どうやら、二人は徹底的に反りが合わないらしい
「あ……あんたねぇ……!」
「「「「「あ」」」」」
「人の許しも無く、勝手にアレコレと暴露してんじゃないわよ!!」
「許可があれば、よろしいのでしょうか?」
「出す訳無いでしょ!」
「では、無断で話すしか無いのでは? そもそも、そんな技能に頼らなければ自身の矜持を守れないなどと、教会の枢機卿ともあろう者が情けないとは思わないのでしょうか?」
一投された茶受け皿をきっかけに冷戦勃発。受け皿が木製で良かった。
そして、癒しの美中年なんて人はいなかった。ここにいるのは無駄に顔の良い、腹黒なおっさんである。
顔を突き合わせてガルルルル! と威嚇しあう二人を前にして、巻き込まれたくない面々が壁際に集まる。各々、手にはしっかりと差し入れたパイを持って。
さり気無く同室していた護衛兵達にもパイは配られていた。差し入れ分はかなりの量があったので、最初から他者にも分ける事を想定していたのだろう。テオドール、太っ腹である。
ちなみに、ロラン達の分はきっちり自分達用のパイを食べている。ソーッと手を出そうとした者が約一名+一匹いたが、あっさりと阻止されて両者とも、今はモソモソと大人しくパイを食べている。
壁際でパイを食べて小腹を満たしつつ、ひっそりと存在感を消す彼らの前では竜と虎が睨み合っていた。今にも取っ組み合いそうな雰囲気だ。
「(止めなくて良いのかよ、護衛兵さん達よ)」
「(私共の役目は、暴漢などから猊下をお守りするのが役目です。……従って、枢機卿同士の諍いの仲裁は私共の役割の範疇を超えている、と判断します)」
「(平たく言うと?)」
「(巻き込まれるのはごめんです)」
正直すぎる。
「(で? 何だってあの二人はあんなにいがみ合ってるんだ?)」
「(……良くあるパターンなのですが、お二人は同期でして。その頃からライバル関係にあったそうです。その頃から仲は良くなかったらしいのですが、それを決定付ける出来事が……)」
「(何があったヨ?)」
「(……お二人の仲を決定付けたのは枢機卿になってからでした。その……若かりし頃から非常に人気のあったヴィルジール猊下のファンクラブですが、設立後年数が経つにつれて過激化する連中が出て来たんです。その連中を焚き付けた結果、一部に腐れ神が発生しまして)」
「(……神? 巫女でもいたのか? んー……何だか、いまいちよく分からねぇなぁ?)」
「(ぶっちゃけると、男性同士の絡みを推奨する本などを配布した結果、猊下がその対象にされまして。その事を猊下が目を掛けていた部下が知ってしまい、うっかり信じてしまった彼がノイローゼになり掛けたという経緯がありまして)」
「(お、おぉ……ぉ、おん?)」「(簡潔に言うト?)」
「(お二人は決定的にそりが合わないのです)」
最終的にはその一言に尽きる。
基本的には他者には寛容で、友好的に接するヴィルジールだが、唯一誰の目から見ても仲が悪いと一目で分かるのがオレリアだ。
その原因は護衛兵の話の通りだ。
もっとも、オレリアが話した内容が一部のお腐れ様に伝わってしまったのは完全な事故で、オレリア的には故意に燃料を投下したつもりは無かったのだ。ただ、その時話した相手がお腐れ様道に足を踏み入れかけていた人物で、その人物が話した相手が完全なるお腐れ様だったというだけで。
それが流れ流れて、ヴィルジールをネタとした話が恐るべきスピードで腐海の森の住人達に伝わり、この上ない獲物としてロックオンされる事となった。
一つオレリアを擁護するなら、オレリアが何も言わずとも遠からずターゲットとされていたのは間違いなかっただろうという事だ。
もっとも、この年ともなれば完全に吹っ切れているので、噂や実際の腐った造話の内容をうっかり耳にしてしまった善良な部下達をからかうネタにしているのだが。部下にとっては災難である。
真面目であればある程、自身の上司であるヴィルジールの不埒な内容の作り話があちらこちらで囁かれている事を伝えるかどうかで悩み。悩んだ結果、伝える事を決心したらしたで、今度はヴィルジールからからかわれる事になるのだから、部下の人達は色々と報われない。
逆に、吹っ切ってしまった部下の人達は、次の哀れな被害者の事を賭けの対象としていたりするのだが。
本当に、報われない。
とはいえ、本格的に思い悩むようになる前にはキッチリとネタばらしされるので、思い余って腐界に特攻掛ける者は今の所発生していない。アフターサービスも万全である。
「ん?」
パイを食べていたサミュエルが唐突に扉の方を振り向く。それにつられて護衛兵達も振り向くが、特に何も無い。首を捻ったところで、扉をノックする音がした。
遅れてそれに気付いたセヴランが慌てて食べ掛けのパイを一気に詰め込む。口一杯に頬張ったままモゴモゴと応えを返すが、当然ながら扉の前に立っている人物には届かない。
