どうやら、相手を理解しようとしてみるらしい
尋問が終わってみれば、やはりミシェルの尋問は尋問の体を成しておらず、あらかじめそれを予想していたヴィルジール達のような教会関係者や、それを教えられていた一部の者達以外からは余計に怒りを買う結果となった。ミシェルの言い分はほぼ全てが『アンリのため』だったからだ。
尋問が進むに従って場の雰囲気は悪くなり、最後の方には証言者として呼ばれた者達から怒声が飛ぶ始末だった。逃亡奴隷への反感は大きい。特に、元犯罪奴隷に対しては。そしてそれは、逃亡奴隷を連れていた者達へも向けられた。
だが、それに対する彼女達……というより、フェリシーの態度が良くなかった。全ての奴隷の存在を否定し、それを許容する者の方が人格的に歪んでいる、と声高に主張したのだ。
それはそもそもアンリが主張していた事であり、フェリシーはソレを自己の寛容さと博愛を示す為に使ったのだろうが、そもそも論点がずれている。
ついでに言うなら奴隷制度は数代前の国王が発布した制度だ。それも当時の国王が主導となって。そしてそれは今も適用されている。
それに異を唱えると言うのは、王を批判する事にも繋がるというのを彼女は理解しているのだろうか?
確かに、当時は奴隷への扱いが良くなかったという事実はある。だが、それも今では改善され、奴隷を扱う者へもきちんとした制約が科せられる事となり、奴隷の待遇は大幅に改善されている。
犯罪奴隷に関してはそれ程大きな変化は無いが、犯罪奴隷はそれそのものが罪の贖罪である。それ故、犯罪奴隷への待遇の改善は被害者や被害者遺族の反感を買う、と判断された為だ。
ただし、違法奴隷に関しては話は別で、国も頭を悩ませている所ではある。
対策としては盗賊ギルドなどを動かして、違法奴隷を扱う商人などを発見次第検挙し、保護された違法奴隷は教会主導で治療や心身のケアをさせている。その後は希望する者は家族の元へ戻したり、戻る場所が無い場合は格安の住居や職の斡旋をするなど、出来る限りの対応はしているのだが……完全にゼロにするのはなかなか難しい所だ。
ちなみに、奴隷制度は救済措置と懲罰がまとまった制度だ。救済措置としてのそれを廃止すればたちまちスラムの人口が増加し、治安の低下へと繋がる事にもなるだろう。懲罰としてのそれを廃止すれば犯罪への抑止力を弱める事にもなり兼ねない。
それらの事を指摘されて慌ててフェリシーが反論していたが、その内容はお粗末の一言で、民への負担を増加させる事に他ならなかった。
結局、他人の言葉を流用しただけであったフェリシーは指摘される度に言葉に詰まり、それがさらに怒りを買う結果となり、完全に場の人間を敵に回しただけとなった。一体何がしたかったのか。
* * * * * * * * * *
「で、何でまた俺らまで此処に……?」
「さっきはまともに話しも出来なかったもの。あのスカスカ頭に無駄な事教え込んだのはもう一人のスカスカ野郎だって言うじゃない? 異世界的常識? っていうの? それを、一応聞いておきたくて。あなた達はその猫の保護者なんでしょう?」
「ほ、保護者……まぁ、そうっちゃそうなんでしょうが……」
「あ、口調は気にしなくていいわ。私もこんなだし、堅苦しいのって苦手なのよね。ウチのお偉い爺共で十分だわ」
「「「「…………」」」」
「ぎなー(俺、わりとこの人好きだわー)」
尋問終了と同時に今日は御役御免と思いきや。突如乱入して来たオレリアがブサを掻っ攫い、焦るロランの腕を取り、そのまま先程の部屋へと連れ込まれた。連れ込んだ理由は『話を聞きたい』という事だが、それならば普通に言って貰いたいものだ。反応に困る。
その後入ってきたセヴランとヴィルジール――入室直後、ヴィルジールとオレリアには無駄に突っかかり合う事をやめるようにセヴランが必死に頼み込んでいた――も席に着き、護衛兵達は外で待機させた状態で話し合いは始まった。
「まず、あのスカスカ野郎が吹き込んだ事について。あなた達の世界に奴隷はいないの?」
『いちおう いない けど いる』
「……法的にはいない。けれど、実際にはいるという事?」
『しゃちく』
「しゃちく?」
『やすいちんぎんで はたらかされる。ぼうげんや ぼうりょく。じょうし くそ。やすみも しごと おしつけられる』
……まぁ、ある意味間違ってはいないとも言えるが、一応あれは奴隷デハナイ。奴隷デハナイヨー。
それにしても、ブサの前世は社畜だったのだろうか? やけに実感が篭っている。
「ん~、いないとは公言しているけど、実際には存在するのね。それなら何故、あのスカスカは奴隷はいないなんて言ってるのかしら……? 表には分からないよう、それだけ巧妙に隠しているとか……」
『しゃちくは ゆうめい』
「有名なのかよっ!?」
「……ならば彼は王族とか? 民の生活を知らないからこその発言かしらね?」
ブサの説明が説明の為、なかなかに誤解を生んでいくカオスが繰り広げられつつあるが、続くセヴランの発言により軌道修正がなされていく。
「恐らくだが……あやつは働いた事が無いのではないだろうか? 故に、無知。実情を知らぬからこそ、綺麗事を並べ立てているだけなのでは?」
「ん? ん~……そっちの方がしっくり来るわね。アレの言動からは責任感とかも全く感じられなかったし。王族と言うには……おつむがアレすぎるわ」
「確かに。彼の発言は空想的というか……自身の読んだ物語の主人公に自分を投影させて、成りきっているようにも感じられますね。あんなのが王族だったら、暗殺待った無しでしょうね」
「ひにょぉ……(異世界、怖ぇ……)」
幼子ならば「あらあら、可愛いわね」で済むが、残念ながらあの男の年齢では「あらあら、痛いわねー」となる。時にそれを『中二病』と言うが、少なくともあの男は前世分+こちらで生きてきた分を合わせたら、十代はとうに通り越している筈なのだが……精神年齢は前世のままで止まっているのだろうか?
