引き立て役
なぜなら、大学時代。
香澄は一郎に片思いしていたから。
香澄はふと足を止め、
(あ~あ、なんで早く言ってくれないのよ…。
もっといい服を着てくれば良かったなぁ~)
と、ショーウインドウに映った自分の姿をみて後悔した。
そんな大事な事なら
前もって教えておいてくれればいいのに…。
昨日わかっていたんでしょう?
どうして千晶は教えてくれないの…。
香澄は悲しい気持ちで、
何度も千晶のメールに目を通した。
だけど仕方ない。
それが千晶なのだ。
一郎とは卒業以来全然会っていない。
どうせならもっといい服に身を包み、
「綺麗になったね」と思われたかった…。
それが女心だ。
(もしも魔法が使えたら、もっと素敵な服に着替えたいな…)
叶わぬ願い。
店に飾られていた女らしいサーモンピンクのワンピースを見て、香澄はまたまた溜息をついてしまった。
一郎と香澄はただの友達。
香澄はずっと好きだったけれど、今まで一度も告白はしたことはない。千晶のようなキラキラしたお姫様的存在がいつもそばにいて、香澄は告白する勇気がでなかったのだ。いや、正確に言うと、そのチャンスさえなかったのだ。
香澄はいつも
千晶のそばで彼を見て、
(あ…今、目が合った!)
(話せた…)
(私に笑った…?…かな?)
等と、ドキドキ恋心を楽しんでいた。
そんな一方的な片思いだった。
本当はずっと
両想いになりたかったのだけれど…。
3人の出会いは大学時代。
同級生だった。
かつて昔。
一郎のそばには、いつも千晶がいた。
千晶にはちゃんと別の彼氏がいたけれど、彼女は一郎のことが大のお気に入りで“彼のこと”もボーイフレンドのひとりとして“確保”していたのだ。
当然、香澄が入り込める余地はまったくない。
香澄はいつも微妙な立場。
お姫様な千晶の引き立て役だった。
そして、
それから数年後。
千晶は今、CMディレクターと結婚をして、自分も仕事で出世街道を歩み続けて、裕福で幸せな生活を送っている。可愛い女児のママでもあり、まさに幸せ絶好調なのだ。
現在、一郎は某企業の営業マン。多忙な日々を送っているが、素敵な奥さんと2人の子宝に恵まれているという。




