どうやら、尋問二日目らしい
翌朝になり、朝食の時間になっても一向に部屋から出て来ないアンリ。残る三人による壮絶な押し付け合いの後、貧乏くじを引かされたリュシアンが自棄になりながら部屋に押し入ると……
「お邪魔しましタ」
パタン……
「お。……アンリは?」
「…………」
「ぁん? リュシアンどしたぁ?」
「……俺は、心の底からブサに謝罪をしたいと思ウ」
「「何があった(ぁ)!?」」
その後、慌てて部屋に駆け込んだロランとサミュエルによって無事ブサは助け出され、三人揃ってブサに謝罪するという、非常に珍しい光景が見られた。
ちなみに、アンリは簀巻きにされて転がっているという……こちらは、まぁ、それなりによく見る光景であった。
* * * * * * * * * *
「あ~……朝の不幸な事件は置いておいて、だ」
「……ぎ、にゃぁ……(……おれは、わすれねぇ、からな、ぁ……)」
「色々落ち着いたら良い店連れてってやるよ」
「ぎなっ!(約束だからな!)」
復活した。ちょろいものである。
そこそこに賑やかな朝食を終えて、ロランの部屋に集まり話し合いをする。
大事なのは今日の予定だ。
昨日の話ではヴィルジールは今日で終わらせたい、と言っていたので予定通りに行けば今日中に尋問は終了するだろう。もっとも、何時間掛かるかは不明だが。
帰り際に、昨日と同じ時間にとは言われたが、少し早めに顔を出しておいた方が良いだろうと判断する。どうせならギルドに顔を出して、魔獣討伐の進行状態も把握しておきたいからだ。
基本的には宿屋待機となった。それならば、とサミュエルが今の内に薬の類を多めに作っておきたい、と言い出す。それにはロラン達にも異論は無く、これで時間潰しも出来た。ちなみにアンリは罰として出掛けるまで簀巻きである。
「ロラン、ブサはどうすル?」
「ん? あ~……」
大人しくしている予感はしない。とはいえ、野放しにも出来ない。
下手にウロチョロされて荷物に手を出されても困るし……と考えた結果……
「ぎにゃ――!!(その結果がこれだよ!!)」
簀巻き&吊るし。
なお、ブサの体に負担が掛からないよう、かつ逃げ出す事が出来ないよう慎重に縄を掛けてあるし、吊るす際にもブサの体に負担が掛からないよう、かつ逃げ出さないよう慎重に慎重を重ねた、サミュエル渾身の作である。慣れれば意外と快適だったりする。なんという匠の技!!
ちなみに、どこをどうやっているのか分からない為にロラン達にはブサの開放は不可能だ。下手に解こうとすれば逆にブサを締め上げるという謎仕様です。本当にどうなっているんだ?
疑問には思うものの、特に困りはしないので放置。うろうろと歩き回らないおかげで悠々と武器の手入れが出来るというロラン達に嬉しいおまけ付き。
ぎにゃぎにゃと鳴き喚くブサを放置して各々の武器を手入れしていたら……ふと鳴き声が止んだのに気付いた。何気無くそちらを見やるとブサが目をキラキラを通り越して、ギラギラと光らせながらガン見していた。
「……相変わらずの反応だが、そんなに面白いカ?」
「ぎなっ!(もちろん!)」
これまでにも何度もブサの前で武器の手入れはしているのだが、その度に興奮を隠さないので手入れをする側はなかなか大変だ。下手をすると手入れ中の武器に触ろうとするのだから。
だが、現代日本に生きていたブサには剣も弓も珍しく、何度見ても飽きないほどの興味の対象である。男のロマンとも言える。
もっとも、猫の体でそれを振るう事は不可能なのだが……。
「ぶにゃ(妄想美味しいです)」
妄想の中でそれらを使って華麗に活躍する自分を想像しているようである。もちろん、想像の中の自分はイケメンに補正済みだ。
これは、自身の呪いを解いた後に八面六臂の活躍をする為に必要なイメージトレーニングなのである。
そう、これは必須な事なのだ!
