歴史が閉じる時 4
〇5分後
「確認するぞ! 茂苅兄弟は、バロールと対空レーザー砲台の有効射程は把握してるな?」
ディフュージョンに乗り込んだディエゴが、声を張り上げながら訊いてきた。
「バロールは半径20km。 対空レーザー砲台は半径5kmを射程内に収めている」
「でも、周辺にはビルなどの障害物があるから、積極的な照射はしません。 接近する兵器への照射に限定しています」
兄ちゃんとボクが順番に答えると、ディエゴは「正解だ」と呟く。
「千葉駅の周囲に配置されたのは、バロール1機、対空レーザー砲台5機。
バロールは駅舎と後方のビルで背中を守っている形だ。
対空レーザー砲台は、自走できるタイプらしい」
なら、対空レーザー砲台は開けた場所に移動したり、物陰に潜伏して不意打ちしてくる可能性もあるってことか。
「バロールのレーザーの出力もバカにできない。 再照射に1分は掛かるが、こちらの居場所がバレたらビルごと撃ち抜かれる可能性もある」
そうだ、次世代型のエネルギーシステムを搭載するバロールの出力をもってすれば、ビルの外壁や鉄骨まで融かしながら照射も行える。
一応、シールドには対レーザー素材も使われているけど、対空レーザーを5秒防ぐのでやっとだからあてにならない。
「よって、対レーザー兵器との戦闘は奇襲をメインとする! 俺が率いるL小隊、茂苅兄弟、K小隊で編成したAチームがレーザー兵器の破壊。
残りの隊で編成したBチームは、バロール達を護衛する敵部隊へ陽動を行う! わかったか?」
ディエゴの命令に、ボクたちは大声で「了解」と返した。
「俺たちは、高層建築が多い京成千原線沿いを、マンションと雑居ビルを盾にしながら接近し、千葉駅周辺をカバーする対空レーザー砲台を破壊。
そして、航空支援が来るタイミングでオーロラモールの中心を通る交差点から突入、バロールに肉薄する!」
最も開けている駅前大通りは避けたルート。
大通りに大きなビルはあるけど、建物の並びが単純なため、バロールのレーザーで簡単に撃ち抜かれてしまうだろう。
「陽動部隊はオレたちより先行して進み、駅前大通り側から接近しつつ、コラプションをレーザー兵器共から引き離せ。
最悪、オーロラモールの通りへ突入できる程度に引き離してくれればいい」
どちらも戦力がギリギリだから、ディエゴはそんな事を言ったんだ。
ボクは、ぎりっと奥歯を噛む。
「フォーメーションはダイヤモンド! 制限高度は15を厳守!」
ディエゴの命令に同調して、ディフュージョンがスラスターの出力を上げた。
NPDの両腰に備わる高効率・高推力のジェットエンジンは、基部のアームで自在に可動し、高速滑走や高度80mまでの跳躍、さらに30分間の飛行を可能にしている。
このスラスターをうまく活用できなければ、NPDのパイロットとしては半人前だ。
そして、ボク達は3つのひし形を作るようにして並ぶ。
「――続けぇ!」
先陣を切ったディエゴを追うように、ボク達は機体を滑走させたのだった。
◇
走り出してからすぐ、リーパーによる1回目の航空支援――対空レーザー砲台への陽動が行われた。
「対空レーザー砲による照射を観測。 数は5。 ミサイルおよびリーパー3機の反応がロスト」
ディフュージョンを介して戦況の報告がきた。
対空レーザーは再照射に30秒かかるので、ある程度は安全に進めるはず。
「レーダーに反応! 敵のUAVです!」
隊員からの報告を聞いて、ディエゴは舌打ちする。
「ディエゴ大尉、ボクがUAVを落とします!」
「データリンクは共有する。 任せたぞ」
「フューネラル、ウェポンマウントの制御おねがい」
ボクがフューネラルに命じると、音を立てて背面に備わる2基のウェポンマウントが可動し、肩越しでライフルが展開した。
NPDの背面に装備された"第2の腕"とも呼ぶべき2本のアーム――ウェポンマウントは、予備の武装やミサイルランチャーを搭載できるだけじゃない。
AIに命じれば、独立して武装を使用させることもできるのだ。
「そのフューネラルとかいうAIは、喋らないんだな」
「あれは未完成なので」
「つまり、ゴーストとしては最新の物ということか」
「そうなりますね」
ディエゴの問いには、兄ちゃんが代わりに答えてくれた。
『ゴースト』というのは、スプレッドやコラプションを除いたNPDに搭載される、仕様の違うAIの事だ。
特化型AIと呼ばれたりもするけど、ボクはゴーストの機能や中身を知らない。
父さんや兄ちゃんに教えてもらったこともない。
「目標捕捉。 飛行ルート予測、AIによる補正完了」
ビルの向こうから飛来するUAVに、照準を合わせる。
――UAVの数は5機。 大丈夫、ボクならやれる。
「フォックス3!」
高速で走行しながら、右手のライフルとウェポンマウントに搭載した2挺のライフルを発砲。
放たれた弾は、こちらを攻撃しようと高度を下げ、高層マンションの影から飛び出したUAVを撃ち抜く。
「クレー射撃にしちゃ物足りなかったか?」
兄ちゃんが笑いながら訊いてきた。
「鴨撃ちにもならないよ」
ボクは欠伸しながらつまらなそうに答え、レーザー兵器達が待つ千葉駅を目指した。




