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どうやら、自称『聖女』の大舞台らしい

「おぉ。待っていたぞ、お前達」

「お待たせして申し訳ありません、ギルドマスター」


 途中で合流したヴィルジールの護衛兵に連れられて、ロラン達が案内された先の部屋にはすでに昨日のメンバーが揃っていた。昨日よりも無精髭の増えたセヴランと、顔色がうっすら青白いヴィルジール、それと巨が虚へと変化したオレリアである。

 ちなみに護衛兵達は賢明にもとある箇所には目を向けようとはしない。それに倣ってロラン達も……と思ったのだが、あまりにもビフォーアフター過ぎて目が離せない。途中で気付いたロランとアンリが慌てて目を逸らしたが、やはり気になるのかチラチラと視線が流れるのは仕方無い。

 それと引き換え、堂々とガン見しているのはサミュエルとリュシアン、ブサの二人と一匹だ。ブサに関してはもうどうしようもないが、サミュエルは、まぁ……性格上仕方無いだろう。

 ちなみに根が真面目なリュシアンがガン見しているのは、オレリアの持つ技能の考察の為である。

 最初は幻覚系の能力と疑っていたのだが、ブサが揉んでいた事からそれは無し。皮膚の動きからも実体があるのは間違い無いだろう。余談だが服は変化後を想定したものを着用しているようで、今の状態だとかなり胸元に余裕があり過ぎる。うっかり技能を解いてしまうと色々大惨事になりかねない。つまり、あくまでも肉体的な変化のみという訳で……。


「……あなた達、そろそろ淑女への礼儀というものを思い出した方が良いんじゃないかしら?」

「あ、すまねぇ」「……っと、すみませんでしタ」「…………」


 ブサ、見過ぎ見過ぎ。常識を思い出したリュシアンによって、手早くキュっと締められる。

 バッグからは出されたものの、未だに簀巻きからは開放されていないので、ブサに抵抗する手立ては無い。あっさりと意識を落とす。蓑虫(ミノムシ)状態でプラーンとぶら下がるブサを、呆然と見るセヴラン&護衛兵達と、面白そうに眺める枢機卿の二人。


「何やら変わった縛り方ですね? あぁ、話し方は普段通りでどうぞ」

「ん? そりゃ助かるぜぇ。それと……縛り方については一応内緒でなぁ? 下手に解こうとすると、逆に締まるという特殊な縛り方になってるからよぉ、下手に手を出すと死人が出かねねぇんだよなぁ……」

「……それ、もう少し早く教えて欲しかったわね……」

「ぁん? お、おぉ……」


 オレリアの声に振り向くと、そこには縄の掛かっていなかった筈の頭にまで縄で締め付けられ、絶妙な縛り具合で声すら出せずに痙攣するブサの姿があった。流石に意識は戻ったようだが、再び意識を飛ばしそうな勢いである。


「ひ、にゃ……ぁ……(脳みそ……割れ……る……)」


 この場合正しいのは『頭蓋骨』が割れる、である。相変わらずの残念な頭であった。



 * * * * * * * * *



「さて、こちらの準備も整いましたので……今日で終わらせましょうか」

「可能なのですか?」

「証人も証拠も、無事に届きましたしね。言い逃れはさせませんよ。これ以上、独りよがりな正義感を振りかざして被害者を増やす訳にはいきませんので」

「それに関してはギルドにも責任が無いとは言い切れませんな。自分のところの評価を落としたくないからとは言え、次のギルドへ、次のギルドへとアレの始末をたらい回しにした結果、余計な被害が増えた原因にもなったのですから。この件でのギルド側の杜撰な管理を許すつもりは無いし、そもそもの原因となったあの男を許すつもりは毛頭無い」

「教会側もよ! 運営資金を盗まれた事もそうだけど、治癒師に手を出した以上は容赦をするつもりは無いわ!」


 この件におけるギルドマスター以下三人の意気込みは熱い。今日中に終わらせてやろうと意欲満々である。

 椅子から立ち上がると殺気すら帯びながら尋問の場に赴く。

 ロラン達は相変わらずヴィルジールの護衛だ。ほぼ、名目上だけの護衛だが。どちらかというと、万が一にもあの男が暴れた場合に取り押さえる為の戦力だ。

 廊下を進み、オレリアとは途中で別れて、ロラン達は昨日と同じ扉を潜る。

 そこから見える光景は昨日とほぼ同じであるものの、証人として呼ばれたであろう人物は明らかに昨日よりも多く、中には厳重に護衛を付けられた年若い少女の姿も見える。服装から見るに、どうやら教会関係者のようだ。彼女の隣には端整な顔立ちの男性が寄り添っている。

 そこまで視界に入れたところで二日目の尋問が始まる。


「(ぎにゃー(そろそろ開放して下さーい)」


 一応、尋問の様子が見えるように、と手すりに蓑虫のまま括り付けられたブサを放置して。きっちり口も塞がれているので、余計な口出しも出来ない。

 もしも、アンリを制圧する必要が出来た場合にも邪魔にならず、(ロラン達にとって)一石二鳥だ。

 だが、生きているのを見る限り、先程の状況からは抜け出せたようである。現状とどちらがマシかと言われたら……命の危険が無い以上、こちらの方がマシだろう。多分。


(え? もしかして、終わるまで俺、このまんま??)


