第4話
鹿鳴館 ー壁ぎわの華 ー 作者: Natts
波留子が、談話室を出て階段の方に歩いて行こうとした時、突然、男性に呼び止められた。振り向くと男は黙って波留子の手を引っ張り 大食堂と記してある部屋に入ろうとした。
「えっ、何を するんですか? 止めて下さい!」
「波留ちゃん、俺だよ」
「手を離して! 人を呼びますよ!」
「俺だよ。三郎だよ」
「貴方なんて、知りません」
「とにかく、入ってくれ。話をしたい。」
「両親が、上で待っているんです。話しなら別の日にして下さい」
「何を言ってるんだよ。今日、会う約束をしてただろ。やっと、見つけたんだ! とにかく、中に入ってくれ!」
(えええー。誰なのこの男‼︎ 波留子の知り合いかぁ⁇ とにかく ごまかさなきゃ。)
「波留ちゃん、如何して来なかったんだよ! 俺は、店の裏でずっと待ってたのに」
「ちょっと、待って」
「俺を 避け無いでくれ!」
三郎は、波留子の手を引き寄せ抱き締めた。
「止めて! 離して! とにかく、話しをさせて。ーー 信じられ無いかもしれないけど 私、1ヶ月前に階段から落ちて頭を打ったらしく 記憶が無いの。家族の事も覚えて無かったの。だから、貴方の事も 分からないの」
「ーー そんな ... 急に ... もう 何処も悪く無いのか? ーー でも、俺の事を忘れるなんて ... 」
「本当に 御免なさい。今日は、もう行かないと」
「ちょっと待ってくれ!」
(何なの この男。まさか⁉︎ 恋人 ⁈ でもさっき 『避け無いでくれ』って 言ったよね)
「両親が、上で待ってるの」
「あゝ」
「私、記憶無いし 急いでいるから。別の日に」
「波留ちゃん、明日、店に来てくれるか?」
「店って?」
(店って⁇ 記憶無いんですけどー。)
三郎の服装は、正装というには程遠かったので 波留子は、とにかくこの場から穏便に立ち去りたいと思っていた。
2階の踊り場から武虎が、不機嫌そうな顔をして『波留子‼︎』と呼んだので 慌てて階段を駆け上がった。
「御免なさい。遅くなって」
「ナオミ、どうしたんだ? 誰かと話していたのか?」
「えっ、大丈夫 ... 母達は?」
「もう、中で踊っている」
「そうですか。あの ... 今日は、初めての事ばかりで ちょっと疲れたみたいなので彼方の壁ぎわにある椅子に座って 皆さんのダンスを見ています。武虎さんは、踊って ... 」
波留子が、言い終わらないうちに『お兄様、御機嫌よう。暫くぶりね。とっても 会いたかったですわー。』と甘えた口調で 武虎の腕にしがみ付いてきた少女は、叔父である徳川公爵の末娘のナオミだった。
武虎は、驚いて
「どうしたんだ。久しぶり? 昨日、勉強を見てやっただろう」
「うふふ。私、お兄様が婚約したと聞いて どんな素晴らしい女性かと ... でも、とても普通で驚きましたわ」
「こらっ! 失礼だろう。謝りなさい」
「そんなことより、ねえ、踊りましょ」
武虎は、困った顔で波留子を見たので波留子は、少し笑って頷くと ナオミは、波留子に近ずき耳元で 『貴方は、壁ぎわの華がお似合いよ』と言い 武虎をホールの中央へ連れて行き 勝ち誇ったようにワルツを踊りだした。波留子は、イラっとしたが 大人ぶって平常心を装った。だが、脳内では、
(クワーッ‼︎ 嫌な子ー! ほっぺ 100連発の刑だー。プンスカ)
波留子の脳内戦争が終わった頃、ワルツの演奏も終わり 二人が戻って来た。ナオミは、ドヤ顔で波留子を見ていたが、武虎は、苦笑いをしていたので 波留子は『私、喉がが渇ので バーでお水を飲んで来ます』と言うと『じゃ、一緒に行こう』とナオミを振り払って 私の手を取ってくれたので 波留子は、口元を緩ませながらナオミを見たら ナオミは、武虎の後ろ姿を睨み付けていた。
不定期連載