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どうやら、真打登場らしい

 

 フェリシーが部屋から連れ出された後、ザワザワとざわめく室内。フェリシーの事を話す声があちらこちらから聞こえて来る。その多くはフェリシーの狂乱振りを見た感想だ。次いでの話題は最後にフェリシーが襲おうとした少女とフェリシーの関係をいぶかしむもので、それに関してはヴィルジールに変わってオレリアが説明をしている最中である。

 尋問を終えたヴィルジールはというと椅子に深く座り込み、片手で顔を片覆ったまま、深く長い溜め息を吐いていた。

 しばらくして気持ちを落ち着かせたか、自分自身に言い聞かせるように話し始める。


「……彼女のした行為は許せる類のものではありません。どうあっても相応の刑に処する必要があります。……それでも、彼女を出来れば助けたいと、調べ始めたばかりの頃の私は思っていたんです。ですが、襲撃や盗難などの裏が明らかになるに従って、彼女を庇う事は出来なくなりました。……枢機卿と言われて敬われても、実態はこんなものです。道を違えた少女を正しい道に戻す事も出来ず、後は絶望に落とす事しか出来ません」

「それはワシも耳が痛くなる言葉ですな。ギルド員が教会を巻き込み、盗賊ギルドも巻き込み、被害者を大勢出している。それは今この瞬間にも。ならば、どうあっても一刻も早くケリを付けねばなりますまい。いくつかの支部では責任者の交代も必要でしょうし、場合によってはワシも管理責任を問われるでしょうな。全く……あの男だけは心底から許す事は出来ません」

「権力など、持つものではありませんよねぇ……。良い事よりも面倒事の方が多すぎます。私としてはこの件が片付いたら、後は後身の者に任せて隠居したいですよ……」

「全くですな。この男にはもう関わりたくありません。ただ殺して仕舞いにする事も出来ないのが厄介過ぎる。……まぁ、次はワシの出番もありそうですな。お前達は万が一の時は猊下をお守りしろ」

「はい、全力を尽くします」


 一人の女の狂気が多くの人間を不幸にしたとも言える。

 最初から最後まで尋問を見ていたロラン達は不快感に顔を歪め、ブサは怯えていた。生々しすぎる狂気。もはや狂人とも呼べそうな程に歪んでいたフェリシーはこの場から姿を消しているが、耳に残った絶叫や目に焼き付けられた表情がブサを怯えさせる。

 人であった時にはネットでフェリシーのような女性の起こした騒動を読んで、ゲラゲラと笑い転げていたものだが、現実として見ると非常に恐ろしいものであった。

 部屋に響く金切り声、赤く血走った目。字で読んだものとは全く異なる、直接肌で感じた空気。

 珍しく真剣な顔で考え込むブサは、普段の様子とは全く違う別人……別猫のように見えた。



 * * * * * * * * * *


 

 そして一方、ヴィルジールの要請に従って証言をしたセリアは、自分達が知らぬ間に犯罪行為に加担していた事を知って、酷いショックを受けていた。さらにその犯罪には、自身の幼馴染であり、パーティーメンバーでもあるアンリが関わっていたのだ。

 そして、フェリシーの次はアンリの尋問となる。

 幸いと言って良いのか、セリア自身はそれほど罪は重くない。だが、フェリシーに確定した罪を考えると、アンリもそれに近いモノを受ける事になるだろう。

 フェリシーに騙された……とも言えなくも無いが、選んだのはアンリ自身だ。そうだとしても、仲間が罪人として裁かれていく事やアンリ自身の予測される処遇に、気を落としているだろう……と思いながらアンリの方を見やった。


(……何で、あんな顔をしているの?)


 目はギラギラと憎悪に光り、食い縛った口元からは唇を噛み切ったのか血が流れ、その視線はフェリシーを連れ出した扉へと向けられていた。


(何で、そんな目で私達を……ううん、私を(・・)見るの?)


