どうやら、尋問の後も忙しいらしい
尋問の後片付けと、諸々の後始末です。
残った武装兵達には退出するよう頼み、ついでに別室に避難させた証人達に安全が確保された事を話してくるよう頼む。
少し渋った武装兵もいたが、ヴィルジールからの頼みもあって納得して部屋を退出して行く。同時に、ヴィルジールは自身の護衛兵達に余計な人間が入って来ないよう、部屋の外で見張りを頼む。護衛兵達は残念な事にロラン達の出番は無かった為、その実力を見た訳では無い。だが、飛び降りた時の身のこなしから相応の実力を持っている事が分かった為、快くとは行かないものの、スムーズに退出して行った。
余計な人間を排して、この男が転生者という事を知る者だけが残された。
地に倒れ伏したまま動けないアンリを囲み、見下ろす。
まさに手も足も出ない状態のアンリは、自分を見下ろすセヴランやロラン達を睨む事しか出来ない。この期に及んでまだ睨む気概がある事は立派だが、相変わらず自分の行いを反省するという考えは無いらしい。
そうして睨んでいる内に、先程言われたセヴランの言葉が思い起こされる。セヴランの言葉の中に、気になる部分があった。そして気付く。
「な……っ!? まさか……てめぇも……ガァァッ!?」
「この男はワシが責任を持って、逃がさないように部屋に閉じ込めておこう。むしろ、うっかり殺してしまわんように気を付けねばならんな。……これで、少しは報われたのだろうか……」
「……なぁ、ギルドマスター。あんた、もしかして……」
「ロラン、すまんがその件については後日改めて頼む。まずはマーダーウルフ共を何とかせにゃならん。……恐らく、まだ収束はしていないだろうし……続けざまですまんが、頼めないか?」
「狼退治なら任せとけ。その分、きっちり報酬は貰うけどな」
「すまん。恩に着る。代わりと言っては何だが、ブサ殿はワシが預かろうか?」
自身の思い付いた事を口に出そうとして、セヴランに折れた足を踏まれて強制的に黙らされた。痛みに呻いている内に、手早く拘束していく。当然のように、折れた足や腕はそのままだ。骨が折れた腕を背中側で捻り上げ、拘束具と魔道具を取り付ける。
その状態で手荒く引き起こし、半分引き摺るようにして歩みを進める。その度に呻き声が響くのを煩わしいと思ったか、破壊されずに済んでいた声を封じる魔道具を取り付ける。
その後は引き摺るアンリの事など気にも留めず、今ギルドから出ている依頼をロラン達にも依頼する。
ヴィルジールはフェリシーの件で後始末があるらしい。部屋を出たところで別れる事となった。再開を約束してヴィルジールが去って行く。ようやく区切りが付いたからか、その足取りは軽く見えた。
そんなヴィルジールを見送り、ギルド奥の特別牢へと足を運ぶ。魔道具を起動させた後、アンリを部屋に放り込み扉を閉める。
扉が閉まる瞬間全員の目に入ったのは、痛みからか、屈辱か、あるいはようやく実感した現実感か……ボロボロと涙を零しながら何かを訴えるかのように口を開くアンリの姿だった。が、それも扉が閉まってすぐに見えなくなる。
「ギルドマスターからの申し出はありがたいのですが、こいつはテオドールさんに預けようかと……」
「む、そうか……」
「ぎなっ!?(な、なんだと!?)」
「こいつをギルドマスターに預けたら、エステル達が……」
「む、そうだな。ロラン達の判断が賢明か」
「ご理解頂きありがとうございます」
セヴランの提案をばっさり却下するロラン。申し訳無さそうな様子はあまり無い。その理由を説明したら、あっさりとセヴランも前言を撤回する。
ブサの中身がおっさんなのを知っているだけあって、罪も無いギルド職員が毒牙に掛かる可能性は断固として阻止するべきだろう。人として。
もっとも、ブサの中身とその行動を、とある宿屋併設食堂で働いている某女傑に報告したら、ブサがエステルにちょっかいを出す事は無くなるだろうが。トラウマ量産待った無しである。
「ぎなっ! ぎにゃぁ!?(そんなぁ! 俺のパラダイスが!?)」
「相変わらず、碌でもねー事考えてたみたいだなぁ?」
「ま、こいつの性格を考えたら予想は出来るしナ」
「…………」
「アンリ?」
「私は今回留守番で……「「「却下」」」そんなっ!!」
「では、こいつをテオドールさんに預けてから、すぐに出立します」
「ぎにゃぁぁぁぁぁ!!(いやだぁぁぁぁぁぁ!!)」「私も留守番をぉぉぉぉぉ!!」
「さくっと終わらせればブサとの触れ合いを許可する」「……っ! さっさと殲滅しますよ!!」
