どうやら、一旦仕切り直しといくらしい
SU SU MA NU !
「……はぁ、ワシとしてはお断りしたい気持ちで一杯なのですが、それは恐らく不可能な事なのでしょうなぁ……」
「そう、思って頂いて構わないわ。そこの腹黒枢機卿が何を企んでいるのか、私もきっちり聞かせて貰いますからね……!」
「どなたの事を仰っているのか、私には分かりかねますが……あなたの暴走を止める手立ても思い付きませんので、ここは大人しく、粛々とした態度でお誘いした方が良さそうですね……」
「……そういう物言いが腹黒いって言ってるのよ!」
「はて……?」
突如会話に参戦して来た新たな枢機卿を交えて、狸と狐の化かし合いの如く会話を続ける二人。その二人に挟まれたセヴランは、口から魂が抜け出そうな勢いで黒目が瞼の裏側へ移動しつつあった。
もはやこの場に、ヴィルジールをただの『美中年』と思う者はいない。
そんな猛獣達に挟まれた気の毒なおっさんを横目に眺めつつ、ロランは護衛兵達に状況を確認する。
「(……って事は、あの巨乳のご婦人は枢機卿の一人っつーのに間違いは無いんだな?)」
「(はい。オレリア様は枢機卿のお一人です。教会の一部の者達からは『虚乳』の枢機卿と呼ばれております)」
「(ん? だから『巨乳』だよな?)」
「(いいえ、『虚乳』です)」
一応護衛としてこの場にいる為、と言う建前もある。仮にも枢機卿の一人であるヴィルジールが言うのだから間違いは無いのだろう。なので、念の為といった感じで護衛兵達に確認を取るロラン。
思っていた通りロラン達の僅かな懸念は的外れで、オレリアが枢機卿である事に間違いは無く、護衛兵もしっかりと枢機卿に間違い無いと頷いていた。オレリアの背後からは、ヴィルジールに付けられている護衛兵達と同じ格好をした者達が付いて来ているので教会関係者である……それも護衛を付けられる程には重要人物だというのは確信していたのだが。
そう、しっかりと頷いてはいたのだが、護衛兵達にはロランの言葉の中に訂正したい箇所があった為に教会内部にて密かに呼ばれている枢機卿の通称も合わせて説明していた。一部上手く通じていなかったロランに聞き返されるが、再度キッパリと訂正し直す。音にすれば全く同じなのだが、ここは譲れないところらしく語調を強める護衛兵。彼の言葉にはヴィルジールに付けられている他の護衛兵達も力強く頷いていた。ちなみに、結局ロランは違いを理解していない。耳で聞く音は同じなので。
護衛兵共、お前らオレリア枢機卿への敬意をどこに落っことして来た。速やかに拾って来い。
「私共は全員ヴィルジール枢機卿猊下の護衛ですので」
……さいですか。ちなみにオレリアの背後から付いて来ていた護衛兵達は聞こえない振りをしている。
「ちょっと! 聞こえてるわよ、そこ!」
「突然大声を出さないで下さい、オレリア。そんなに急に叫んだりしたら萎んでしますよ?」
「萎まないわよ!」
一体何の話をしているのか。
「あら! 随分とぶっさいくな猫がいるじゃない! あなたのペット?」
「いいえ、あの猫は彼らの……仲間? ですよ」
ガッツリ見つかった。無理も無い。目立たないように身を隠すどころか、オレリアがこの場に現れた瞬間からオレリアを食い入るように見つめているのだから。
それだけで無く、オレリアの持つ二つの山に登頂するべく飛び付こうと、必死にもがいている最中なのだ。そんなオレリアに飛び付こうと暴れるブサを抑えようと、リュシアンが必死に食い止めているのだから、これでオレリアの目を引かない訳が無い。
暴れるブサと、引き止めようとするリュシアンを興味深そうに眺めるオレリア。心なしかオレリアの目がぎらついている。完全に興味を持たれてしまっているようだ。
ロランとしては、出来る限りブサ関係で面倒そうな関わりは持ちたくないのだが、明らかにトラブルが順番待ちをしている状況だ。どう考えても逃げられそうに無い。
どうせ自分達はこのまま、済し崩しに面倒事に巻き込まれるんだろうな……と遠い目をしていた。
しかも、ヴィルジールからはブサは自分達の仲間と認識されている。若干疑問系ではあるものの、すでに口に出されてしまった言葉は覆しようが無い。オレリアにとっても『ブサはロラン達の仲間』という事になってしまっているのだから。
ハァ……と溜め息を吐きながらも、成り行きに身を任せるしか無かった。
そんなロランを申し訳無さそうにセヴランが見つめている。申し訳無いと思うのであれば俺らをここから逃げさせてくれと目で訴えるが、そりゃ無理だと目で返された。目線で会話をするな。
そのままロラン達の願いも虚しく、強制的に連れて行かれるのであった。
(ひゃっほーぅ! 巨乳ちゃんと一緒ぉぉぉ!!)
