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どうやら、明日に備えて英気を養うらしい

「正直収穫は無しか。護衛っつっても立ってただけだったな……。尋問も進まなかったも同然だしな」

「美味いパイだけは収穫じゃねぇ?」

「ブハッ! 確かにそりゃ収穫だワ!」

「まぁ、真面目な話……尋問での収穫はゼロに近いでしょうね。残り二人の方が肝心でしょうから」

「ぎなっ(あの巨乳も偽もんだったしな)」


 ブサよ。その言葉、オレリアの前で言ってみるが良い。きっと天国へ逝けるに違いない。 

 ロラン達の耳にもブサの鳴き声は聞こえていたが、ブサのイカレ発言はいつもの事なのでスルーして――とは言ってもロラン達には通じていないのだが――どうせまた碌でも無い事を言っているんだろうな、と推測している。全くもってその通りだ。

 もしもブサの言う事を理解していたのなら、容赦無くオレリアに差し出されていた事だろう。その発言の内容も添えて。

 それは教会の耳が思っていたよりも優秀である、と理解したが故だ。万が一オレリアに伝わったら身の破滅は免れない可能性が高い。

 その為にブサは尊い犠牲となったのだ……脅威を呼び寄せるのもブサだが。もっとも、これは予想された未来なので実際には起こっていない事である。


 一部の女性の胸に掛ける情熱は非常に熱いと言っておく。無闇にそれを茶化すのはお勧めしない、とも。

 本当に、ブサの発言がロラン達に理解出来ていなくて幸いである。


「ま、思っていたよりも早くに開放された事だけは感謝だな。明日も行かにゃならんのは面倒だが、猊下の仰る通り明日で終わる事を心から祈ろう。元々すぐには片付かない事はある程度覚悟していたしな。とりあえずは……宿に戻って飯を食おう。何だかんだ晩飯時だ。おやじさんの飯食って、今日は早めに休んでおいた方が良い。明日の方が本番、と言えそうだしな」

「飯か、そりゃぁ良い!」

「毎度とは言え、昼もそうですが……あれだけ食べて、良く入るものですね。……胃袋がマジックバッグ仕様なんでしょうか?」

「二度と取り出せないけどナ」


 飯と聞いてテンションが爆上がりするサミュエル。通常運転だ。

 もっとも、移動中は食事量も控えめなので量が少なくても問題は無い筈なのだが、町に着くとそのタガが外れるのは何故なのか。これで何でも食べるのであればまだ助かるが、無駄に口が肥えているので不味ければ容赦無く食べない辺り、お財布には優しくない人物である。


 人通りのある道に出てからは、あの男関連の話や尋問の話は一切口にはしない。ひたすら昼に食べたパイは美味かったとか、夕食は肉が良い、俺は今日は魚の気分だ等々とりとめの無い話を続ける。

 珍しく大人しくしているブサも、リュシアンにがっちりと抱えられたままフスフスと鼻をひくつかせている。夕食時だけあって、料理屋や、民家のあちこちから料理の良い香りが漂って来る。

 ある地点からは何故か、異臭も。


「んな……っ! ちょ、ま……ベアトリス! 鍋に何入れたぁ!?」

「え? 最近元気無いからあなたに精を付けて貰おうと思って、精の付く食べ物を色々とだけど?」

「……ぐ、具体的には?」

「えーと……にんにくと、うなぎと、レバーと……それから体に良いお野菜色々でしょ? あとは、あなたの好きなお酒を隠し味に入れて、辛めの味付けが好きだから唐辛子を多めに……それだけだとこく(・・)が出ないかなって思って蜂蜜を少しと、ハーブと、それから……」

「……っ! 俺の取って置きの酒が残り少なく……! な、なぁ、今日は外食にしないか?」

「え? 本当!? 良かった! 実は、もう少し煮込んだ方が良いかなって思ってたの! じゃぁこれは、明日の夕食にしましょうね!」

「……お、おぅ……」


 ……生きろ。

 とある民家の横を通った際に聞こえてしまった会話に、全員が旦那に黙祷を捧げる。

 飯マズな嫁を持つと旦那は毎日を生き残るのに必死である。今回の旦那のマズ飯回避作戦はあえなく失敗したようだ。恐らく、明日には一日煮込まれて濃縮したナニカ(・・・)を食べさせられるのだろう。