 セリアの視線に気付いたか、アンリが振り向いた。こちらを睨むアンリの目はやはり憎悪に塗れており、セリアの体が無意識に一歩下がる。

 それに気付いたララも、セリアと同じ方向に何気無く目を向けて、思わず身が竦んだ。そして、ララの様子に視線を何気無く向けたアンリエットも、アンリの視線に気付いてたじろぐ。

 その場に居た三人全員が息を詰め、身動きが取れなくなっていた頃、一人離れた場所に居たミシェルにも変化があった。やはりアンリと同じようにセリア達を憎しみを込めた目でジッと見つめ、拘束されて動けぬ体を無理に動かそうともがいている。

 ガチャガチャと鳴る金具の音に周囲の視線が向けられ始めた頃、アンリも我に返ったのかセリア達から目を逸らした。同時にミシェルも動きが止まる。その後は無感動な目で立っているのみである。

 ミシェルの目を見た瞬間、彼女が人間以外の何かに見えてしまい背筋がぞっとした。自分から目が逸らされた事に無性にホッとして足から力が抜け、床にへたり込みそうになるのを必死で耐える。


「……アンリ、どうしちゃったニャ?」

「あ、あんな目で私達を見るなんて……っ!」

「……あたしが、猊下の問いに答えたから……?」

「「……っ!」」

「だから、あたしを憎んでる? ……あたしが言ったせいで、自分も罪になると思ったから?」

「……セリア、それは無い。ここまで来れば流石に私でも理解した。私達はすでに全員罪人だ」

「「…………」」


 沈黙する三人。もはやアンリは三人の方を見る事すらしない。ミシェルは半ば虚ろな目で虚空を眺めるばかりである。

 セリア達三人は沈鬱(ちんうつ)な表情で黙りこくり、先程連れて行かれたフェリシーがどうなったのかも分からないままに次の尋問を待つばかりだった。



 * * * * * * * * * *


「……ぐにゃぁ(……やっぱりあの野郎気にいらねぇ)」

「……どうした? ブサ」

「ぶに(別に)」


 相変わらず蓑虫状態から殆ど変化の無いブサ。殆ど……すなわち、少しだけは変化がある。果たしてそれはどこか?


 蓑虫から尻尾が生えましたー!(テーレッテレー)


 尻尾に、前足と後ろ足まで含めて完全に全身蓑虫状態だったが、フェリシーの尋問が終わって、少し周囲を見る余裕の出来たヴィルジールにブサの現状に『これはちょっと……』と苦笑いされてしまった結果、尻尾のみ開放される事となった。今は尻尾だけがビッシビッシと勢い良く振り回されている。

 ちなみに、美中年の苦笑いは先程の件から愁いを含んでいて麗しかった。


「(枢機卿さん、だいぶ参ってねぇ?)」

「(そりゃそうだろ。知り合いじゃないだろうが、あの女は部下みたいなもんだろう? ギルド長も言ってたように、色々と責任取らないといけねえんだろ)」

「(ほーん? 色々と面倒臭そうだなぁ……)」

「おい、聞こえとるぞ」

「「あ」」


 ロランとサミュエルがヒソヒソと小声で話し、そしてそれを聞き付けたセヴランが注意して、若干グダグダしたところで次の尋問が始まった。

 流石に尋問中ずっと声を封じ続ける訳にはいかないので、声を封じていた魔道具が取り外される。もちろん拘束に関してはそのままだが。

 声が戻って早々に怒鳴り散らそうとするアンリだが、先程のフェリシーと同じように一瞬だけ魔道具が光り、アンリの体が数秒ほど痙攣する。そのまま床に倒れこみそうになったが、無理矢理に体を引き起こされていた。

 どうやら、アンリは痛みに慣れていないらしい。今までケガをした事が無いのだろうか?

 引き起こされて(あらわ)になった顔には、強い困惑と怯えがはっきりと見えていた。


「今後尋問を妨害しようとするのなら、何度でも今の痛みを味わう事になると覚えなさい。それと、先の尋問でも見ただろうが、偽りを並べるならば後悔する事になるという事も覚えておく事だ。それでは、尋問を始める」

「……くそが……っ!」


 小さく罵り声を上げるアンリ。真偽官には当然聞こえていた筈だが、完全にスルーしている。

 そして、そのまま尋問が始まった。


「さて、まずは先程の件を改めて明らかにしよう。罪人フェリシーの言っていた事は全て本当か?」

「……何の事だか、分からない」

「嘘を吐くのはお勧めしない。私は真偽を見抜くというのは先程の件で理解している筈だ」

「…………」


 さっきの尋問の様子を全て見ていたにもかかわらず、性懲りも無くはぐらかそうとするアンリ。その態度に真偽官の視線が厳しくなる。

 強い口調で言われた真偽官の言葉に、少し考える様子を見せてからアンリは口を開いた。


「……俺はあの女に騙されたんだ!」

 3000文字程度だと、あっという間に文字数埋まりますね。色々はしょると文章が歯抜けになりまくるので……上手くまとめられる人になりたいデス。

 

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