どうやら、女の恨みは怖いらしい
フェリシー編終了です。次回真打登場orz
「あなたは、一体何がしたかったのですか? 他者を癒す治癒師を目指しながら他者を傷付け、あまつさえ盗みに加担し、その上でさらなる混乱を招きました。あなたの無責任かつ愚かな行動がどれだけの影響を与え、どれだけの数の人の人生を狂わせたか、ご存知ですか?」
「私は盗みに加担などしていません!」
「では、何故止めなかったんですか? それともあなたは盗みを止めようとしたけど、彼らが無理矢理決行したとでも?」
「……いいえ、止めませんでした……」
「それは加担していないと言えるのでしょうか? 黙認したのでしょう? その後も彼らの行為を公表、あるいはしかるべき場所へ訴え出る事も出来たのでは? それなのにあなたはそうする事もせず、むしろ嬉々としてスラム街における『寄付』に精を出していたと聞きます。これはスラムの方々から得た証言ですよ。もっとも、その方はわずかな金と引き換えに腕を失い、その金も奪われました。この方以外の方々からも証言は得ていますよ。『寄付』を行っていた者の容姿、話し方や互いに呼び合っていた名前、人数など。その内の一人は治癒師見習いの格好をしていて、笑顔で寄付を行っていたと。『大変でしょうが、頑張って下さいね。私達はあなた方の味方です』と」
「……っ!」
ヴィルジールの放ったその言葉には覚えがあるのか、フェリシーの顔が強張った。
(……あのイケメン容赦ねぇっす……。っつか、盗んだ金ばら撒いて何がしたいんだ? 自分で使えば良いのに。俺だったら美味いもん食って、飲んで、美人ちゃん達侍らせて……)
グフフ、と笑いながら蓑虫が揺れる。
それを見たロラン達は『あ、こいつ碌でも無い事考えてる』と予想出来たが、まだそれ程ブサに慣れていないセヴランや、ブサの中身を知らない護衛兵達は不気味そうに眺めていた。
グフフと声を上げて笑う猫。普通にホラーっぽい。
そもそもブサは猫なので、金が手に入っても何も出来ないのだが。
「彼女はあなた方を恨んでいます。彼女自身は命までは奪われずに済みましたが、彼女の母親と親しくしていた友人は殺されたそうです。他にも知人も大勢亡くなったり、治しようの無い怪我を負った者もいます。……ここで、一つ確認なのですが、そちらのセリア嬢やアンリエット嬢、ララ嬢はスラムでの寄付についてどう説明されていましたか? 正直なところ、あなた方はギルドの達成率も低く、所持金に余裕があったとは思えません」
突然話を振られたセリア達は体をびくつかせた。先程のフェリシーの件で怯えさせ過ぎたか、特に無実を言い張っていたアンリエットは顔色が蒼白だ。
いまいちララは理解しきれていないように見えるが、それでも自分の立場が良くないと言うのは理解しているのだろう。耳と尻尾がへたれている。
そうなると自然と答えられるのはセリアしかいない。
緊張した面持ちながらも、怒りを滲ませながらフェリシーを見据える。自分達が聞かされていた話と随分と内容が違う。もっとも、ヴィルジールの話から察するにアンリとミシェルはしっかりと関わっているようだが。
「スラム街への寄付には私達も参加していました。……フェリシーからは今回寄付するこれは、これまで自分が教会で治癒師として働いていた正当な報酬です、と聞かされていました。流石にフェリシーだけに負担させるのは申し訳ないと思ったので、私達も所持金から少ないですけど寄付金として追加しました。先程猊下が仰っていたような内容は一言も聞いていません。これは誓って言えます。だからと言って、私達の無責任な行いが変わる訳では無いという事も理解していますので、この件に関しても罪になるなら、きちんと報いを受けます」
セリアの発言にはアンリエットとララも、コクコクと必死に頷いていた。ララに関しては遅ればせながら状況を理解したらしい。完全に怯えきっているようで、全身がガクガクと震えている。
だが、セリアの発言の最後の部分には『えぇっ!?』と驚きながら、思わずセリアを二度見していた。せめてそこは取り繕え、と言いたい。
ちなみに、セリアにとっては本心からの言葉である。
フェリシーはセリア達を憎々しげに睨みながらも、さっきまでのように金切り声を上げる事は無い。これ以上無駄に抵抗すれば、ますます黒いアザが広がると考えているのだろう。実際には真偽官が能力を再使用しない限り、アザが増えたり広がったりする事は無い。
「……証言をありがとうございます。真偽官殿の能力でも彼女の言う事に嘘は無いようですね。さて、改めてお聞きしましょう。スラムにばら撒いた現金は自身の正当な報酬、と言っていたそうですが……おかしいですね? あなたには報酬を得られるような仕事はさせる許可は下りていませんよ? そもそも、当時あなたは『治癒師見習い』であって『治癒師』とは全く別です。さて、今言った事を踏まえて、あなたはそのお金をどこから手に入れたのでしょうか?」
「……アンリから、渡されました」
「それは教会から盗んだ運営資金だと知っていましたか?」
