どうやら、門前でも一騒動あるらしい
やっと、町に……
やっと修羅が静まった時には、盗賊達に動ける者は誰一人としていなくなっていた。いつしか、呻き声すら聞こえなくなっていた。
猫も完全に固まっている。どうやら、最後の一撃の「な!」のインパクトが強過ぎたようだ。
そんな事とはつゆ知らず、テオドールはトドメを刺し終えると再びニコニコと猫と相対する。
「やぁ、猫君。待たせて本当に悪かったね」
「…………」
「ん? 猫君??」
猫の反応を見て不味いと思ったか、慌ててリュシアンがテオドールの元へ駆け寄る。
「テオドールさん、すみませン。俺ら護衛だったっつーのに、何も出来なくテ……」
リュシアンのその言葉を皮切りに、次々と他の男達も走り寄る。
「すみませんでしたテオドールさんっ!」
「あ〜、その、本当に悪かったなぁ……全く役に立たなくてよぉ……」
「依頼人の方を危険に晒すなど、護衛として不適切な行為でした。本当に申し訳ございません」
続々と謝罪の言葉を口にする男達。全員顔は極悪ばかりだが、仕事には基本真摯であるようだ。
……まぁ、時には脱線する事もあるようだが。
口々に謝罪をするその様に、テオドールも毒気を完全に抜かれたのか心底愉快そうに笑いだした。
「ハッハッハッ! いやいや、気にする必要は全くないとも! そもそも、リュシアンが盗賊の襲撃を教えに来てくれた時に、私が自分で出ると言ったのだからね。それを謝られてしまったんじゃ、逆に私の立場が無いよ。護衛を振り切って敵と戦おうとする依頼人なんてね」
どうやら、自分があり得ない行動をしているという自覚はあったようである。ただし、自重をしなかったというだけで。
ホッと護衛達全員が胸を撫で下ろす中、固まったままの猫はコッソリとサミュエルによって回収されていた。
「おい、良いかぁ。俺がこれから地面に降ろしたらぜってぇ、テオドールさんとこ行くんだぞぉ? 万が一にも行かなかったら……どうなるか、分かってんだろうなぁ」
「ゔな(了解)」
ヒッソリお話し中であった。そして、猫が投下される。
「ぶなぁ?(これで良いか?)」
「おや、猫君。あのクソ盗賊達のせいでヒドイ目に遭ったね。大丈夫だったかい?」
「ぎな(お前がな)」
大丈夫じゃないのはむしろ盗賊達の方だ。
どうやらさっき固まっていたのは上手く誤魔化せたらしい。そして作戦通りに猫が動いたのを見て、静かにハイタッチをする男達だった。
「さて、この盗賊達はいつも通りで良いかな?」
「そうですね。ただし、今回私達は一切手を出していませんので、取り分は無しでお願いします」
「そういう訳にはいかないよ。盗賊達の見張りもして貰わないといけないんだから」
テオドールが『見張り』と口にした瞬間、ロラン達の視線が一斉に盗賊達に向かう。恐らく全員の心境はこうだろう。
『見張り要らなくね?』
(見張り、要らなさそうだよな)
そして、今回も同じ事を考えている猫だった。
「あ〜、んじゃぁ。俺とリュシアンが見張りして待ってますわぁ。んで、ロランとアンリは護衛でいいだろぉ」
「俺かヨ!? ん、まぁしょうがねぇナ。仕方ねーから見張りしててやるヨ」
そして自主的に名乗りを上げたサミュエルと、強制的に決められたリュシアンであった。
しかし、ロランは弓を得手とし、アンリは魔法を得手とする。前衛がいない気がするが……いざとなれば、喜んで前に立つ依頼人がいるのだろう。きっと。
「それじゃあ、君達悪いが見張りを頼むよ」
「警備隊が来たら交代で戻って来てくれ」
「間違っても盗賊達を逃がさないようにして下さいね」
「ぎにゃ(逃げたくても無理だろ)」
先行して町に向かう組が口々に言う。それに苦笑いを返すと残る二人は、さっさと行けと言うように手を動かす。
それを見て、ロランもまた馬車を町へと走らせるのだった。