「……碌な事考えてない気がするナ」
「いつもの事だろ」
「ま、そうだけどナ」
吊るされながらギラギラした目で武器を眺め、百面相を続けるブサは非常に気持ち悪い。
わざわざそんなものを見たくは無いので、あえて無視しながら武器の手入れを続ける。とはいえ、普段から手入れは欠かしていないのでそうそう時間も掛けずに終了した。残った時間は雑談タイムだ。
「なぁ、そろそろ時間じゃねぇ?」
「ん? あぁ、そろそろ頃合か」
「薬は出来たのカ?」
「あぁ。とりあえずは……。出来りゃぁ、これを使う事はしないで済ませたいんだがなぁ……」
ゴンゴンと扉を叩きながら現れたサミュエルが言う通り、時間的にもギルドに行って丁度良い頃合だ。
リュシアンの質問にチャポチャポと手元の小瓶を振りつつ答えるサミュエルの顔は苦々しい。それに頷くロランの顔も。彼らがせっかくの回復薬を使いたがらないのは、その味を知っているからだ。いくら怪我が治るとはいっても、別の意味で悶え苦しむ事になるものを使いたくは無い。
ちなみに、魔獣と戦闘中にやむなく回復薬を使い、その味のせいで体が上手く動かずに魔獣に殺されるギルド員はそう少なくは無い。そのため、回復薬を使うのは周囲の脅威が排除されてから、というのが暗黙の了解となっている。
とはいえ、そうそうは願い通りにいかずに戦闘中に服用する場合もあるので、調薬師には味の改善という命題が下されているのだが……今のところ実現には至っていない。
「誰だってそうだろ。んじゃ、行くか」
「うーイ」
「あの……そろそろ解いてもらっても良いでしょうか……?」
「……仕方無えな」
サミュエルが手を動かすと、ハラリと音を立てて縄が落ちる。一瞬の早業。
ブサとは違って、手加減無しでかなりきつく縛られていた筈なのだが、その体には縛られていた跡はどこにも無い。手首にも縄の跡一つ付いてはいない。
もっとも、ロラン達には野郎の縛られている光景にも、縄跡にも興奮を覚えない至って普通の感性の持ち主なので全く問題は無い。無いのだが……アンリが魔法使い、という事には度々理不尽さを覚えるのであった。
「んで、こいつハ?」
「……起こすのめんどいし、このままで」
「りょーかイ」
ブサはというと、気付けば吊るされたままスカスカ寝息を立てていたので、丁度良いとばかりに簀巻きのままバッグに放り込む。息が出来るように少しだけ開けておけば良いだろう。
それにしても、かなり手荒に扱ったにも関わらず、全く気にせずスカスカと眠り続けているのだから、神経の図太さだけは物語の主人公に劣らないと言える。
* * * * * * * * * *
「お待ちしておりました。ロランさん達はどうぞこのまま奥へお進み下さい」
「おう、思ったより被害が食い止められてるようで良かったよ」
「アベルさんが捕まりましたので指名依頼を出したんですよ。どうやら、相変わらず娘さんからは避けられているらしくて、その悲しみを存分にぶつけているようです」
「お、おぉ……そうなのか……」
「はい。ギルドとしては助かっているのですが、個人的には不憫に思うところでもありますね。なので、出来るだけ早く仲が改善される事を祈ってます」
「ん~……ま、あいつは友人だしな。俺も祈っとくか……。んじゃ、また後でな」
「はい、お気を付けて」
……室内を移動するだけなのに気を付けるよう言われる辺り、あの転生者へのギルド側の理解も知れる。ロラン達もそうだが、要注意人物を通り越して『触るな危険』レベルの危険物となっているようだ。
一応、今はアンリの持つ技能も封じられているのだが、本人に解呪系の技能がある場合はどこまで有効なのかは不明である。
「……ふぅ、今日で終わると良いな……」
「俺ぁこの件が片付いたらまたあのパイが食いてぇ……」
「予約で一杯なので不可能です。というより、スペシャル仕様に関してはワイバーンの肉が手に入らない限り不可能だと思いますよ」
「……ワイバーン……かぁ……」
ロラン達にとって、これまでワイバーンは強敵という扱いだったのだが、昨日のパイを食べて以来彼らの中で認識が変化したらしく、ワイバーン=パイという公式が出来上がったようである。
ワイバーンへの認識が酷い。もはや食材としか見られていない。
遠くない未来、ロラン達によるワイバーン討伐が確定した瞬間であった。
寝ている間に何があったかはご想像にお任せします。