「…………」
「どうなんですか?」
アンリから渡された、と言ったものの、盗んだ金だという事を知っていたかという質問には沈黙を返すフェリシー。
だが、ヴィルジールは諦めない。あくまでも冷静に、時には真偽官からの協力も交えながらフェリシーの罪を明らかにしていった。
その結果、襲撃に関しては実行犯では無いが、嘘偽りを並べてアンリの同情を買って襲撃計画を主導していた事。
運営資金盗難に関してはこちらも実行犯では無いが、やはりアンリを唆して資金を盗ませた事。こちらは主導アンリ、実行ミシェル、教唆フェリシーとなる。上記の襲撃も実行犯はやはりミシェルだった。命令したのはアンリである。
そして、書類焼失に関してはフェリシーは一切関わりが無いという事が分かった。
ちなみに、スラムでの寄付騒動には深い考えも無く、自身に感謝させ、称えられたいという完全なる自己満足的行動であった。中にはほんの少しだけ、スラムに暮らす幼い少女を助けたいという善意もあったのかもしれないが……今となってはそれも本心からだったのかは不明である。
この時点で身分詐称(治癒師自称)、襲撃及び盗難教唆、故意では無いものの暴動を扇動し、多数の被害者を出した事が明らかとなっている。
すでに教会からは治癒師見習いとしての身分は剥奪されている。当然、今までフェリシーに掛かった教育費その他に関しては返還義務があるが、もはやフェリシーに支払い能力は無い。恐らく、肉親である両親へと請求が向かう事になるだろう。その金額は一般家庭であるフェリシーの両親には相当な負担になるのは間違い無い。
そこまで聞かされたフェリシーは遂に放心して床に座り込んだ。
だが、放心しながらも口から漏れる言葉は、恨み言や自身を哀れむ泣き言ばかり。『アンリが言ったから』『私は聖女なのに』『私は悪くない』『あの女のせいだ』『私は選ばれたのに』
放心しながらもふと視線を上げたその先に、自身と同じ治癒師見習いの制服を纏う少女を見つける。自分が襲わせた、常に自分の上を行く存在。
自分が手に入れる筈だった名声、周囲からの羨望、信頼、地位、全てを自分から奪っていった忌まわしい敵。
「お前のせいでぇぇぇぇぇぇぇ!!」
座り込んでいた状態からザッ! と立ち上がって、憎しみを込めた絶叫を上げながら少女に掴み掛かろうとするが、すぐさまフェリシーに付けられた魔道具が光り、強制的にその意識は落とされた。
意識を失うその瞬間、フェリシーの視界に入って来たのは、二度と少女を襲撃されまいと立ち塞がり自身に敵意を向ける護衛達と、その奥で少女を自身の体で庇う男の姿だった。
治癒師の素質があると判明した幼い頃のフェリシーは両親と別れる時、立派な治癒師になってみせる! と言っていた。この時は本心から。もっとも野心もしっかりあった。
だが、勇んで赴いた先では自身の才能は大多数の中に埋もれてしまう程度のものだと知る。その視線の先では、初めての実習で何人もの怪我人を治療し続ける同期の少女の姿。フェリシー最初の挫折。
最初こそ付いていけていた座学も本格的な指導に入り、段々と他の同期達からも突き放され始める。それでもある時期までは頑張ろうとしたが、自身が指されて答えられなかった問題を別の少女がさほど時間もかけずに解き、その後も他の同期達も次々と問いに答えていった事から座学へも身が入らなくなる。
次第に同期達から疎遠にされ始めるフェリシーを心配した一人の少女が声を掛けるが、フェリシーは馬鹿にされていると邪推。周囲に触れ回るが相手にされず、逆に周囲と徹底的に溝を作る事となった。
この時フェリシーに話しかけた少女こそ、初めての実習で才能を明らかにした少女であった事から余計に反目し、逆恨みをし始めるようになる。
同時に、自身に暗示を掛けるように『自分には他の人間には無い特別な才能がある』『自分の才能を妬んでいる人間がいる』『周りが自分だけを貶めている』『裏にはそれを操っている黒幕がいる』『その為、自分は無理矢理評価を下げられている』と思い込むようになった。
段々と実習にも身が入らなくなり始めた頃、実習の場で一目惚れする。当時12才だったフェリシーと同じ位の少年で、どうやら足を骨折しているらしい。喜び勇んで少年の治癒を受け持とうとするが、実習の成績の良くないフェリシーには不可能と判断されて件の少女が選ばれた。
別の怪我人を任されたフェリシーだが、チラチラと少年を気にしながらであった為に全く治療にならず、実習の場から追い出される。振り返り様に見えたのは足が治って喜ぶ少年と、少年に笑いかける少女の姿。
その後は転落するのも早く、同期の中では落ちこぼれ。逆に件の少女はメキメキと上達していき、15才になる前には治癒師への承認試験を受けてみる事を薦められる。だが、実践は出来ても知識不足としてこれを辞退した。それについてもさらに嫉妬の炎が燃え上がる。
そして遂に偶然教会でアンリと出会い、アンリに嘘を重ねた話を吹き込んで教会には居場所が無いと泣き付く。転落その二。
そして断罪←今ココ
結論、逆恨みからのプッツン。




