ダイヤモンドヴェール
一方、香澄は…。
大学卒業後、希望の会社に入社したものの上司にセクハラを受けてしまい、悩んだ末にやむなく退社せざるを得なくなった。
一時は生活の安定を求めて正社員の仕事を探していたが、現実の厳しさを実感して諦めた。
(働ければ別に正社員にこだわらなくてもいい)
そう思い直し、
今は派遣で色々な企業を渡り歩いている。
ひとり暮らしの独身。
しかし、家賃が高くて金銭的な余裕などない。
何とかやりくりしながら暮らしている。
幾度か恋もしたが、結局実らず、現在彼氏は募集中。いわゆる〔おひとりさま〕なのだ。
─大学時代。
付き合っていた彼がいた千晶には、一郎への恋愛感情があったかどうかは定かではない。
だけど、当時の3人はまるで異性を越えた友達のような付き合いだった。どこへ行くにも何をするにも、いつも一緒。
どちらかというとおとなしめの香澄は千晶の聞き役だったり、引き立て役だったりしたのだが、それでも3人は同じ時間を共有していた。
(一郎はもう来てるのかな?)
香澄が時間を気にしながら小走りで店に向かって歩いていると…
…♪~♪~♪。
また携帯が鳴った。
(…あ!…)
今度の着信は一郎からだった。
≪今、自分も電車に乗りました!
大分遅れそう!
多分7時半頃になります!≫
どうやら千晶も一郎も“CC”で同時配信したようだ。
千晶から≪ラジャー≫と絵文字の返信がすぐにきた。
香澄も追いかけて返信した。
≪香澄です。了解です。
じゃあ、7時半に変更ですね。
楽しみにしています≫
香澄は2人にメールを返信した。
≪それじゃ、香澄。
店に時間変更しておいて。よろしく~≫
千晶からのメールに≪了解≫と返して、店に到着が少し遅れますと、電話を入れた。
「うちなら何時でもいいですよ。ちょっとわかりづらい場所にあるから、もし道に迷っちゃったら連絡くださいね。気をつけて来てください」と、店主が優しく応対してくれた。
(さて…と。どうしよう…)
どうせ2人とも7時半に到着するなら、このまま店に入ってひとりで座って待っているのも、何だか時間がもったいないような気がする。もう少し外にいよう。
香澄はそう決めて、変更になった時間まで、街の中を散策することにした。
しばらく歩いていると…
緩やかな坂道を見下ろすと、目の前に東京タワーが見えてきた。
「わぁ~、キレイ…!!」
思わず立ち止まり、その美しい姿に見とれてしまった。
東京タワーは様々なイベントがある度に、美しいライトアップで楽しませてくれる。
この日は幻想的な七色の“ダイヤモンドヴェール”で飾られていた。




