歴史が閉じる時 6
「前方よりコラプションが接近中! 数は6! アイツらも二手に分かれたようです」
ボクの前を走るスプレッド――L小隊の隊員が声を上げた。
「一気にヤツらをすり潰せ! だが、マンションの影から飛び出るんじゃないぞ」
「了解!」
ディエゴ達の会話を聴きながら、ボクは操縦桿を握り直す。
前方には、マンションの影から顔を出すコラプションの姿があった。
「撃て――!」
ディフュージョンやスプレッド達が、射撃を開始する。
コラプション達も負けじと反撃に出て、マンションが並ぶ狭い区域は、あっという間に戦場と化した。
飛び交う銃弾によって、乗り捨てられた車や、人の居ないお店が破壊されていく。
ボクが見慣れた街は、あっという間に荒廃したゴーストタウンへと姿を変えていった。
「敵の攻撃が厚いな……」
物陰にディフュージョンが隠れ、ディエゴが呟く。
確かに、コラプション達の攻撃は苛烈だった。
けれど、向かって左のコラプションは前に出すぎている。
「ディエゴ大尉。 ボクが左のコラプションを攻撃します。 大尉は右をカバーしてください」
「……了解」
軽いタッチでペダルを踏んだあと、スラスターを吹かしながらフューネラルが前に出た。
地面に顔を擦り付けてしまいそうなほど傾けつつ、ジグザグに機体を振って射撃をかわす。
そして、向かって左に居たコラプションの直前で機体を反転。
コラプションにサマーソルトキックを食らわせて転倒させたあと、馬乗りになってから胸部にライフルを叩き込む。
「なんて動きだ!」
「お前、本当にただのテストパイロットかよ!?」
ボクの動きを見て、兵士達が舌を巻く。
「兄ちゃんの方が、もっとすごい動きをしてくれるよ」
フューネラルにマンションの外壁を蹴らせて三角跳びを行い、ディフュージョンの射撃を受けてひるんだコラプションに迫る。
そのままシールドの先端を胸部にぶつけ、損傷した部位に20mm弾を撃ち込んだ。
「俺の機体もゴースト憑きだぞ」
ボクが2機目のコラプションを倒していた間に、ディフュージョンはスライディングしながらライフルを発砲。
コラプション1機の両膝を撃って擱座させ、最後に腕の鞘から抜いたコンバットナイフを胸部へ突き立てた。
「オレだって、操縦技量では負けてない」
兄ちゃんのスプレッドは、撃破されたコラプションのライフルを拾って投げ、跳んでいたコラプションの気を一瞬だけ逸らす。
その一瞬でスプレッドは跳躍し、滞空したコラプションにのしかかってライフルを喰らわせた。
「2人ともやるな」
「ディエゴ大尉も流石です」
「ゴーストを積んだNPDに乗ってるのは、伊達じゃないんですね」
ゴーストを積んだNPDは、開発中のAI――つまりフューネラルを含めて7機しか存在しないと父さんから聞いた。
NPDのシリーズは合計9種類で、その内2機が方式の違うAIを積むスプレッドとコラプションだ。
なんでも、ゴーストはコストパフォーマンスが悪かったため、フューネラルを最後に製造を打ち切ったらしい。
"元ネタ"にこだわりがあるから、NPDの種類も9種類からは増やさないと言っていた。
つまり、スプレッドやコラプションの改修機や後継機が誕生すれば、元の名前にMk.2といった名称が追加されるのだ。
「――!」
フューネラルの乱数回避が作動した。
AIの介入によって今までの操作がキャンセルされ、機体が勝手に回避機動を行う。
そうして、掩蔽物としてAIが選定した立体駐車場の影に、ローリングしながら飛び込んだ。
乱数回避時に体へかかるGは、結構な負担になる。
それでも、生き残るためには慣れるしかないんだ。
「捕捉されたみたいです」
額の汗を拭いながら、ボクは報告した。
「こちらで砲台の位置を確認した。 だが、残りのコラプションが守っている」
「Bチームより報告! 砲台を捕捉したとのことです! ですが、あちらもコラプションに守られています」