 旦那のセリフからも、隠し味が隠れていない事を予想させられる。

 その後、家の扉から出て来た夫婦は腕を組んでいて傍目には非常に仲良さ気だったが、旦那の目が軽く死んでいたのが何とも哀れなものであった。そのまま通りの奥へ消えて行くのを足を止めて目で追う。

 名も知らぬ男に……幸あれ。

 

「……なあ、質問良いカ?」

「……なんだぁ?」

「飯マズで美人な嫁さんと、飯は美味いが顔のマズイ嫁さん、どっちが良イ?」

「……そんなら独り身が一番だなぁ」

「何の話だか……」

「……先程の男性に良き未来があらん事を……」


 飯マズ嫁、テンプレの質問。旦那が全ての食事を作るなら美人の嫁さんという手もあるかもしれない。だが、旦那が料理出来ない人間であった場合……どちらを選ぶのだろうか?

 サミュエルは独身を即座に選択している……が、それは選択肢に無い。反則である。

 そんな二人にロランは呆れ、アンリは旦那の未来を祈る。あると、良いね。


(美人な飯マズ……美人な飯マズ……美人……だが、飯マズ……っ!)


 そしてこいつはいつまで悩んでいるのか。それともう一つの選択肢は何処行った。



 * * * * * * *  * * *



「あら! あたしのお願い通り、今日は早めに来てくれたのね! 嬉しいわ!」


 出た。

 じゃなかった。イザベルの登場である。


「いや、単に仕事が今日は早く終わっただけだ。早速で悪いけど、適当に飯を頼む」

「酒……は、今日はやめとくカ。流石に飲む気分じゃ無エ」

「俺の分は飯大盛りでなぁ!」

「言わずとも分かってるでしょう。それと、ブサの分もお願いします。私達と同じ味付けで構いませんので」

「あいよ! ちょっと待ってなさいな!」

「ぎーにゃ! ぎーにゃ!(めーし! めーし!)」


 さり気無く点数を稼ごうとするアンリ。だがアンリにとっては非常に残念な事に、ブサは全く聞いていない。だみ声を響かせて飯を催促するばかりである。

 残念! アンリの作戦は失敗した。そろそろブサに好かれようとするのを諦めた方が良いと思うのだが。

 悔しがっていると思いきや、楽しそうに体と尻尾を揺らすブサを見て非常に満足そうである。それで良いのか。

 ついでにブサ()が鳴いている事を迷惑そうにしている客へと、さり気無く殺気と目線を送って黙らせていた。大人気無い……と言うより、むしろブサを黙らせろ。このままだとやばい事になる。

 さり気無くロランがアンリに話し掛けて気を逸らす。目線で合図。

 それに気付いたリュシアンが慌ててブサを踏み潰して黙らせた。だが、安心して下さい。生きてますよ? ついでに言うなら、これはブサの為でもある。


「はいよっ、お待たせ! 適当って言ってたからね。酒に合いそうなものと、あんた達の好みに合いそうなものを適当に持って来させて貰ったよ! 焼き物系は今やってるからもう少し待ってておくれね。それと、サミュちゃんには大盛りね!」


 リュシアンがブサを黙らせたのと時を同じくして、ドカドカと目の前に置かれていく料理の数々。

 早速とばかりに煮込みにサミュエルの手が伸び、そのままガツガツと食べ始める。その食べっぷりを見たロラン達も、各々手が伸びる。油断していたら自分の分も奪われかねない。

 リュシアンも目の前に置かれた煮込みに手を出そうとして……ふとブサの事を思い出し足を上げる。目線だけで見下ろせば、ピクピクと小刻みに痙攣している。恐らく意識は無いだろう。

 チラリと横目で確認する。……どうやら、アンリはブサを踏んでいた事に気付いていないようだ。

 何気無い素振りで自分の煮込みを少しだけ小皿に取ると、ソッと足元で潰れているブサの鼻先に下ろす。

 

 クワッ!!