 残念ながらその通りである。

 万が一危険が及ぶようならヴィルジールに保護を頼むという保険も掛けているが、それは本猫には知らされていない。


 そして、ブサの内心など一切考慮する事無く、フェリシーが壇上に立たされ尋問が始まった。


「それでは昨日の続きからとなるが、本日の尋問を開始する。本日の一人目は『元』治癒師のフェリシー、貴殿から何か発言があるならば聞こう」

(わたくし)に罪など存在致しません! なぜなら(わたくし)は聖女なのですから!」


(……『聖女』って普通、神様からしん……しん……お告げとかがあって選ばれるもんじゃ無かったっけ?)


 ブサの言いたかったのは『神託』だったようだ。途中で諦めて言い換えたが。

 この世界においては神託によって『聖女』や『勇者』が選ばれる事は無い。それらの称号は当人の働き如何で周囲が自然と言い出すものだ。そして『聖女』と呼ばれても地位は無く、あくまでも尊称である。

 聖女だからと言って優遇される事は無いし、むしろ行動には常に制限が掛かるような始末だ。聖女が酔っ払って酒場でくだ巻いていました、などあれば幻滅されるからだ。

 さらに言うなら、聖女を自称するような者は詐欺師かそれに類するもの、というのが大衆の常識である。


 だからこそ、フェリシーの言葉が響き渡った瞬間、場がざわついた。その反応にフェリシーはそれ見た事かと誇らしげだが、間違っても周囲の反応は良いものではない。むしろ正反対で、直接はフェリシーを知らないが聖女を自称する図々しさに怒りを覚える者達と、直接フェリシーを知っているが故にその性根からも聖女に値しないと知っている者達のざわめきだ。

 真偽官はチラリとヴィルジールの方を見ると小さく首を振る。それに頷き、大きく息を吐く。

 

「猊下、大丈夫ですかな?」

「……えぇ、ご心配をお掛けして申し訳ありません。ですが、彼女のような人物を治癒師見習いとして保護していたのか、と思うと今更ながらに頭が痛いですよ。……彼女、治癒師になる意向を確認した際の言葉だけは良かったんですよ。その結果がコレ、というなら……今後は治癒師になるかどうか決める際には真偽官に立ち会って貰って、言葉の裏も確認しないといけなくなるかもしれません。そうなれば国との調整も必要でしょうし……今後の事を考えると本当に頭が痛いですよ……」

「……心中お察しします。ギルド(うち)もあんなのがいた訳ですから……。あいつらのやった事が、全てのギルド員が同じであると思われたくないのですが、すでにそう思われつつもあるんですなぁ……。ある程度は情報を開示してギルド員への戒めとすると同時に、一般の人達へも事実を公表する必要がありますな。もちろん、ギルド側の対応に不備があった事も含めて。……そうでもしないと、収まらんでしょうからな」

「……お互い、まだまだ苦労は耐えません……か……」

「そのようですな……」


 責任者の悲哀。上に立つ者は適当に部下に仕事を放り投げておけば良い、と考えている者もいるのだが実際はこんなものである。

 もちろん、中にはそういった者もいるのだが、少なくともセヴランとヴィルジールはそういった事を出来ない性質であった。そうであるが故に、色々と苦労を背負い込む羽目にもなるのだが。

 

 そうやって二人の責任者が互いを慰めあっている頃、どうやら尋問に動きがあったようだ。

 聖女について


 自称聖女なんて胡散臭い事この上ありません。それを自称すると大勢から注目されるようになるから、見られるのが大好き! という人なら興奮ものかもしれませんが、同時に行動の全てを見張られるようなものでもあります。

 当然、聖女らしからぬ行動をすれば一気に名声は地に落ちます。


 だからこそ、歴代聖女とされる人物は生前は非常に窮屈な暮らしを送っていたようです。どうしても発散したい場合は全力で変装してからはっちゃける。

 実際に、表向きは完璧『聖女』と呼ばれるにふさわしい言動だったが、ストレス解消時には酒場で飲み比べをしていたような御仁もいたり。


~~この世界における聖女のイメージ~~


・物腰穏やか

・常に丁寧な口調

・誰にでも優しい

・才色兼備、容姿端麗などなど



~~実際の歴代聖女~~


・性格的には下町のおばちゃんだが、世話焼きな性格でいつの間にか聖女になった人

・血や傷に興奮するやばい人(治る工程を見るのが大好き)

・物凄く小心者で、誰にでも優しくしてたら聖女と呼ばれるようになってしまったある意味かわいそうな人


 などなど。望んで聖女になった人はいません。二番目の人は、血を血をぉぉ! と常に凄惨な現場を求めて走り回っていたら聖女と呼ばれるようになった人。本人「えぇぇぇぇ……」となったが、聖女と呼ばれるようになった結果、より重傷な患者を回されるようになってヒャッハーしちゃった人。ある意味天職。

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