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彼と彼女と4つの季節  作者: 井上まどか
秋のストーリー
13/15

千晶からの誘い

翌朝。


昨晩は飲んでいたし起きられないかも…と、起床時間は15分も前にセットしたのだが、どうやら眠る前にしっかりカーテンを閉めなかったようだ。


「…ん~…」


カーテンの隙間から差し込んでくる朝陽が眩しくて、目覚まし時計が鳴る前に自然と目が覚めた。


もう少しまどろんでいたい気持ちを振り払うかのように、香澄は勢いよくカーテンを開けると、新鮮な外の空気を部屋に入れこんだ。ひんやりとした朝の空気が気持ちいい。


この日も透き通るほどの青い空。

太陽が黄色や赤に染まった秋の街路樹を優しく照らしている。


いつものようにコーヒーをセットして、トーストを焼いている間に顔を洗う。


テレビのニュース番組をチラチラ見ながら仕事に行く準備をしていたら、不意にテーブルに置かれていた携帯が着メロと同時に振動した。


♪~♪~♪~


香澄は右手でビューラーを使ってまつげをカールさせながら、左手で器用に携帯を操作する。


朝の通勤前は何かと忙しい。

朝食を食べながら天気予報や一日のスケジュールをチェックしたり、いくつもの動作を同時にこなすことなんて、御茶の子さいさい。忙しい朝は日常茶飯事の光景なのだ。


「あ~♪」


香澄は画面に表示された名前を見て思わずニヤリと目を細めた。それは、めったに来ない“自称メール不精”の一郎からだったからだ。


【おはよう。昨日はどうもありがとう。カボチャも元気です】


珍しいことがあるものだ。

律儀に昨晩のお礼のメールをくれたのだった。


一郎らしい短い文面。

けれど、珍しく画像が添付されていた。


(何だろう?)と思い開いてみると、例の“ジャック・オー・ランタン”だった。黄色のテーブルクロスの上でちょこんと、オレンジ色に灯りながら笑っている。証拠写真を送ってくれたのだ。


【おはよ~!可愛い証拠写真ありがとう。火の消し忘れにご用心。じゃ、仕事頑張ってね。ではまたね】


香澄は(何か味気ないかな~)と思いながらも、あえて絵文字を抑えて文面を作ってみた。


(あっ…!そうだ…!)


香澄は送信ボタンを押す直前に思い留まって、1枚だけ画像を添付することにした。


(ピンぼけだけど、ま…いいや)


昨日の写真はこれ1枚。

香澄が写した七色の東京タワーだけだった。


「送信…!」


すると、数分後。


【おー!貴重なピンぼけ写真ありがとう。またね~】


と返ってきた。


「あはは。確かにピンぼけだわ~」


一郎らしい返信に笑いながら、香澄はフッと気持ちが軽くなったのを感じた。


昨晩、(もう一郎に会わない!)なんて、勢いで勝手に決めた自分が少し恥ずかしく思えた。異性でも友達は友達なのだ。こうして連絡をもらえたりするとやっぱり嬉しい。



香澄はトーストをかじりながら

(いつかまた会えたら、もっと自分からいろんな話をしてみよう。昨夜は千晶のペースにはまっちゃったけど、自分からアクションしてなかったしな…。今度は「彼氏が出来たよ」とか驚くような報告が出来たらいいな。ふたりはどんな顔をするだろう)等とあれこれ考えたいた。


ふたりの驚いた顔を想像するだけで、思わず顔がほころんでくる。


一郎の気の効いた写メのおかけで、香澄の凹んだ気持ちが凸になれた。


(そうだ!後で千晶にもメールしてみよう)


もしかしたら機嫌が悪いかもしれないが、香澄は千晶にメールをしてみることにした。


そうすることで、千晶の気持ちが少しはわかるような気がしたからだ。




─昼休み。


香澄は早速、一郎の時と同じように“ダイヤモンドヴェールの東京タワー”を添付して、千晶にメールを送ってみた。


<昨日はありがとう。楽しかったよ。また今度会おうね>と、賑やかで可愛い絵文字を入れて…。



ところが…。


千晶からの返信はなかった。



夜、帰宅してお風呂からあがっても、千晶からは返事は来ない。


(怒っているのかなぁ~)


昨夜の事もあって、香澄は千晶の事が気になって仕方がない。



とはいえ、メールを再送したり電話をかける勇気もない。気になりながらも携帯を無音にして、諦めて眠ろうとした。


と、その時…!


~ブルブルブルブル…~


香澄の携帯が振動した。


千晶からだ。


「あ、香澄?…ちょっといい?」


「うん…」


あんなに返信を待ち兼ねていたのに、いざ直接電話がかかってくると何故か緊張してしまう。


香澄はまた怒られたり文句を言われるんじゃないか…と不安だったのだ。


…けれど。


「メールありがと。

実は、ちょっと話したい事があるんだけど…」


何だかいつもと様子が違う。


「…話って…?」


「…明日のお昼、ちょうど香澄の会社の近くに行く予定があるから、良かったら一緒にランチでもしない?」


お礼を言われて

会いたい、なんて…。


香澄にとっては予想外の展開だった。


「…今じゃダメなの?…」


「ダメ。もうすぐ主人も帰ってくるし、夜だと重い話がますます重くなるから…」


(…えっ?重い話?…また文句かな…)


香澄は何だか気が進まなかったが、千晶はいつになく弱々しく、困ったような声色だった。


「…いいよ」


千晶に何を言われるのかを考えると、会いたくない気持ちになったが、思い詰めたような声はやはり放っておけない。気がつくと、考えるよりも前に、香澄は「いいよ」と答えていた。


「ありがとう。じゃあ、明日の昼前に場所を決めてメールしておくね」


千晶はそう、言いたい事だけ一方的に伝えると、香澄の返事も聞かずに電話を切った。


(相変わらず千晶は自己チューだな。だけど…まぁ、電話をくれただけいいか)


香澄はよくある千晶の行動に(千晶らしいな…)と苦笑した。


それにしても、話って?

一体何なのだろう…


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