どうやら、町に入れたらしい
今回でやっと町中に入れます。
門前の騒動を何とかやり過ごし、三人と一匹は無事に王都の中へと入る事が出来た。
三人にとっては久しぶりの、猫にとっては初めての王都である。
興味津々で馬車の縁に前足を掛け、左右を忙しなく見る様はとても心癒される光景だった。その姿を見て、アンリも気分が無事復活したようだ。
「さて、それでは私とテオドールさんで詰め所に行って来ますね。ロランは……」
「分かってる。宿の確保だろう? いつものところで良いんだよな?」
どうやら常宿があるようだ。
「えぇ。『月猫亭』でお願いします。この猫の事も泊まれるか、ちゃんと聞いておいて下さいね」
「無理なら私が預かるよ」
「確か月猫亭の宿主は猫好きだと、聞いた事がありますから。多分、問題はないかと思います」
「正直なところ、お前より俺が預かった方が良いと思うんだがな……。まぁ、良い。逃がすなよ? 宿を取り終わったらギルドで合流で良いか?」
「はい、当然じゃないですか。私も詰め所での用が終わったらすぐにギルドへ向かいますので、『椅子に座って』待ってて下さい」
「おう」
『椅子に座って』を強調したのは何なのか。それに対して反論は一切無いのだから、恐らくこれもいつもの光景なのだろう。
そして、テオドールの発言は遂に完全スルーされたのだった。
町の入り口でロランと別れた二人と一匹は、一旦馬車を門横の馬車置き場に繋ぐと歩いて詰め所に向かう事にした。
別に馬車で向かっても良いのだが、詰め所はそれ程馬車を置くスペースが多くない。緊急時に備え、詰め所の馬車置き場には個人の馬車を置かないのがルールだ。
「王都は相変わらずの活気ですね」
「そうだね。私も若い頃に、無理をしてでも王都に店を出す決意をして良かったよ」
「テオドールさんは成功した商人ですからね」
「運が良かったね」
「運を引き寄せるのも実力ですよ」
(ほー、このおっさん本当に商人だったのか)
今、この瞬間にも疑いを持っている事が判明した猫だった。
もし、その事をテオドールに知られたら、笑顔で説明された事だろう。テオドールが読心術を使えないのは、本当に幸運である。
「ところで随分と猫が大人しいですね?」
「うん、私に懐いてくれたんじゃないかな? 随分と頭の良い子だよね」
「王都は人が大勢いますからね。人混みに猫も緊張しているのかもしれませんね」
テオドールの発言に若干食い気味に言うアンリ。大人気ない。もっとも両方大人だが。
ちなみに猫が大人しいのはそんな理由ではない。単に辺りを見回す事に忙しかっただけだ。
(おぉっ! マジでファンタジー的異世界だよ。普通に武器屋とかあるし。鎧だの剣だの、みんな持ってるし。……うぉっ!? あれ、ひょっとしてエルフか? 隣にいるのは獣人か!? と、すると隣は……ドワーフか! くぅ〜、今となっては此処に来れて良かったぜぇ〜!!)
