どうやら、明日への準備と裏のお話らしい
「……考えれば考えるだけ、分からなくなるわね。ひょっとしてあなた、わざと分かりにくく言ってない?」
(言ってません、マム!)
ブサの言葉にしばらく考え込んだ後、頭痛がするかのようにコメカミを押さえながら搾り出した言葉には、進展しない状況と説明が要領を得ないブサに対しての怨嗟に溢れていた。
その言葉の発する怨念と、オレリアの眼力に一瞬で屈服したブサは、ビシッ! と背筋を伸ばしながら必死の形相で首を振る。
その様子を見ながら、なるほど……あえて目で脅すという手もあるのか、とリュシアンが参考にするべく考えていた事をブサは知らない。
真偽を見抜くかのように、じーっとブサの目を見つめていたオレリアだが、どうやら嘘は無いようだと目を閉じる。視線による威圧感の無くなった事によりクニャッと背筋の曲がったブサだが、オレリアが目を開けた事で再び背筋を伸ばす。
「ハァ……あまり参考にはならなかったけど、一応お礼は言っておくわ」
「俺らとしては、コイツがむしろ混乱させた事を謝罪させたいところですが……」
「まぁまぁ、そう仰らず。オレリアの事は申し訳ありませんでしたが、これ以上はブサ殿の事が漏れないように尽力致します。ですが、ブサ殿も軽率な行動は控えて下さいね。私が秘密を守ろうとしても、当の本人がそれを漏らすような行動をするようでは庇いきれませんので」
「ぎなぅ……(気を付ける……)」
多分無理だ。何故ならそれはブサだから。
「それでは、本日は護衛を引き受けて下さりありがとうございました。後の事はこちらだけで大丈夫ですので、ロラン殿達はこのままお帰り下さって結構です。明日はまた今日と同じ頃に来て頂けると助かります。……私達も、出来れば明日でケリを付ける気ですので」
「あ、いえ。こちらこそ余り役に立てなくて申し訳ありません。それでは、また明日」
一礼して退室していくロラン達を見守る枢機卿の二人とギルドマスター。
「……それで? あの猫とあの男に接点は無いのね?」
「門前での騒動が初接触なのは間違いありませんな。まぁ、内面的には猫の中の御仁も似通った性格ではあるようですが、猫の体である以上何かをする事も不可能でしょう」
「ヴィルジール?」
「魔力が似通っている、という点では疑いもありましたが……恐らくそれは無いかと思います」
「はぁ……頭が痛いわね」
ロラン達がいなくなった部屋で、さっきまでのいがみ合う態度は何処へやら。極普通に会話を交わす今の姿は枢機卿としての威厳に満ちていた。自然とセヴランも態度が改まる。
もちろん、セヴランは先程の二人の態度が演技であった事を知っている。流石に『胸』の件で喧嘩するとは思わなかったが。
今の姿こそが、本来の姿である。
「考えるだけ無駄なのかもしれませんな。それに、ワシらがこの後せねばならぬ事の為に、少しでも早くこの尋問を終わらせる事としましょう」
「その通りですね。まず、フェリシーの件での証拠はすでに集まっています。今日の尋問には証人が間に合いませんでしたが……この件に関しての言い逃れは不可能です。それと、ギルドの所有奴隷を匿っていたという件も。実際にミシェルと共に行動していたのは事実ですし、外見や名前を偽っても罪人として登録された際の魔力波長データとの照合がすでに完了していますので、こちらも言い逃れは出来ません。ですが、制約云々に関してはあまり公言しない方が良いでしょう。犯罪組織に目を付けられて奪われても困ります。損害を与えられた分は少しでも返して貰わないと……」
「制約でガッチガチにして犯罪奴隷が妥当かしらね。英雄になりたがっているようだし、魔獣討伐に従事し続けて貰うのが良いかもしれないわね。優秀な治癒師をしっかり付けて、そう簡単には死ねないようにしないと。自身の制約も解除出来るようなら、また使い道を考えないといけないけど……」
「盗賊ギルドの逃亡奴隷に関してはどうなりますか? もはや、制約の掛け直しは不可能なのでしょう?」
「彼女の矯正は不可能ですな。あちらのギルドマスターの言では、最初はともかく、逃亡前は仕事も真面目にやっていた事から恩赦として制約の軽減も考えていたらしいが……こうなってしまっては盗賊ギルドで再び引き取るのは不可能。制約の掛け直しが出来ないから、犯罪奴隷とするのも不可能。となれば……その先は一つしかありませんな」
「助けたつもりの女性が、自身のせいで……ともなれば、彼も少しは反省もするのでしょうか……」
「無理ね。アレは絶対に自分の非を認めようとはしないわよ」
「全く、害悪にしかならん男だ……」
明日の尋問に備えるべく、話し合いを続けるセヴラン達。
