どうやら、自称勇者は罪人にしかなれなかったらしい
「……っく! ……否、だ……」
ようやくアンリからの自供を引き出せた事に真偽官から小さく溜め息が漏れた。
欲望のみで動いているかと思えば、無駄に知恵を働かせるところも見せている。もっとも、浅知恵も良いところだが。
やっと少し前進したが、この男に関与する犯罪はこれだけでは無いのだ。今自供させた事はほんの一部にしかならない。
たった一つ自供させるだけでもこの労力。いや、襲撃と盗難を同時に自供したから二つか。
「つまり、貴殿の意思で襲撃や盗難を指示したという事に間違いは無いな?」
「……あぁ……けど、オレはフェリシーの為に!」
「……さっきと言っている事が違うようだが。さっきは『あの女』に言われたから、と言っていたのでは無いかね?」
「そ……それは……っ!」
今さらながらこれまでの自分の失言に気付いたのか、アンリの顔が青褪める。
散々フェリシーに罪を押し付けようとしていたのに、今さら『フェリシーの為』と言ったところで信憑性は皆無だ。
(都合の良い時だけ善人になろうとしてんじゃねーよ。今さら過ぎんだろうが)
ブサのコメントは辛辣だが、もっともである。だが、ブサにだけは言われたくないだろう。口に出していないので、誰にもばれていないから辛うじてセーフだ。
「今のところはまだ何もありませんね」
「そうですな。だが、あの男の事だ。このまま何事も無く終わる事は無いでしょう。もちろん、そうならないのが一番ですが……」
「あり得ませんね」「あり得ませんな」
「ギルドマスター、何か起こる事は確定なんですか?」
「ぶにゃ?(何があるんだ?)」
「あの男の性格上、何かしらの騒ぎを起こすのは確実だ。どうにも、全ての事柄が自分に都合良く動くと思っているようだからな。だからこそ、周りの迷惑を顧みずに好き勝手動いているんだろうが……それの後始末をさせられる側としては、この上なく腹立たしい。それこそ、殺したい程にな」
ついさっき真偽官に睨まれたばかりなので、流石に今の会話は全て声量を控え気味にしている。とはいえ、耳をそばだてれば聞こえてしまうだろうが。
どうやら、セヴランとヴィルジールはこの後何かが起こると確信しているらしい。わりと似た性質のフェリシーが実際にやらかしたばかりなので、この二人の懸念はもっともだ。
もちろん、真偽官もアンリの暴走を想定して、いざという時にはすぐに取り押さえられるように兵を配置しているし、そもそもアンリはガチガチに拘束されていて、能力も使えないように複数の魔道具を付けられている。が、制約の魔道具を無理矢理外すという前例があったので、警戒はしすぎる位でも問題は無いだろう。
さらに、ギルドマスターであるセヴランと、護衛としてではあるがロラン達一味、そして教会の護衛兵達もいるのだから、万が一アンリが拘束具を外して暴れたとしても制圧は可能な筈だ。ミシェルという戦力を足しても、セヴラン達の方が明らかに優勢である。
アンリの言う『神から与えられた』能力が、どの程度のものなのかは不明だが。
そうしてセヴランとロラン達が話している間に、アンリの尋問は進んでいた。途中で何度か反抗的な態度を取っていたので、魔道具を起動して痛みが与えられている。今では大人しいものだ。やはり、痛みには慣れていないらしい。
セヴランとの会話中に終わった尋問は、まずは教会の書類の焼失。これは先程フェリシーも否定していたが、やはりアンリの仕業であった。フェリシーの言葉から教会に借金があると勘違いしたアンリが、借金の証文を無くしてしまえば良いと短絡的に考えた結果である。
もっとも書類を焼失させたとしても、書類を修復させるのは簡単だ。記録専門の文官がいるからである。だが、アンリはそんな事は知らないので、書類さえ無くなれば何とかなると本気で思っていたらしい。ラノベの読みすぎである。バックアップがあるとは考えなかったのだろうか?