外見猫、中身おっさんは大興奮だ。ファンタジーはおっさんの憧れだったのだから。
一応、門前の騒動にてエルフと獣人は見ている筈なのだが、あの二人はノーカウントのようだ。
ハーレム死すべし。慈悲はない。
そんなおっさんもハーレムなのだが、未だに気付く気配はない。強面ハーレムなど、誰得なのか。
ついでに言っておくと、猫が見つけたドワーフらしき男はドワーフではない。ただの小さいおっさんだ。紛らわしい事この上ない。
「ふふふ、興味津々みたいだね」
「えぇ、そうですね。……この反応だと、王都に住んでいた子ではないのかもしれませんね」
猫に和むだけで無く、ちゃんと観察もしていたようだ。
「そうなのかい? なら、私が引き取って……」
「ギルドの結果次第ですが、まだ私たちの元にいさせた方が良いでしょうね。王都周辺の町に行く時にも一緒に連れて行った方が良いでしょう。何らかの理由で捜索依頼が出ていない可能性もありますし周辺の町の子の可能性もあります」
「……そうかね」
相変わらず自重しないおっさんと、容赦の無いおっさんだった。仲が良くて何よりだ。
アンリはこのセリフを言う時ノンブレスだった、と追記しておこう。
(おぉっ!? あの姉ちゃんすっげぇ美人! ぬぉっ! その隣は物凄い巨乳じゃねえかっ! く〜〜! オトモダチになりてぇなぁ、おい! もし出来るなら一晩……)
そして二人の会話を全く聞いていない。ついでに何が一晩なのか。猫の体ではせいぜい添い寝が関の山だろう。
……それすらもこの猫にはご褒美なのだろうが。
「おっと、詰め所に着いたね。うっかり行き過ぎるところだったよ」
「そうしたら私が止めていましたので、大丈夫ですよ。ご心配なく」
「ところで、猫君も一緒で大丈夫かな? 凄く今更なんだけどね」
「恐らく大丈夫でしょう。私もちゃんと説明しますから」
「そうだね。なら私もちゃんと説明するとしよう」
ふふふ、ははは……
……強面二人が互いに笑い合う、非常に恐ろしい光景だ。『説明』と双方言っているが、穏便な方法で終わる事を祈るのみだ。
ついでに、詰め所の前に立っている衛兵達がドン引きしている事に早く気付いてあげて欲しい。その内剣を抜きそうな程だ。衛兵が勝つ事は絶対に無いのだろうけど。
そんな二人の笑いが止んだのは、そのすぐ後の事だった。ドン引きしていた衛兵の一人が詰め所の中から、別の衛兵を一人連れて来たのだ。
生け贄か? いや、先程の騒動に居合わせた衛兵その2だ。後から来ると聞かされていたのか、それとも顔見知りだからと呼ばれたのか。
「やあ、お待たせして申し訳なかったね」
「い、いえいえ。わざわざのご足労頂きありがとうございましゅ!」
(((噛んだ)))(やべぇ、埋まりたい)
その2が噛んだ事には言及せずに、大人しく詰め所内を案内される。猫はまたも、中の様子に興味津々だ。
(へー、結構違うもんだな)
何が違うのだろうか。
そんな興味津々の猫を見て、その2が話しかけてきた。
「あ、あの、その猫も一緒でしょう、か?」
「だめですか?」「だめかな?」
「あ、いえ、あの……それは」
「だめ、ですか?」「だめ、かな?」
「ドウゾドウゾ」
負けるなその2、頑張れその2。きっと君にもいつか良い日が来るさ。
まずは衛兵その1に怒られないという奇跡を祈ろう。
* * * * * * * * * *
「うーん、意外と早く終わったものだね」
「担当してくれた方が顔見知りの方でしたからね。とても良い方ですよ。いつもお世話になっています」
例えば警察から電話が掛かって来た時に、「いつもお世話になっております」と言う人は多いと聞くが、間接的にはともかく直接的にお世話になった人は割りと少数だろう。
だが、この場合の『お世話に』はきっとガチだろう。いや、間違いなくガチだ。
「それでは私はこの後ギルドに向かいますので……」
「あぁ、そうだったね。猫君ともこれでしばしお別れか……名残惜しいものだね」
「えぇ。……そろそろギルドに向かわなければいけないので、猫を渡して貰えますか?」
「ん? あぁ、ごめんね」
「……あの、手を……離して頂けますか」
ギリギリギリギリ
詰め所の前でリアル大岡裁きの光景が繰り広げられている。
子供役には猫を配置、母親にはアンリとテオドールの二人。こんな母親は嫌だ。
ギリギリギリギリ
「ぎにゃ——————っ!!?(千切れるから離しやがれボケェェェェェ!!?)」
悲鳴をあげる猫を心配そうにしながらも、絶対に近付こうとしない衛兵達である。ヘタレと言うなかれ。誰だって近付こうとはしないのだから。
「ぎにゃ——————!!(誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇ!!)」
合掌。
衛兵その2が癒し。彼はこの後その1に怒られます。が、涙目になりながら物凄い反論して、その後同僚の美人さんに慰められて仲良くなったり、ならなかったり。
良い日が来ますように。
明日は猫又主の公開日ですので、モサ主はお休みとなります。次話は2月9日です。