話し合いの結果、セリアに関しては情報提供もあったのである程度の恩赦を。とはいえ無罪放免とはいかない為、強制労働への一定期間の従事か、罰金の支払いとギルド員資格の剥奪が無難だろう。それと、放免後の今回の件の口外禁止を制約に科せられる。
ギルド員資格の再取得は可能だが、審査は厳しくなるし再取得料も高額だ。ちなみに、一度ギルドに登録した者は魔力波パターンを登録されるので、名前や外見を偽ったとしても新規で登録する事は不可能だ。万が一そんな事しようものなら、今度こそ奴隷落ちは免れない。
ララに関しては被害を受けたギルド員も多い事から、ギルド員資格剥奪と再取得の不可。そしてララが原因で怪我をさせた相手への賠償金の支払い命令だ。
だが、もはやギルド員として活動して金を稼ぐのは不可能な為、普通に働くしか無いのだが、その場合は残りの人生を賠償金を支払う為だけに費やす事になるだろう。上手く自身の部族と連絡が取れれば賠償金の請求をそちらに回す事も可能かもしれないが、そうなれば自身の部族での価値は最落。強制的に連れ戻され、その後の扱いは言うまでも無いだろう。だが、ララの性格的に深く考えずに部族に助けを求める可能性が高い。
そしてアンリエットはララと同様に、ギルド員資格の剥奪と再取得の不可。ララ程では無いが、アンリエットが原因で怪我をさせられたギルド員はゼロでは無いので、彼らに対する賠償金が課せられる。それと、エルフの氏族の元への連絡。賠償金は氏族が負担し、アンリエットは恐らく二度と村から出される事は無い。
エルフは基本的に誇り高い種族だ。それが行き過ぎて他者を見下す者もいるが、彼らは自身の氏族から罪人が出る事を許さない。
ララとアンリエットへの罰が厳しすぎるようにも思うが、この件はそれだけ重く見られているという事だ。
だがとりあえず、比較的罪の軽い三人への処分はこんな所だろう。
ミシェルの処分はセヴラン達の話通りとして、アンリとフェリシーにも明るい未来はもはやあり得ない。
アンリには英雄としての未来は訪れる筈も無く、フェリシーが聖女として崇められる事も無い。むしろ間逆の、歴代の悪人と並べられる程の悪人、悪女として記録に残される事となる。
「ふぅ……大筋はこんなところでしょうな。細かい所はまだ相談し合う必要もあるでしょうが、落とし所としてはそこそこ無難な所かと」
「そうね。教会としては……まぁ、不満はあるけれど」
「幸いだったのは、襲撃された治癒師の治療が迅速であった事と、焼失した文書の復旧が出来た事ですね。運営資金の盗難は困りましたが、他の支部から余剰金を回して貰う事で何とか治療所などに影響が出なくて済んだのも幸いでした。だからと言って、彼らを許す事は出来ませんが……」
「そりゃそうよ。枢機卿だって人間だもの。万人に寛容であれ、なんて不可能だわ。そうなりたければ、死体にでもなるしか無いんじゃないかしら?」
「死んだ後アンデッドになる可能性はありますが」
「……なら、灰になるしか無いかしら?」
「そうなれば肥料にも出来そうですね。良い案です」
「お二人共……物騒なお話はその辺にして頂けますかな? まだこの後、他の関係者にも話をせねばなりますまい」
「そうね……」
「出来れば明日で終わらせる為にも、迅速に動きましょう」
ヴィルジールとオレリアの不仲は一応演技。……なのですが、時々本気。
油断させてボロを出すかなー? と一応やってみたけど結果は白判定。だが、ブサの性格はバレバレである。
そして裏では黒いお話です。この後根回し。今夜も徹夜。その恨みは余計にスカスカ頭に向けられる。
なお、ギルド員資格再取得不可はかなりきつい罰。これをやられる=人格破綻者と見なされますので、普通に働こうとしてもほぼ不可能となります。
ララとアンリエットの未来は暗い。セリアはまだマシな方。
ギルド員資格剥奪は、ギルドに多大な損失を齎した人物に課せられます。
これだけなら再取得は可能ですが、厳しい人格チェックや、常識チェック、技量チェックが行われ、高額な再取得料が掛かると共に、ギルドカードは再取得者用カードと専用魔道具が渡されます。いわゆる前科持ちと一目で分かる。そんな状態で仲間を募る事はほぼ不可能なので、個人の技量が余程優れていなければ人生ハードモード。大人しく故郷に戻った方が余程マシという。
再取得不可まで行くと専用魔道具が付けられ、その事が誰の目にも明らかに。隠そうとすると音と光が乱舞します。晒し者状態不可避なので、隠遁生活するしか無い。
あるいは盗賊落ちするか。ただし、この魔道具にはGPS的機能もあるのでアジトの場所が丸分かりとなります。むしろ盗賊になってくれたらギルド歓喜。喜んで殲滅に伺います。もしかしたらテオドールが。
明日は猫又公開日なのでこちらはお休みです。
次話公開は5月3日となります。