それにしてもヴィルジールが鋭すぎる。さり気無く黒い所が漏れているが。
そしてヴィルジールの言う通りで、アンリは自身が呼んだ小説のテンプレを元に行動している。だが、深く考えずにその場限りの行動をする為に、勘違いからの行動が多かったり、後から問題が発覚する事になる。
「他には? 国が犯罪者の面倒を見ているっていうのは本当?」
『けいむしょのことか?』
「けいむしょ……ねぇ。懲罰施設?」
『くにがかんりしてる』
「ふむ。罪人を一箇所に集める施設……といったところか」
「そこでは罪人は何をしてるの?」
『ろうどう。ときどき おどる』
「踊る?」「……踊る、んですか?」「踊んのかヨ……」「踊るねぇ……」
「……労働は分かるとして、踊る? 罪人に踊らせて何をするんでしょうか。雨乞いや、儀式的なものでしょうか?」
説明がやはり明後日の方向に飛んで行く。
ざわつく現場。罪人が何をしているのか、と聞かれて『踊る』と答えられたら当然だろう。
ブサの唐突な奇行にはそれなりに慣れているロラン達もお手上げである。
ちなみに、ブサの言う『踊る』はフィリピンのセブ島の刑務所の事だろう。厚生プログラムの一環として行われているのだが、実は観光スポットにもなっていたりする。
だが、やはり刑務所の説明としてはずれているとしか言いようが無い。
実際にはブサも刑務所の実態など知らない為、中途半端な知識であったり、ネタ的な知識を述べただけだ。そして導き出された情報がコレというのは……ある意味流石だ。
「……だが、労働はさせられているのであろう? それ程違いは無いように思うが」
「言われてみればそうですよね。ならば、やはり彼の言葉は矛盾してますよね」
「まぁ、労働環境が違うのかも知れんな。命の危険が無い仕事をさせられている……とかな」
「でも、それで贖罪になるのかしら? 被害者や被害者の家族の心情も考えたら、劣悪な環境に罪人を置いた方が良いのでは無いかしら。どうして罪人に気を遣う必要があるの?」
「それこそあの男の言っていた理由だろう。罪人とて『人』だという、な」
「「綺麗事(です)ね」」
社畜……ぅっ! 頭が……!
まぁ、冗談抜きでブラックな所は本当にブラックです。給料を貰えるだけマシと言われればマシなのかもしれませんが、その後吐血やらなんやらと、治療費が掛かるのはちょっと……。
この世で一番ホワイトな仕事って何でしょうね?
ちなみに……ブサにははぐらかそうという魂胆はかけらも無く、本気でそういう程度しか知りません。ニュース見ないし、勉強嫌いだし、的な。ただし、ネットは見るのでネタは知ってる。
そしてヴィルジールは腹黒。段々本性が出て来ました。
表面は完璧です。本性を見せるのは胸襟を開いた相手のみ……という事で、ロラン達も信用してますよ的な。後は結果的にオレリアにばれてますので、ならば自分も本性見せるべし! と。
~~以下、えぐいお話~~
犯罪者、程良く使い潰して利益を少しでも出しましょう。がこちらの基本的世界ルール。
処刑=殺すだけだとそこで終わりですので、基本的には鉱山労働、偵察用魔道具持たせて魔獣の巣の偵察、魔獣討伐用の餌、魔法薬や魔法の実験台等々。死ななければ治療は可能ですので。
魔獣討伐用の餌とは、つまり囮です。餌で誘き寄せて、後方からドン。死なせないように出来るだけ気を付けますので、死ねたらむしろ運が良い。
生きていれば回収して、治癒師に治療されて次のお仕事です。
治癒師の治療も効かなくなれば、最後に餌として使われて一緒にドーン。
~治癒師の治療~
犯罪者になると何故か治癒の効果が薄れます。と言うより、次第に薄れるようになります。最終的には効かなくなるので、そうなったら最後のお仕事。
実際にはそこまで生き延びる事はあまりありません。




