どうやら、偽りは明らかにされるらしい
今回は切りの良い所で切ったら長めとなりましたorz
尋問の初めこそ誇らしげな様子であったフェリシーだが、ふと見回した先の人物の顔を見て表情が凍りつく。
その視線の先にいたのは、護衛にしっかりと守られた状態の一人の少女。そしてふと、彼女を守るように隣に座っている人物にも気付く。二人を見たフェリシーの唇が「どうして……」と動いた。
その声は誰の耳にも届かなかったが、少女の隣に座る男性には彼女が何と呟いたか分かったようで、彼の表情が嫌悪感で歪む。そんな男性を宥めるように少女の手が男性の手に触れ、男性の表情も少し緩むと、先程とは正反対にフェリシーの顔が醜く歪んだ。
その表情はとてもでは無いが『聖女』とは呼べるものでは無い。その表情を横顔とはいえ見てしまった真偽官も微かに眉根を寄せていたが、その視線の先を見てその理由を理解する。
ゴホン
「尋問の最中なので余所見は控えて貰いたい。それとも、そちらに何か気になる者でもあるのかね?」
「い、いえ……ありません……」
真偽官の言葉にハッとしたように正面に向き直るが、その顔は青褪めていて、とてもでは無いが『何でも無い』とは言えそうにない。
「そうかね? そのわりには顔色が悪いように見えるが」
「い、いえ……! あ……その、私の知っている治癒師の方が……その、酷い怪我をしたと聞いていたもので……その方が此処にいらっしゃったから少し驚いただけです……っ」
「……ふむ? それは今回証人として来て貰ったジュリエット嬢の事だろうか? ……だが、それは貴殿が出奔したと同時、いや。出奔した直後に怪我をしたのだが……何故、貴殿がそれを知っているのか、答えて貰えるかね?」
「そ、それは……っ! そう! 治癒師の知人の方から聞いたのです!」
「そうか。ではその人物の名前を教えて貰いたい。もっとも、貴殿は教会を出奔後は一切教会には立ち寄っていないので外部に出ている者……さらに言うならば貴殿の移動ルート上で会った治癒師となるだろう。それは教会に確認を取ればすぐに分かる事だが「言えませんっ!」……言えないのは何故か、その理由を述べて貰いたい」
どうやら証人席にいる少女はフェリシーが出奔時に襲わせた少女のようだ。それがこの場にいたから、思わず動揺してしまったようである。
当然、真偽官は証人席にいる少女が何故この場にいるかは百も承知だ。それを知っていて、あえて真偽官がフェリシーにそう問うたのだが、その途端にフェリシーの挙動が目に見えておかしくなった。
ソワソワと落ち着き無く辺りを見回したり、胸の前で組んだ手をギュッと握り締めたりといった行動が増える。口調が激しくなり、真偽官の問いを終わらせようと必死だ。
そういえば、とブサが人であった時に見たテレビの内容を思い出し、フェリシーの目元を見れば、まばたきの回数が異常な程に増えていた。組んだ手も良く見ると頻りに指を組み替えたりといった様子である。
(……はぁ~ん? つまり、あの清楚系お嬢ちゃんの言ってる事は真っ赤な嘘って訳か。そういやぁ、襲ったのはあの野郎の仲間の……誰だったっけか? ……まぁ、良いか。あの野郎に尻尾振ってる女に興味無ぇし。襲わせた相手がいきなり目の前に出て来りゃぁ、そりゃビビるだろうよ)
珍しくブサがまともな考察をしている間にもフェリシーへの尋問は続く。
「相手の方に迷惑が掛かってはいけないからです!」
「そうか、では、貴殿が出奔後に教会外にいた治癒師全てに確認を取らせて貰おう。そうなれば貴殿にジュリエット嬢の無事を教えた治癒師だけでなく、それ以外の者全てに迷惑を掛ける事になるが……貴殿が証言しないならば仕方無い」
「それはあまりに横暴ではありませんか!?」
「では逆に尋ねるが、教会の治癒師見習い……現状ではその資格も剥奪されているが、その人物が無断で出奔した。その同時期に教会の治癒師見習いが襲われ、教会の運営資金が盗まれた。なおかつ、教会の重要書類も一部紛失するという事件もあったのだが、それら一連が繋がっていないとそう思えるのだろうか? 単純に考えるならば、出奔する際に貴殿と貴殿に協力する何者かが引き起こした事と疑われても仕方が無いと思えるのだが……? であれば、貴殿にジュリエット嬢の怪我の事を教えた人物が疑惑の最有力になると思われる。貴殿の疑惑を晴らすのには有力な手掛かりになると考えたのだがね?」
「え……っ!?」
真偽官の言葉に驚愕するフェリシーだが、それもその筈。アンリから聞かされているのは自身が敵視していた少女の襲撃と、運営資金の盗難だけだからだ。書類云々は初耳である。
これは、アンリが勝手にやった事――正確にはミシェルにやらせた事――だが、フェリシーが教会に借金があると思い込んだアンリがその証文を無くそうとした結果が書類の焼失である。だが、ご丁寧にフェリシーの書類だけが焼失していた。アンリはミシェルが他の書類もカモフラージュとして焼失させる事を望んでいたのだが指示が足りず、すでにほぼ傀儡状態だったミシェルはフェリシーの分しか書類の処分をしなかった、というお粗末な裏話がある。
フェリシーの反応は意外だったが、真偽官の目にも書類の件ではフェリシーは関与していないと見た。となれば逃亡奴隷のミシェルかアンリのどちらかになるが、ミシェルの現状を見るにアンリがやらせた事だろう、と推察する。なればフェリシーが関与しているのは襲撃と盗難の2件である。