唯一喜んでいるのはブサだけである。
* * * * * * * * * *
「はぁ……結局、尋問は殆ど進みませんでしたね」
「まぁ、ある程度覚悟はしていたんですが。流石にこうもその通りになると……余計に疲れが溜まりそうですな。……そういえば、お前達何か持って来てくれていたんだったか?」
「……まぁ、そう、なんですが……。何で私達までこの場に同席させられているのか、という質問にお答え頂けますでしょうか? ギルドマスター?」
「……ワシの、精神安定、的な……という答えではいかんかね」
「「どういう意味でしょうか?(かしらね?)」」
ニッコリ笑顔の二人からサッと目を逸らすセヴラン。立場的には枢機卿の方が上なのだが、その二人を前にしてシレッとこんな事を言う辺り、やはりなかなかに良い性格をしていると言える。
だが、それに巻き込まれるロラン達としては溜まったものではない。
「ギルドマスター?」
「うむ、すまん、冗談だ。だが、お前達を同席させたのにはきちんとした理由がある。それを説明する前に、一度腹ごしらえをしておこう。思いがけず時間が出来たのだから、無駄にする理由は無い」
「……彼への尋問はすぐに再開されるのでしょうか?」
「可能ならば今日中に終わらせてしまいたいところだがな。先程の様子を見る限りでは……不可能と思った方が良いだろう。だが、奴の仲間達は自分達の状況をある程度把握したようだからな、そちらを先にしてしまうという手もある」
セヴランの言葉に少し考える。確かに先程の様子を見る限り、あちらのアンリはそう簡単には自身の罪を認めようとはしないだろう。それはすなわち、自分達も同期間拘束される、という訳で。
それならば合間にあの男の仲間達の尋問を済ませて、少しでも期間を早められるならそれはありがたい事だと思う。
「……そう、ですね。私達の手が早めに空くのでしたら、それに越した事はありません」
「うむ、すまんな」
「いえ……それと、こちらをギルドマスターへと。テオドールさんから預かりました」
「おぉ! あいつは元気……だな、間違い無く。それより腹が空いていたので有難い。猊下方もよろしければ」
「喜んでお相伴に預からせて頂きます」
「……私も、良いのかしら? まぁ、さっきあんな事を言った身ではありますけど……」
「えぇ、是非ご一緒に。テオドールの差し入れるものなら味は間違い無しですからな」
「それは楽しみですね」
そう言いながらアンリが差し出した箱は間違い無く、テオドールからセヴランへと言われた方の箱で。さり気無く取り間違う事を願っていたサミュエルは肩を落としていた。
そんなアホな事を願っていたサミュエルを睨みながら、セヴランへと箱を手渡す。
部屋を移動してもなお、性懲りも無くオレリアの胸をガン見していたブサだが、セヴランが箱を開けた途端に漂い出した匂いにヒコヒコと鼻を動かすと箱から出されたパイをロックオンする。
「ぎなっ!!(パイッ!!)」
「あら? 鳴き声も何だか変わってるのね?」
一声鳴いて、そのままテーブルに飛び乗ろうとしたブサを必死に抑えるリュシアン。そこに今度はサミュエルも加わっている。ちなみにサミュエルの行動は、『ブサにだけ食わせて堪るか』という心の狭さがさせた行動なのだが。
「ぎなっ! ぎなぁっ!!(パイッ! 俺にもパイを!!)」
……中毒を起こさせる物体は入っていなかった筈なのだが、この執着っぷりである。
確かにロラン達も、正直セヴランに渡すのを惜しいと一瞬考えてしまっていたが、コッソリとくすねる訳にもいかないので大人しく提出する。後でばれたら、そっちの方が怖い。
ギャーギャーと鳴き喚くブサをどう思ったか、オレリアが禁断の一言を放つ。
「そんなに食べたいなら少しくらいは私のをあげるわよ。こっちにいらっしゃい」
『巨乳』では無く、『虚乳』でした。
胸の秘密は次話にて。




