どうやら、魔道具も万能では無いらしい
魔道具性能実験のお時間です。さて、惨劇が始まりますよ。
「ぎなっ!?(はっ!?)」
「お、気が付いたカ」
気絶していたブサが気付くとそこは宿屋だった。尋問の終わった後から記憶が無い。何があったのだろうか?
そちらも気になるが、階下から良い匂いが漂って来る方が、より気になる。夕食が近いから仕込み中なのだろう。匂いに釣られてブサの腹が鳴る。
起き上がってググッと体を伸ばして大口を開けて一あくび。その後カカッ! と耳の後ろを後ろ足で掻く。スッキリして足を下ろそうとしたら、首筋辺りで足先が引っ掛かった。
首に張り付く物体を見ようとグリグリ頭を回してみるが、ぴったりと首周りを覆っているらしきそれはどう頑張っても視界に入らない。前足で触って分かったのは、皮のような金属のような、不思議な固さの帯状の物体。まるで首輪のような……。
(ん……? 何ぞこれ??)
ペチペチと推定首輪を触りながら首を傾げて悩んでいると、ブフッ! とリュシアンが噴き出す音が聞こえた。ジロリと睨んでもリュシアンの笑いは止まらない。
タスタスと近付くと前足を振り上げ、思い切り振り下ろす!
その爪がリュシアンの腿に触れた瞬間、ブシュッ! と音を立てて魔道具が発動した。
「「くぁwせdrftgyふじこlp!?」」
狭い室内が、表現しきれない臭いに一瞬で支配された。凄く目に染みる。一気に涙が溢れ出した。
あまりの臭いに耐え切れず、大慌てで部屋から逃げ出す一人と一匹。ドアを全開にしたままドタドタと足音を響かせて、飛び込んだ先はロランの部屋だ。部屋に入るなり感情の迸るままに叫ぶ。
「この魔道具、とんでもねえゾ!?」「ぶぎゃぁ!?(何て事しやがった!?)」
「んぉ? どうした?」
涙目で飛び込んできたリュシアンとブサの様子に、首を傾げながらノンビリとロランが尋ねる。その暢気さが腹立たしい。そして、音に気付いたサミュエルとアンリも様子を見に来た。
全員を素早く部屋に入れ、ドアを閉めさせる。窓が閉まっている事も確認する。
目線でブサに合図し、ブサもまた頷く。両者とも目が据わりきっていた。ブサは無言で前足を振り上げると、リュシアンの足に爪を振り下ろす。爪が触れる寸前、一人と一匹は素早く息を止めた。
そして惨劇は繰り返される。
「「「くぁwせdrftgyふじこlp!?」」」
ばたばたと悶えるロラン達。寸前で息を止めていたリュシアンとブサは当然の如く無事である。
だが、何時までも息を止めていられる筈も無い。呼吸の為に外へと移動しようとした一人と一匹を、悶える三人の手がその場に留める。三人の目は血走っていた。
てめぇらだけ、逃がして、堪るか。
振り解こうとジタバタ暴れている内にどんどん酸素を消費していき、ブハッ! と思わず息が漏れた直後にリュシアンを襲う悪臭地獄。
二度目の悪臭に襲われたリュシアンが、激しくえずきながら振り回した腕が捕獲されたブサに当たる。ゲハッ!? とブサも残っていた酸素を吐き出ししてしまい思わず深呼吸。そして再び悶絶。
さらに暴れる内に無意識に出た爪がロラン達を掠り、その度に悪臭が撒き散らされる。エンドレス悪臭地獄。悶絶が止まらない。
しかし、リュシアンとブサは忘れているのでは無いだろうか? 悪臭の元はブサの首輪だという事を。
一緒に外へ出て行けば臭いも一緒について行く事になるのだが、ロラン達を悪臭の道連れにしたいという願望だけで動いたので、きれいさっぱり忘れているらしい。
地獄から抜け出せない四人と一匹に合掌。
* * * * * * * * * * *
「……で、さっきのアレは何だ……?」
ゼェハァ、と息を整えながら人を殺せそうな眼力で、正座するリュシアンと首根っこ掴んでぶら下げられたブサを睨む。
あの後は何とか気力を振り絞って部屋の窓を開け、臭いが少しマシになった隙にドアも全開にして何とか地獄から逃れる事が出来た。
その際、うっかり窓を開けていたらしい階上の部屋へと臭いが流れたらしく、真上から『ブホッ!?』という声が聞こえてきたが、全力で聞こえなかった振りをする。こちらも生き延びる為に必死だったのだ。許して欲しい。心の中でこっそり謝罪する。
「……ロランご希望の魔道具ダ」
「アレがか!? 殺人兵器じゃないのか!?」
「テオドールさん曰く、ペットの躾用魔道具だそうダ。ただし、それをブサ用に調整して貰った結果ああなっタ。調整はテオドールさんに任せたんだガ……」
「ぐ……頼んだのはこちらである以上、文句は言えないか……。それにしても、さっきの臭いは何なんだ? 息が出来なかったぞ?」
