◆Autumn /東京タワーが見える街
「あ、すみません…。あっ、ごめんなさい!」
香澄は地下鉄の中でも、人をかきわけて前へ前へと歩いていた。
揺れる電車の中では、よろけてしまい上手く歩けない。
電車を降りて改札を潜り抜けると、
息を切らせて一気に階段を駆け上る。
ふと時計代わりの携帯を見ると、まだ7時10分前。
あぁ~、間に合いそうだ…。
香澄は息を整えながらホッと胸を撫で下ろした。
今夜は大学時代の友人、千晶と会う約束をしている。
階段を上りきって地上に出ると、
行き交う車のクラクションや雑踏の音と共に、
幾つものネオンが香澄の目に飛び込んできた。
ここは六本木。
ちょうどハロウィンの時期だからか、
街の至るところでハロウィンの飾りつけが施されていた。
オレンジ色のカボチャたち。
黒いコウモリ、魔女の人形。
店にディスプレイされているハロウィンのデコレーションが、千晶との久しぶりの再会をさらに高揚させた。
街を彩るネオンも華やかで、とても賑やかだ。
行き交う人々の中にも、魔女とかモンスターがいた。
フランケンシュタインやゾンビ等の仮装を楽しんでいる人たちがいて、街はまるでパーティー会場のように楽しげな雰囲気で包まれていた。
ここは日本のはずなのに、さすがに観光名所ともあって外国人もとても多い。
香澄は久しぶりの繁華街に胸を躍らせながら、
携帯の地図を見ながら、小走りで指定された店へと向かった。
(もう来てるかな?千晶と会うの、久しぶりだな~)
香澄は足早に東京タワー方面に向かって先を急いだ。
千晶は大学時代の同級生。
卒業してからも3ヶ月に一度くらいは互いに連絡を取り合い、飲みに行ったりしていたのだが、千晶が5年前に結婚して以来、なかなか都合が会わず少し疎遠になっていたのだ。
今日会うのも数年ぶりになる。
とても久しぶりだった。
香澄が交差点を渡ろうとすると、突然携帯の着メロが鳴った。
サブ画面には<千晶>と表示されている。
千晶からのメールだ。
≪ごめん!!
仕事が遅れてて30分くらい遅れそう。
そうそう、昨日一郎と会社の近くでバッタリ会ったよ。
香澄と会うって話をしたら行きたいってさ。
急で悪いけど、一郎も来ることになったからよろしくね≫
動く絵文字がたくさん入った千晶らしいメールだった。
メールの内容も相変わらずだ。
千晶は昔からそうだった。
何でも自分の都合を優先してしまうお姫様。
時間に遅れることなんかもしょっちゅうだし、
急に予定も変更したりする。
(千晶らしいな…)と香澄は苦笑した。
それにしても…。
まさか、一郎も来るなんて。
(聞いてないよ)
そう思いながらも、思わず顔がほころんでしまう。
(だけどな~…)
ふと、懐かしい一郎の顔が浮かんできた。
(そっか。…来るんだ…)
香澄は嬉しい反面、ちょっと複雑な気持ちに包まれていた。




