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陰陽師奇譚

作者: サトム

物語の主人公になれそうな人たちの日常景。

 年末のこの時期は特別番組が多い。だがこんな冬に怪奇現象モノなど見て楽しいのだろうかと思いながら、炬燵に入っていたあらしは隣りに座る相棒の少年を見る。

 今時の男子高校生にしては珍しい黒髪だが、どこにでもいるような平凡な容姿の少年だ。その彼もみかんを剥きながらテレビで放送されている恐怖映像を暇つぶしに見ている。怖がっていることを期待したわけではないのだが、何のリアクションもないのもつまらないと嵐は熱燗を煽った。


「なぁ。これってお前の本職だろ? 見てて楽しいか?」

 現役警察官でもある嵐は『激録! 警察24時』などの番組が嫌いだ。仕事中でもないのになぜ仕事の番組を見なければならないのかと思ってしまう。友人、知人がでるというのなら話は別だが、ドラマティックに仕立てられた事件記録を醒めた目で見てしまうのは仕方のない事だろう。

 それと同じように少年の職業でもある――――生まれ持った血と才能で陰陽師となった彼には興味の沸かないものではないのかと問うと、少年は不思議そうに見返してきた。


「なんで? これが本物の霊かどうかなんて俺には判らないし」

「え? 写真やビデオで霊視するだろ?」

「電波に乗ったものの霊視は無理だよ」


 類い希な才能を持つ彼は警察というある意味対極に近い職業の嵐に捜査協力をしていた。それは少年の父、祖父と続けられてきたものであり、警察でも歴代の捜査官が後任を指名しながら極秘裏に続けられた役職でもある。

 実際嵐も心霊捜査を知る前から、この世には人ならざる者がいるかもしれないという不可解な体験をしていたが、相棒となった少年に近づいてからそれはより現実となったのだ。


「最近の霊はこんなにはっきり映るようになったんだな。昔は探すのすら難しいくらい薄い存在が多かったのに」

 ビデオに映る人と見紛うばかりの影。最近はCGや映像の加工も手が込んでいて、正直本職でなければ判断ができかねるようになっていた。

「日本人も自己主張をするようになったってことかな」

 話しながら3つめのミカンを剥いていた少年は、まるで世間話のように最近の心霊事情を語る。


「それにしてもこやつ等、いったい何を訴えたいんだろうな? これでは妖怪と変わりがないではないか」

 一升瓶を抱えて炬燵に入ってきたのは居候の猩猩しょうじょうだ。身長2メートルはある大柄な男で、その正体は妖怪である。少年の家にはこういった存在がごく普通に(・・・・・)存在していた。


「訴えてなんてないと思うぞ。昔に比べていたるところに目があるからな。うっかり映りこんだってとこだろ」

 大酒飲みの妖怪猩猩は気前よく極上の日本酒を嵐にもお酌する。それをチラリと見ながら少年は淵が青みがかった黒い目を再びテレビに向けた。


「あ」

「ん?」

 VTRが終わりスタジオに映像が切り替わった直後に少年が小さく声を上げ、水のように酒をあおっていた嵐が聞き返すも。

「……演出……かなぁ」

 そう小さく呟いて立ち上がろうとする少年を嵐はとっさに手首をつかんで引き留める。


 普段から少年の勘や小さな気付きがのちに重大な事件に発展することが多いことを、身を持ってい知っている相棒()としては今の呟きを聞き逃すことができなかったのだ。

「おい」

 逃げるな、見逃すなと視線で訴えるも、元来面倒くさがりな少年はくわぁぁぁとあくびを漏らして眠気の漂うトロンと溶けた目で嵐を見下ろした。


俺は(・・)電波に乗ったものの霊視は無理だって言っただろ。それにまだ何も起こってないんだ。俺たちの出番じゃない」

 「気負うなよ」とまるで年上のような言葉と共に軽く肩を叩かれる。その目に浮かぶのは罪悪感だと嵐は知っていた。自分をこちらの世界に引きずり込んだのは少年が封じていた破魔刀であり、うっかり鞘から抜いてしまったのは少年を助ける為だったことを彼は泣くほど後悔しているのだ。

 だから嵐は軽く酔いに任せた風に少年を元の位置に座らせると、また始まった心霊VTRに目を向けた。


「違うっつうの。せっかく本職がいるんだ。面白い話を聞かせろよ」

 (警察)の面白話はしてるだろ?とニヤリと笑えば、少年は眠気をこらえつつスタジオにいる霊能者を見て大きくため息を吐く。

「あの霊能者って紹介されてるおっさん。家の分家筋で、祓いの力はないけど視る力は十分あるんだよ。だからさっきから口数も少なくなって顔色も悪いだろ? 収録がどれだけ前なのかは知らないけど、あの業界にはよくある話だから家に連絡くるかもな」

「え?」


 嵐の二度目の問いは周りが思う以上に切羽詰まって発せられた。幾分瞳孔が開いた目つきの悪い黒い目がテレビの画面に突き刺さるように向けられて、少年と酒に酔った赤ら顔の大男が何事だと嵐を見る。

「それじゃ、司会者の隣に座ってる女はダレだよ」

 男らしい低い声の語尾は微かに震え、口に持っていきかけていたグラスは静かに炬燵に置かれた。嵐の言葉に少年も赤毛の妖怪もテレビを見るも、同じものを視ることはできなかったらしい。全員が無言のままチャンネルが速やかに変えられ、懐かしいヒットソングが元気よく流れてきた。


「大丈夫だ。俺が見えたのは男性俳優の足首を掴む女の手だから!」

「それは励ましか?! それともとどめを刺しているのか?!」

 親指をグッと立てた朗らかな少年の言葉に頭を抱える現職警察官。誰よりも現実を見据えているはずの彼はまだまだこの現実(心霊現象)に慣れていないのだと、相棒の少年はニコリと年相応の笑みを浮かべた。


相変わらずジャンル選択が難しいですね。

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