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彼と彼女と4つの季節  作者: 井上まどか
秋のストーリー
3/15

ダイヤモンドヴェール

一方、香澄は…。


大学卒業後、希望の会社に入社したものの上司にセクハラを受けてしまい、悩んだ末にやむなく退社せざるを得なくなった。


一時は生活の安定を求めて正社員の仕事を探していたが、現実の厳しさを実感して諦めた。


(働ければ別に正社員にこだわらなくてもいい)


そう思い直し、

今は派遣で色々な企業を渡り歩いている。


ひとり暮らしの独身。

しかし、家賃が高くて金銭的な余裕などない。

何とかやりくりしながら暮らしている。


幾度か恋もしたが、結局実らず、現在彼氏は募集中。いわゆる〔おひとりさま〕なのだ。



─大学時代。


付き合っていた彼がいた千晶には、一郎への恋愛感情があったかどうかは定かではない。


だけど、当時の3人はまるで異性を越えた友達のような付き合いだった。どこへ行くにも何をするにも、いつも一緒。


どちらかというとおとなしめの香澄は千晶の聞き役だったり、引き立て役だったりしたのだが、それでも3人は同じ時間を共有していた。


(一郎はもう来てるのかな?)


香澄が時間を気にしながら小走りで店に向かって歩いていると…


…♪~♪~♪。


また携帯が鳴った。


(…あ!…)


今度の着信は一郎からだった。


≪今、自分も電車に乗りました!

大分遅れそう!

多分7時半頃になります!≫


どうやら千晶も一郎も“CC”で同時配信したようだ。


千晶から≪ラジャー≫と絵文字の返信がすぐにきた。


香澄も追いかけて返信した。


≪香澄です。了解です。

じゃあ、7時半に変更ですね。

楽しみにしています≫


香澄は2人にメールを返信した。


≪それじゃ、香澄。

店に時間変更しておいて。よろしく~≫


千晶からのメールに≪了解≫と返して、店に到着が少し遅れますと、電話を入れた。


「うちなら何時でもいいですよ。ちょっとわかりづらい場所にあるから、もし道に迷っちゃったら連絡くださいね。気をつけて来てください」と、店主が優しく応対してくれた。


(さて…と。どうしよう…)


どうせ2人とも7時半に到着するなら、このまま店に入ってひとりで座って待っているのも、何だか時間がもったいないような気がする。もう少し外にいよう。


香澄はそう決めて、変更になった時間まで、街の中を散策することにした。



しばらく歩いていると…


緩やかな坂道を見下ろすと、目の前に東京タワーが見えてきた。


「わぁ~、キレイ…!!」


思わず立ち止まり、その美しい姿に見とれてしまった。


東京タワーは様々なイベントがある度に、美しいライトアップで楽しませてくれる。


この日は幻想的な七色の“ダイヤモンドヴェール”で飾られていた。


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