「ぶなぁぁぁぁぁ!!(飯ぃぃぃぃぃ!!)」

「あぁっ! すみません! ブサ!! 今すぐあげますからね!」


 ブサの鳴き声に即座に反応したアンリがブサ用に取り分けられている煮込みを手に取り、ブサの目の前に置く。その時にはすでにリュシアンが下ろした小皿は姿を消していた。

 小皿の中身はリュシアンの腹の中だ。そして小皿はサミュエルが食べ終えた皿に紛れ込ませてある。完璧な後始末。

 

 アンリが下ろした皿を目の前にブサは……後退(あとじさ)った。

 今度はアンリがクワッ!! と目を見開く。ブサがシュバッ!! とさらに後ろへと飛び退った。アンリがその場に崩れ落ちる。ロランとリュシアンがコメカミを揉む。


「ぎにゃぉぉぉぉん!!(俺勝利ぃぃぃぃぃぃ!!)」


 何の勝負だ。


「うるさいね」

「な゛っ!(んだど、ごるぁ!)」

「うるさいって言ったのが聞こえなかったのかい? 食事時に騒ぐなんて……悪い子だねぇ?」


 イザベル、再登場。

 気付けば周囲の人間はモクモクと食べている。昨夜の喧騒とは大違いだ。

 それもその筈、イザベルが出勤中は『食事時』なので『大暴れ・大騒ぎ』は厳禁である。だが、イザベルも鬼では無いので一度目は見逃す。が、二度目は容赦しない。

 ブサはすでにアウトだった。リュシアンの行動は遅かったらしい。だが、ロラン達は見逃してくれるようだ。ならば、どうぞどうぞとブサを差し出して食事を再開する。

 ちなみに、アンリは阻止しようとして脇腹への鋭い突きと、正面に座るロランからの爪先への容赦無い攻撃で悶絶する事となった。


 その後、無理矢理イザベルに『アーン』で完食させられ、勤務時間が終わって満足そうに立ち去るイザベルと、真っ白に燃え尽きたブサが残された。

 そしてイザベルが帰宅した途端に喧騒が戻る。

 イザベルの『あーん』を止められなかったショックに、モソモソと一人だけお通夜状態で食べるアンリへとリュシアンが告げる。


「あ、そうだっタ。アンリ、今夜からブサと同室ナ」

「ん? そういやぁ、今朝そんな事言ってたなぁ?」「あぁ、あれか」

「よろしいんですか!?」


 アンリ復活。ブサはまだ燃え尽きている。

 

「ロラン、良いだロ? その方が俺も休めル」

「あ~……ん、まぁ……仕方無えか。体調は万全にしときたいしな。ただし、程々にしといてやれ」

「はいっ! もちろんです!!」


 そう答えるや否や、ガツガツと一気に飯を掻き込み……


「それでは、私は先に休ませて頂きますね!」


 そう言い残すと、未だ真っ白に燃え尽きていたブサを小脇に抱えて、颯爽と部屋に戻って行った。スキップで。床が痛む! とフランシスの怒鳴り声が響くが、すでにアンリには聞こえていない。

 あまりの行動の素早さに、ロラン達を沈黙が包む。


「……俺、早まったカ?」

「…………」「俺ぁ知ーらねぇ」 

 英気を養う。ブサが、とは言っていない。

 今回ブサはむしろ吸われる方。


 飯マズさん選択クイズ。どちらを選ぶんでしょうか。

 そんな私の知人は、マヨネーズ無かったからと言って練乳をぶっこまれたシーザーサラダを食べました。すごく、甘じょっぱかったそうです。塩も入れられてたのが余計にきつかったとの事。

 香りを出したくて荒挽き胡椒を使ったの! なんて自慢気に言わんで良いから大人しくマヨネーズを買って来い。もしくは普通にシーザードレッシングを買え、と言いたかった……というのが知人の最後の言葉デシタ(死んでない)


 何故、練乳を使ったのか。理由『見た目が似てるから』。


 ネタでは無いのです。合掌。

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