「それと、今さらだが改めて言っておこう。私達は国に認可を受けた正式な真偽官である。昨日の尋問の担当者も同様に。この件に関しては多数の人間に被害が出ている事、その内容があまりに悪質である事から私達真偽官がこの尋問を担当する事になった。それは、尋問の前にも貴殿らにもしっかり告知されている。この件を踏まえて再び最初から答えて貰えるだろうか? 偽りに塗れていない、真実のみを」
どうやらフェリシーが都合良く、自分達に都合の悪い事を忘れているようなので改めてこの場に真偽官がいる意味を思い出させる。それと、真偽官の役割も。
真偽官の考えは正解だったようで、フェリシーの興奮して赤くなっていた顔がザッと血の気が一斉に引いて、青を通り越して白くなっていた。
「で、でも……私は聖女なのよ……? だって、異世界の勇者たるアンリがいるんだもの……。だから、私達がしている事は正しい事で……っ」
「その為に他者を傷付け、奪い、貶め、歪んだ思想を押し付けた結果、あなた方を周囲がどう見ているか……ご存知ですか?」
「正しい行いは初めは理解されないものだと……でも、意思を曲げずに貫き通せば必ず認めてくれる人達が現れる筈なんだもの……!」
もはや余裕も無くなったか、視線を彷徨わせながら弁明なのか、それとも自分に言い聞かせているのかも分からなくなった頃、立ち上がる一人の男性の姿があった。
「真偽官殿、発言をしてもよろしいでしょうか?」
「猊下? ……もちろんです、どうぞ」
「ありがとうございます。さて「あぁ、ヴィルジール様! 私の無実を信じて下さっているのですね!!」……勘違いしているようですが、私は断罪する側としてこの場にいるのですよ「え……?」はぁ……まず、元治癒師見習いであったそちらの彼女ですが、教会内における評価は非常に低いものでした。治癒術の実習には碌に顔も出さず、座学は常に上の空で話すら聞いていない。当然、座学試験の成績も底辺と言って良いものでした。」
「違います! 私はきちんと真面目に……っ!」
「えぇ。ですがそれは、上層部による視察のある時だけは、ですよね? 視察があると公表するのは何故だと思いますか? 私たちはそれ以外の時を見ていたのですよ。公表した視察に赴くのは一般の教会職員です。それ以外に、座学の最中や実習の途中に書類を届けたりしていた者達がいたのですが……彼らこそが本当の視察だったのですよ。あえて雑用の格好をしていましたけどね? 私以外の枢機卿が様子を見る事もあったのですが、あなたの姿は実習の場に無いか、あるいは講義をまともに受けていないかのどちらかの報告しか受けていません」
「そ、それは……私を疎ましく思う人が故意に広めた嘘です……っ!」
「では、枢機卿こそが嘘を吐いていると言うのですか? ……真偽官殿、彼女の今の発言は真実ですか?」
「いいえ、偽りです。真偽官である誇りに賭けて、今の発言を偽りだと証明します」
発言の許可を求めた後、性懲りも無く自分に縋ろうとしたフェリシーの希望をアッサリと消し去り、笑顔を消した枢機卿の本領発揮であった。
もちろんヴィルジールの証言に偽りは一切無い。
「では、もう一度聞きましょう。元治癒師見習いのフェリシー。あなたは教会の訓練において真面目に座学に臨み、実習の場で区別無く人を助けていましたか?」
「は、はい! 私は誓って、不真面目な態度で臨んだ事などございません……っ!」
「私も改めて証言しましょう。彼女は実習の不参加や患者のえり好みが激しく、また、座学においても真面目に受けていたという報告は受けていません。なお、これは複数の人間から得た報告であり、私自身が魔道具を用いて行った観察でもその通りであったと証言します」
「え……っ!?」
「真偽官殿、私と彼女。両者の今の証言の真偽を明らかにして頂けますか?」
「正式な要請により、真偽官の技能を使用致します」
先程の証言の内容に加え、自身の目でも確認したと言う証言を付け加えたヴィルジール。その上で『明らかに』と真偽官に要請した。
それを聞いて、セヴランが深々と溜め息を吐いた。
「やれやれ、素直に認めれば良かったものを……」
「……どういう事ですか?」
「真偽官には偽りを見抜く事が出来る。それと同時に、それを誰の目にも明らかに出来るのだよ」
「それは、つまり……」
「イ、イヤァァァァァァァァァァッ!?」
「ああいう事だ」
尋常では無いフェリシーの絶叫に驚いたロラン達(+ブサ)の目に入ったのは、服に隠されていない腕や顔、首筋などが斑に黒く変色したフェリシーの姿だった。
真偽官の持つ技能
1・真偽を見抜く
2・真偽を明らかにする
今回使用した技能はこの内の『2』の方です。嘘を吐いていなければ白、すなわち変化無しですが、偽りであった場合は体が黒く染まります。現状では三分の一程度が染まっています。仏の顔も三度まで。真偽官に真偽を問う要請があった場合、三回嘘を吐けば全身真っ黒に。
つまり、誰の目にも真偽官の前で偽りを言ったという事が明らかになり、それそのものが当人への罰にもなります。また、真偽官が出て来るレベルの犯罪に関わり、偽証したという事も明らかになります。