ロランの言葉に絶望するブサと、何やら考え込むアンリ。ブサの心の内を予想出来ていたサミュエルとリュシアンが軽口を叩く中、アンリの様子に気付いたロランが話し掛ける……が、言い出した内容は想定内だった。即座に全員で却下。驚愕するアンリだが、当然だろう。
そんなアンリの首筋と、蓑虫状態のブサの紐の先端を引っ掴んでセヴランに一礼する。
引き摺られながら見苦しく喚くブサとアンリだったが、ロランの一言でアンリの態度は即座に変わった。しっかりと首筋を掴んでいた筈が、気付けばその姿は無く、それどころかいつの間にか自分達の前に立って歩を進めている。
この変わり身ぇ……。
対するブサは、絶望とトラウマに支配されてマナーモードの如く震えていた。ブサを持っている手が痒い。
* * * * * * * * * *
「エステル、ちょっと良いか?」
「ロランさんっ! そちらの用事は……?」
「とりあえず一段落付いて御役御免だ。このまま狼の討伐に向かう事になる。その前に、改めて情報を整理させて貰いたい。その後、テオドールさんにこいつを預けて出発する」
「ありがとうございます! それでは早速ですが……」
相変わらずザワザワと騒がしいギルド内だが、何人か見慣れた顔が足りない。恐らく討伐隊として参加しているのだろう。
第二弾として送るのであろう物資をまとめているギルド職員の姿が見える。
そんな彼らの様子を視界に入れながら、エステルから討伐隊の進展状況を聞く。セヴランからもある程度は聞いていたが、状況はあまり進んではいない。しかし、幸いと言うには不謹慎だが、二つ目の村以降は大きな被害は出ていないらしい。
現在、討伐隊として真っ先に向かったギルド員は11名。その後、数人が追加で向かったそうだ。
討伐に向かったギルド員にはある程度の被害が出ているが、教会が迅速に治癒師を派遣してくれたおかげで、討伐隊の被害は最小限に留められている。数名ほど自身の能力を過信したギルド員が死亡しているが、討伐参加はギルドからの指名依頼以外は自己責任である。
なお、現在までに討伐に成功した個体は全てキラーウルフで、ボスであるマーダーウルフの討伐報告はまだ無い。
最初に確認された狼の群れは凡そ30頭ほどだったが、どうやらはぐれ個体や別の群れを吸収したらしく、現在では倍の60頭程の群れになっていると報告が入っている。とは言え、討伐も進んでいるので実際には残り40頭前後だろう。これ以上増えなければ、という注釈が付いたが。
そして現在の群れの所在だが、どうやら二度目に襲った村の周囲から動いていないらしい。討伐隊が迅速に動いた為に村から離れたが、襲った人間の遺体が村に残っていたので、それに執着心を抱いているらしい。その為、村から大きく移動はしていないのだ。獲物に執着する性質が幸いしたと言える。
もちろん村人の遺体は埋葬出来るものは埋葬済みだが、狼達はそんな事とは知らないので、しつこく狙い続けて少しずつ数を減らしている。
よって、ロラン達はその村へと直行する事となる。現在追加の物資を送る準備をしているので、それの護衛も兼ねての出発となるようだ。
すぐに出発しようと思っていたロラン達だが、明日の早朝を待っての出発となる。
「俺らだけの方が身軽なんだが……」
「申し訳ありません。現状、腕に覚えのある方で手の空いている方が少なくて……」
「まぁ、食料やら何やらは必要だろうしなぁ」
「特にお前はナ……」「依頼中はサミュエルも控えていますよ」
「……その、えぇと、食い止めるだけなら現在向かっている方達だけでも大丈夫です。アベルさんもいらっしゃいますので」
「ん? なら、防衛に関しては問題無いか。どうせ明日にならないと出発出来ないなら、遅れる詫びとしてあいつの娘から励ましの言葉でも貰って行くか……」
「あ、それはありがたいです。指名依頼を出させて頂いたんですけど、娘さんとの交流の邪魔をしてしまったみたいで……酷く意気消沈しながら出立されまして……」
「「「「分かる(ル)」」」」
「もっとも、その怒りを狼へと向けて下さってるので、ギルドとしては大助かりなんですけど」
「「「「凄く分かる(ル)」」」」
「……ぶぬん?(……親馬鹿なのか?)」
相変わらず、娘との交流は上手くいっていないようである。
やっとブサがぎにゃぎにゃ喚き始めました。
アベル再登場。名前だけですけど。
そして当然の如く、ブサはお留守番です。狼対峙ではブサは囮にもなりません。頑張ってもただの餌。




