありがとうございます。プレゼントですか?」
「…はい…」
店員が丁寧に緑の包装紙とオレンジのリボンでラッピングしてくれている間に、香澄はもう1つプレゼントを買い足した。千晶への贈り物だ。
彼女は別に誕生日ではないのだが、一郎にだけプレゼントをしてしまうと、きっと不機嫌になってしまうだろう。
目の肥えている千晶にとっては、つまらない物かもしれないが、香澄は千晶が好きだった黒猫のハンドタオルに目をつけた。
彼女は昔から黒猫が大好きで、自分のサインや手紙には必ず黒猫を書いていたのだ。黒猫はいわば、当時の彼女のトレードマークのようなものだった。
可愛いラメ入りの黒猫がプリントされたハンドタオル。きっと喜んでくれるだろうと、彼女の笑顔を浮かべながら…。
腕時計を見ると7時25分。
(いっけない!)
待ち合わせが変更になった時間まで、あと5分。
充分間に合うと思って買い物をしていたのだが、気がついたらギリギリの時間になってしまっていた。
香澄は慌ててプレゼントをバッグにしまいこみ、店に走った。
駅から少し離れたところにあるその店は、六席で満員になってしまうほどの、とてもこじんまりとした多国籍料理の店だった。
千晶の知り合いの店で、賑やかな六本木を少し離れた路地裏に建っていた。
木目調の佇まいに、間接照明で照らされた赤い文字の店名がとても洒落ている。
店に入ると…。
(…えっ…???)
香澄はとても驚いた。
…なんと!
千晶と一郎は既に来ていて、一番奥の席でふたりだけで乾杯を終えて飲んでいたのだ。
しかも、そのグラスは殆どカラになっていた。