それと、出奔の幇助。先の三つに比べるとインパクトが低すぎるが、こちらも重罪だ。
教会関係に引き続き、ギルド関連に移る。こちらは本当に数が多い。多すぎる。
些細なものは、ギルド員同士の諍いに中途半端に口や手を出して被害を広げてみたり、テンプレと勘違いして声を掛けてきたギルド員に怪我を負わせたり、女性ギルド員や女性職員にしつこく付き纏ったり……といった具合だ。治療費や修繕費、慰謝料として罰金が科せられていた。これはアンリの借金としてギルドに記録されている。
それなりの罪に問われるものは、薬草の群生地を根絶させる事二箇所。取り過ぎないように注意されていたにも関わらず、根から引き抜いたせいで二箇所の群生地からは薬草が無くなり、再度根付くまでは別の群生地に生えてる分だけで何とか回すしか無くなった件について。処理も全くされていなかったので、採取された薬草の殆どが使い物にならなくなっていた。
そして、特定の魔獣だけを狩りまくって周囲の生態系を混乱させたり……といったものだ。この二つについてはギルドに登録したばかりだったという事を鑑みて、罰金という形でアンリに借金が課せられていた。教会からの運営資金盗難には、自身の借金を無くす目的もあったようである。
ちなみに、この時セリアは街中での作業に従事していたので、セリアにはペナルティは無い。その為、借金について初耳だったセリアは驚きに目を見開いていた。道理で、その後報酬が高い依頼ばかりをやりたがった訳である。もっとも、別のギルド員に実力不足を指摘されて逆上した結果、町を移動せざるを得なくなったのだが。
「それでは、最後に直近の件について」
「……あ? まだあんのかよ……」
もはや、素が駄々漏れである。取り繕う事もしなくなったアンリは、勇者を言い張るには無理があり過ぎる。
「王都に来る直前に立ち寄った村で受けた依頼ですが、猿系の魔獣を倒しましたよね?」
「あぁ! 村のやつらが作物を狙われて困ってるって言ってたから、オレ達が倒してやったんだよ。村の連中は金が無いらしくて、依頼も出せないみたいだったからな。 ……それがどうした?」
「……その村から出ていた依頼は町から荷物を届けるだけだった筈だ。何故、依頼に出されていない事を勝手に行った?」
「あん!? オレ達は村の連中の為に倒してやったんだぜ!? わざわざ森の中まで探しに行って、だ! 感謝される事はあっても、文句を言われる筋合いは無ぇよ!! もしも文句があるってんなら、村の奴らが直接言ってきやがれ!!」
「文句を言いたくても、彼らは来る事は出来ない」
「ハッ! なら、文句を言われる筋合いは無い!! 関係無い奴が出しゃばって来るな!」
ギチッ……!
セヴランの固く握り締められたこぶしから血が滴り落ちる。強く握り締めたせいで爪が皮膚を突き破ったようだ。
そんなセヴランを心配そうに見るヴィルジールとロラン達に気付き、頭に上がっていた血が少しだけ下がったようである。
一つ息を吐くと、真偽官へ発言の許可を求める。当然それは許可され、立ち上がったセヴランがアンリを見下ろす。上から見下ろされたアンリが、不快感に顔を歪めるのが見えた。
それを見て、再びセヴランの怒りが燃え上がる。
アンリは、自身の行動がどんな影響を起こすのか、全く考えていないのだ。だからこそ、この男はその場限りの正義感や思い込みで動く。そして、その後は興味が無いから知ろうともしない。もし知ったとしても、自分は悪くないと言い張るのだ。あるいは他人に責任を擦り付けるか。
「王都ギルドマスターのセヴランだ。貴様の言う『無関係』では無いので、その件について言わせて貰おう。……貴様らが依頼を受けた村はすでに無い。貴様らが倒した猿系の魔獣はガーディエイプ。とある魔獣の天敵で、ガーディエイプ自身が縄張りと認めた範囲にはその魔獣を寄せ付ける事は無い。だが、貴様らが余計な事をしたせいで、天敵のいなくなった魔獣の群れが一斉に村を襲い、その村は壊滅した。……生存者はゼロだ。今朝、その村を含む二つの村が壊滅したと情報が入っている。この情報を今の王都で知らぬ者はいない。貴様らを除いてはな」
「出鱈目を言うな!!」「そんな……っ!」
反論するアンリと、驚愕のあまり思わず声の出てしまったセリアの発言が被る。
「発言をしたいなら許可を求めよ」
「……っ! アンリとパーティーを組んでいるセリアです! 発言の許可を求めますっ!」
「許可する」
「ありがとうございます! ギルドマスターさん、村が壊滅……って本当ですか!? どうして……っ!」
「村の人間は、その魔獣を倒すなとは言わなかったか? お前達がガーディエイプを倒したせいで、村はマーダーウルフに率いられたキラーウルフの群れに襲撃を受けた。当初の生存者は一名。その生存者は必死に逃げて、一番近い村に何とか辿り着いたが、追って来た狼の群れにその村も襲撃された。生存者はゼロ。現在、ギルドでは周辺の村へも伝令を出して警戒体勢を取らせ、討伐隊も送っている」
セヴランの説明に思わずセリアは床にへたり込んだ。アンリエットは元々色白だった肌を蒼白に染め、深く考える事の出来ないララも流石にこれには自分達の罪を理解せざるを得ず、セリアの隣にペタリと座り込んでいる。
「嘘だっ!!」
尋問編、ようやく次で終わります! もっと短く話をまとめる練習をせにゃ……。




