ランチタイムの告白
翌日のランチタイム。
香澄が千晶に呼び出されたのは、オフィス街のオアシス─大きな公園の中に建つ、特製のビーフシチューが美味しいと有名な老舗のレストランだった。
レンガ造りのレトロな外観は、木々に覆われた公園によく調和している。公園の奥にひっそりと建つレストランだが、ランチタイムは近くのオフィスから大勢の客が押し寄せる。この日もビーフシチューのランチを目当てに来た客で賑わっていた。
≪2階にいるから≫
千晶からのメールを見て香澄は急いだ。
淡いピンクのブラウスにブルーグレーのベスト&スカート。その上にサーモンピンクのカーディガンを羽織った香澄が、はぁはぁ…と息を切らせて店内に入ってきた。
「ゴメンねぇ~、千晶…。お待たせしちゃって…」
ウエイトレスに案内された席には、既に千晶が来ていて涼しげな顔で座っている。
「ううん、こちらこそ。忙しいのに呼び出してゴメンね。来てくれてありがとう」
昨夜の不機嫌な千晶は、一体どこに消えたのだろう?ライトブラウンに染められた髪を綺麗にひとつにまとめ、色鮮やかなオレンジ色のスーツをビシッと着こなした千晶が優しく微笑んでいる。
「香澄は何にする?私はAランチにするわ」
「きのこのハンバーグね!美味しそう~。確かここってビーフシチューが有名だよね」
「そう。ディナーはさすがに高いけど、お得なランチもあるわよ」
「あ、本当だ。どうしようかな~。ビーフシチューランチにしたいところだけど…う~ん。やっぱりいい値段するね…。私もAランチにする」
2人が座った席は窓際なので、公園の景色がよく見える。
青い空に、まるで白い泡を思いきり吹き飛ばして散らしたような空一面に広がるうろこ雲。
遠くに見える噴水のあたりでは、何かの撮影をしているようだ。演技をする俳優の周りにはたくさんの人だかりが出来ており、太陽の光を浴びたレフ板がキラキラ眩しく反射していた。
「なんかココ、落ち着くね」
「ウフフ、…でしょう?」
香澄の言葉に、店を選んだ千晶はまるで自分が褒められたかのように嬉しくなって、つい得意気な顔をして微笑んだ。
「ランチタイムはさすがに混むからね。
予約しておいて正解ね。良かったわ」
「ありがとう」
窓の向こうでは、紅葉や銀杏がさわさわと風に揺れて波打ち、美しいコントラストを奏でている。あたり一面に敷き詰められた落ち葉の絨毯も、実に色とりどりで秋の深まりを告げていた。
「それに、話しにくい話とかも、こういう昼間の時間帯なら話しやすいしね」
「…何?千晶…。話しにくい事なの?」
「まぁ…、ちょっとね」
千晶はそう言うと、少し照れ臭そうに「そうそう、香澄!昨夜はありがとう。プレゼントまでもらっちゃって、ごめんね。ありがとね」と話題を変えた。
「ううん、私こそありがとう。久しぶりに3人で会えて良かったわ」
香澄も意に反して礼を言った。
仲間外れにされたような不愉快な思いはしてしまったが、千晶が言い出してくれなかったら今回の飲み会自体がなかったのだから、とりあえずお礼くらいは伝えておこうと思ったのだ。
やがて、テーブルの上にオーダーしたランチが並んだ。
肉感たっぷりの柔らかい手ごねハンバーグは、きのこをふんだんに使った自家製のデミグラスソースがかけられており、付け合わせにレタスとトマト、黄色とオレンジのパプリカのサラダが彩りよく飾られている。椎茸とホウレン草、卵で作られたさっぱりめのスープがセットになっており、ライスかパンを選ぶことが出来る。千晶はパン。香澄はライスにした。デザートにプチアイスとコーヒーか紅茶が付いてくる。
二人は「美味しいね」等と料理に舌鼓を打ちながら食べ始めた。
「…ところで、千晶。話って何?」
3分の2くらい食べ終わったタイミングで、香澄が口火を切る。
「香澄、実は…私。あなたにどうしても話しておきたい事があったの…」
千晶はハンバーグを切るのを止め、おもむろにフォークを置いた。
「あのね。ビックリしないでね…」
そう前置きすると、いよいよ本題に入った。