ガタガタとしばらく馬車に揺られる事、小一時間程度だろうか。少しずつ馬車の速度が遅くなって来たように感じる。何故『ように』なのか。
それは猫が馬車から落ちたら困るという理由で、御者台ではなく荷台に乗せられているからだ。更に言うならばガッチリとテオドールに抱えられているのである。
ちなみにこれは、修羅の心を癒すために必要な措置なのだ、とロランとアンリから力説されていた。男達に色々と弱みを握られている猫としては、粛々と従うしかないのであった。
「テオドールさん、もうすぐ門ですよ。後は詰め所で盗賊どもの事を報告して、早く連行してって貰わねぇとな」
「おや、もう着いてしまうのかい? 猫君と別れなくてはならないのは、何とも名残惜しいね」
「……テオドールさん、俺らは……?」
「猫君にもし、飼い主が見つからなければ是非ウチの子になって貰いたい位だよ」
どうやら猫の事を物凄くお気に召したらしい。何がそんなに琴線に触れたのか。それはテオドールにしか分からない。
馴染みの男達よりも猫との別れを惜しむテオドールだった。
「……俺ら……」
「しつこいですよ、諦めなさいロラン」
* * * * * * * * * * *
「っはー、やっとベッドで寝られるぜ……」
「詰め所と、ギルドへの報告が先でしょう。ん、やはり先に宿を取った方が良いですね。ロラン、宿は貴方に任せます。私は報告を」
適材適所、報告を誰がするのかは、きっといつも同じなのだろう。
「おう、了解」
「あぁ、念の為に猫も連れて泊まれるか、確認しておいて下さいね。念の為です」
「お、おぉ、了解」
「もし、宿が見つからなかったら猫君は私が預かるよ」
「…………俺らは?」
念の為とアンリは繰り返しているが、その実、猫と泊まりたい気持ちでいっぱいである。ついでとばかりに立候補するテオドールもまた相変わらずだった。
そしてロランの言葉は安定のスルーである。
ざわっ……ざわざわ……
(ん? 何だ?)
何やら門の前が妙にざわついている。……何かあったのだろうか。面倒事はこれ以上は関わり合いになりたくない猫は、耳をそばだててみる事にした。
ピクピクッ
「おい! 早く衛兵呼んで来た方が良いんじゃないのか!? あいつら、絶対ヤバイ奴らだろ!」
「あん? あぁ、あいつらなら大丈夫だよ。顔面凶器な連中だけどな。」
「大丈夫って……もし、何かあったら……!」
「お、おい。あいつらまさか盗賊の一味とかじゃねぇだろうな!?」
「おれ、ちょっと衛兵呼んで来る!!」
「うわ、あの男達また帰って来たのね。いい加減、何処か他の町を拠点にすれば良いのに……」
「何であんたってあの人ら目の敵にしてるわけ? 顔は怖いけど、割りとまともな人達よ?」
「だって気持ち悪いじゃない! ゴツゴツしてるわ傷だらけだわ、もう、全部気持ち悪いの!!」
「……つまり見た目が嫌って事よね。その割りにあんたの付き合う男って顔は良いけど全員クズよね」
「何よ、文句でもあるって言うの!?」
「まま、あのおじちゃんたちすごく大きいね?」
「シッ! 見ちゃいけませんっ!! 食べられちゃうわよ!?」
(食わねえよ)
思わず心の中で突っ込みを入れる猫だった。
そして、門前のざわつきの原因は全て自分達一行であった事を知る。
(原因こいつらか。衛兵呼ばれてるっぽいけど大丈夫なのか? 俺まで巻き添えはゴメンだ)
食事も貰って、此処まで連れて来て貰っているというのに、全くもって薄情な猫である。そして、さり気なく自分を騒ぎの原因から外している。
まぁ、現時点ではその通りなのだが。
(しかし、あの女の言う事はムカつくな。男は顔が良くないと価値が無いとでも言いたいのか? その割りには自分の男はクズしかいないみたいだがな。ハッ! ざまあみろ!!)
……何か、過去にあったのだろうか。ヤケに暗黒面を背負っている気がする。このまま闇落ちしないか、非常に不安である。
入れませんでした。まだ門前です。