「あ~……詳しい事は俺も知らン。ただ、知り合いの工房に頼むって言ってたから、そっち関連の臭いだと思うガ……」
自身の発言がこの惨劇の原因である。さり気無く誤魔化す。もっとも、後でバレるだろうが。
「ペットの躾用魔道具ですか。苦痛を与えない点は好ましいですね。確かに躾には良いのかもしれませんが、あれじゃ飼い主にも被害が甚大なのでは?」
「本来は柑橘系の匂いらしイ」
「……ブサは柑橘平気だもんな。むしろ、普通に食ってるし……だからと言って、アレは無いだろう……。死ぬかと……思った……」
「……ぐにゃぅ……(……何で二度も……)」
全員がグッタリとテーブルやら、ベッドやら床やらに突っ伏したり倒れ伏したりする中、改めて魔道具の恐ろしさを思い知った。が、流石にこれはテオドールも想定外だっただろう。
あちらはリュシアンの注文通りの魔道具を用意し、効果があるように調整までしてくれのだから文句を言うのはお門違いだろう。多分。
明日の討伐の前に気力と体力をごっそり減らしながら、ゾンビのような足取りで階下に向かう。早く夕食を取って、少しでも早く休まないと明日の討伐に支障を来しそうである。
臭いの後遺症で鼻が麻痺状態なので、正直食事の味も良く分からない。作業のようにモサモサと口へ運ぶ。流石のブサも今日は騒ぐ気力が残っていないので、大人しく出された食事を食べる。
あまりの静かさを心配したフランシスが、さり気無く料理を大盛りにしてくれたが、今はありがたみがあまり無い。とはいえ、出された料理はサミュエルが全て食べ尽くしていた。味は分からなくても、食欲には変化はないらしい。
そのまま静かに休んで翌日、早朝にテオドールさんにブサを預けてギルドへ向かうロラン達。ブサを受け取る&ロラン達を見送る為に出て来たテオドールに抱きかかえられながら、ロラン達の後姿を見送る。
遠ざかる後ろ姿を眺めながら考え込む。
昨日の尋問に同席して、自分の考えていた以上に異世界で生きるのが厳しい事を知った。ラノベのように無双して、ハーレムを作って、面白おかしく生きるのは恐らく不可能である。
ただでさえ自分は猫の体である。
解呪薬は作って貰っている最中ではあるものの、薬では完全には呪いは解けない事は分かっている。どの程度この不自由な体から逃れられるのか。数時間か、あるいは数日か、それともほんの数分か。
ロラン達と居た間は全く考えもしなかった事ばかりがグルグルと頭を支配する。
何より、今のブサには金が無い。記憶も無い。伝は多少出来たものの、ロラン達のおまけで出来たようなもので、自身で一から築き上げたものは無い。無い無い尽くしだ。
(やっぱり、俺は主人公じゃ無いんだろうな)
溜め息を吐きながら自嘲する。
自分は頑是無い子供という訳でも無い。一応は大人で、世間の汚いところとかも多く見て来た……筈だ。覚えてないけど。
そんな自分でも分かる事。とんでも能力は持ってないし、イケメンでも無い。お金持ちでも無いし、知識チートが出来る程の頭も無い。残念な事に、物語の主人公なら持っていそうなものは皆無だ。
一度自覚してしまえば諦めるのは簡単で、それならばいっそ、このまま猫の姿で居た方が良いのでは無いかとすら考える。少なくとも、ロラン達は今のところブサを見捨てる気配は無いし、いざとなればヴィルジールを頼れば何とかなりそうな気もしてくる。
むしろ、下手に人間に戻ってしまえば、生きる為には働かなくてはならないだろう。かといって身分証も無い人間が普通に働けるかというと、それは不可能である。そうなればスラム暮らしか、物乞いになる未来が待っている訳で……。
(うん。人間になるの、諦めよう)
諦めるのは簡単だった。
だがその理由の裏には、猫の姿ならば適当に媚を売っておけば、働かずに寝床も飯も……というゲスい考えもあったりする。野良猫の厳しさを舐めきった考えである。
(目指せ! ヒモ生活!!)
惨劇(笑)。
本当にキツイと目に染みます。もうすぐ夏場ですのでご注意下さい。香水の付け過ぎも結構キツイんですよね……。夏場の電車内は本当に地獄模様ですぜ……。
冷房+空気清浄機が欲しいです。
鼻が麻痺すると味が分からなくなります。花粉症で鼻が詰まっても味が分からなくなります。
やっと最近、鼻詰まりが若干解消されてきました。ご飯食べるのが辛くないのって嬉しい。鼻で息が出来ないんですよ……。
それと、尋問を終えてブサも現実をちょこっと見るようになりました。ただし、その結果出した答えは『ヒモになる』です。
さて、ブサの願いは叶うのか……?
明日は猫又公開日なので、こちらはお休みとなります。次話は19日となりますのでよろしくお願い致します。