必死な形相で訴え掛けられたサミュエル。物凄い嫌そうな顔をした。その直後視線を下げて、セヴランの手元にあるまだ手の付けられていないパイを見つめる。サミュエルの視線に気付いたセヴランがパイを手元に引き寄せようとするが、やる気無さ毛に椅子に座りなおしたサミュエルに仕方なく一切れ譲る。
それを見てニンマリと顔をゆるませたサミュエルを尻目に、即座に飛び出したブサが脅威の身体能力でドアノブに飛び付き、ノブを自らの体重で押し下げ、飛び付いた時の威力を用いて扉を押し開く。
自身の思っていた応えの声と、ギギ……と鈍い音を立てて開いた扉、そこに張り付いた猫(?)を見て一瞬うろたえた様子を見せるも、伝令としての職務を果たすべく室内にいる人物に向かって声を張り上げる。
室内のモロモロのカオスの一切を無視して。
具体的に言うなら、年甲斐も無く互いの顔をつねり上げる某枢機卿達とか、扉が開いたのを確認するや取って返し、テーブルの上のパイをドヤ顔の猫(?)が奪取した瞬間絶叫を上げたとある男とか。それを見ながら乾いた笑いを上げている某ギルドマスターとか。
それらを全て無視して、己が職務を果たすべく一切を視界から消す。だが、それをすると情報を伝えるべき相手も全員いなくなるのだが良いのだろうか? ……まぁ、とりあえず耳に入れば良いのだろう。……入れば……入ると、良いね。
「ご歓談中失礼致します! 中断されていた尋問ですが、尋問対象を変更し再開される事となりました! つきましては枢機卿様方、ギルドマスター様にもご出座を願えますでしょうか!?」
伝令の声が響く。……声だけが、響く。
「い、いい加減……その手を離したらどうなの? 仮にも枢機卿が女性に手を上げるというのは外聞が悪過ぎるのではないかしら……!?」
「そ、それを言うなら君の方こそ、女性ともあろう者がテーブルに足を掛けて男性に手を上げるというのも……っ、なかなかに外聞が悪い事だと思うのだけど……ね!?」
「悪い、今取り込み中みたいだわ」
「……その、ようです……ね。……えーと、この場合私はどうしたら?」
「とりあえず、隙を見て私共が伝言を猊下にお伝えします。あなたは他にもお伝えしなければならない方がいたら、そちらを優先して下さい」
「は、はい……! ……えと、伝わります、よね??」
「……努力します!」
「(伝わるとは言ってない)」「(それを言うナ!)」
色々、グダグダである。
ところで良いのだろうか? 枢機卿二人の仲違いなど、格好のネタだと思うのだが……。
「あ、そちらに関しては問題ありません。このお二人の仲の悪さは知らない者はおりませんし、それを悪用しようとした人は一人も残っておりませんので」
「何つった?」
「何か、ご不明な点でもありましたか?」
「…………。や、何でもねぇ」
「ん、そろそろ良さそうですかね」
そう言う護衛兵の前では相変わらず、枢機卿の二人が互いの頬をつねり上げている姿があった。
護衛兵は『そろそろ』とは言ったものの、ロラン達にはさっぱりさっきと違いが分からない。何がそろそろなのだろうか?
「体力的に、です。お二人とも、体力は年齢相応ですので」
その言葉に間違いは無く、護衛兵が『そろそろ』と言ってから数分後にはふら付きながら手を離し、椅子にグッタリとした様子で座り込む二人の枢機卿が居た。
容姿だけ見るならば、二人とも実年齢以上に遥かに若く見える容姿をしているのだが、今の疲れ切った姿は年相応と言って良いものであった。
「猊下、伝令の者が参りまして。尋問の用意が整った、との事です」
「……ハ……ケホッ……それ、今すぐ……行かないとだめなの……でしょうかね……?」
「ゲフゲフッ! ざまぁないわね! この程度で動けなくなrグェッホゲホッ! カハッ!!」
「げ……猊下、どうか落ち着かれませ……」
「……人の事、言えませ……ん、ね、オレリア……」
ゼェハァ、と荒く息を漏らしながらも罵り合う二人。時折むせている。
「……とりあえず、ワシだけでも先に行っておくとしよう」
ガシッ!!! ×4
「な……っ!?」
「逃がすと……思いますか?」
「ここまで来たら一蓮托生だよなぁ?」
「俺らにこの依頼持って来たのは、そもそもギルドマスターだよナ?」
「自分だけ逃げようったって……そうはさせるか……!」
あちらはあちらで、こちらはこちら。見苦しい争いを繰り広げる野郎共+α。
だが、まぁ、ある意味、平和な証拠とも言えるのかも、しれない……?
何故か反りの合わない人っていますよねー。犬猿の仲的な。
でも犬猿の仲なのに仲良いワンコと猿がいたり。可愛い。
私の知ってる人は巨乳と貧乳でしたが。
巨乳は『重い』『邪魔だ』『あせもが出来る』などなどと。で、貧乳は『寄せてあげるブラが負けた』『胸に手を置いた後、不思議そうにしている赤ん坊の無垢な視線が……』と。これに関しては貧乳の味方をさせて頂きます。