データリンクに対空レーザー砲台の画像が表示された。
その砲台は、主力戦車の車体の上にレーザー照射器という砲塔を載せている車種だ。
「フューネラル。 乱数回避発動前の映像を出して」
乱数回避が発動する寸前、コラプションに動きがあった。
直前に見せたあの動き、ボクの予想が正しければ……
「――やっぱり、コラプションが射線を開けてる」
「アイツら、誤射だけはしないからな。 必ず射線を開けるか、こちらを射線に誘い込むように動くんだ」
戦力の無駄使いをしないのが、連邦のモットー。
そのモットーは、何でも命令を聞くAIを積んだ兵器たちにも適用されていた。
なので連邦の無人機は、自分ごと敵を撃たせるような動作をしない。
レーザー照射のために射線は開けるし、誤射を防ぐために照射を止めてしまう。
たとえそれが、自分たちが撃破される要因になったとしてもだ。
「誤射しないなら……!」
「ツグミ?」
ボクは、ライフルで近くに居たコラプションの両腕を狙撃した。
思った通り、ボクが狙撃したコラプションの両腕は損傷し、戦闘継続は困難と思考したらしいコラプションは、すぐさま撤退しようとする。
「ディエゴ大尉はシールドを預かっててください!」
「なにをするつもりだおまえは!」
シールドをディエゴに渡したボクは、両腕の動かないコラプションに接近し、首根っこを掴む。
そのあと、コラプションを前方に突き出したまま、さらに走るスピードを上げた。
「なんて無茶苦茶な戦い方だ……」
ボクの行動を見て、ディエゴは呆れたようだ。
「でも照射は防げました!」
ボクは、捕まえたコラプションをレーザー照射に対する盾にしたのだ。
おかげで対空レーザー砲台は動きが止まり、残りのコラプションはボクにライフルを向けられず、一瞬のフリーズを突いた兄ちゃんたちが他のコラプションを撃破する。
「プレゼントだよ!」
スラスター全開でフューネラルを跳躍させたあと、コラプションを対空レーザー砲台に向かって投げつけた。
投げられたコラプションは、姿勢制御も間に合わず、対空レーザー砲台の照射器に激突。
漏れた燃料が誘爆してコラプションは鉄クズとなり、対レーザー砲台は沈黙する。
「兄ちゃん! ディエゴ大尉!」
「わかってる!」
「トドメは任せろ!」
ボクは対空レーザー砲台から離れ、兄ちゃんや小隊のスプレッドがライフルを、ディフュージョンがロケット弾1発を撃ち込み、対空レーザー砲台を粉砕した。
「支援攻撃、来ます!」
小隊の隊員が叫ぶ。
データリンクを確認すれば、その支援はイージス艦より放たれたトマホークミサイルによるものだった。
「トマホーク3発とは思い切ったな」
と、ディエゴはつぶやいていた。
でも、トマホークが小さな物体として視認できた瞬間――
「――ッ!?」
地上から空に向けて放たれた、稲光のような閃光。
機体が震え、ボク自身にも振動が伝わる程の衝撃。
光の周囲には、膨大なエネルギーのせいで一瞬だけ円形の水蒸気の塊が見えた気もする。
「バロールがレーザーを照射しやがった……」
「あれで射程が半径20kmだと? 衝撃波だけならそれ以上じゃないか」
バロールのレーザー照射を目の当たりにしたディエゴと兄ちゃんは、唖然としていた。
ウインドウ上では、レーザー照射による気温の変化が表示される。
あの時、レーザーの射線上にあったビルの一部は融解していて、ドロドロに溶けたコンクリやガラスは道路に流れ落ちていた。
「全員、覚悟を決めろ! バロールまで突撃する! Bチーム、陽動は任せたぞ!」
「了解!」
ディエゴに預けていたシールドを返してもらいながら、ボクはフューネラルのスラスターを吹かしていく。
「Aチーム、オレに続け!」
「イエッサー!」
ディフュージョンは、三度高速滑走を行った。
ボク達もまた高速滑走を行い、バロールが居る千葉駅を目指した。




