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どうやら、尋問よりも大事なものがあったらしい

 もはや真偽官の言葉も耳に入らない様子で、『自分は悪くない』『自分は神に選ばれたんだ』と繰り返し大声で喚き散らすアンリ。

 その様には流石の仲間達も驚いたようで、一箇所に集まる彼女達は互いに擦り寄ってアンリの事を信じられないような表情で見つめていた。だが、彼はそんな彼女達の行動も気に入らないようで、今度は彼女たちにも喚き当たり始めた。衛兵達が彼女達を守るように動く。


 しばらくはアンリの様子を見ていたセヴランやヴィルジールだが、これ以上は危険と判断したか合図を送って尋問の中断をさせる。

 喚き散らしながら暴れるアンリは衛兵が力ずくで取り押さえ、その後治癒師によって鎮静化させられた。だが、体力の消耗が激しく立っているのもやっとの有様であった為、この場から退場させられる。


 そして、怯える彼女達と同様に、少し離れた場所に一人だけ隔離されているフェリシーも、アンリの暴れる様には怯えた表情を見せていた。ついさっきまで自分がアンリの事を酷く憎々しげな表情で見ていた事など無かったかのように、さも自分は被害者だと言わんばかりの怯えた表情で。

 もっとも、それがフェリシーの演技である事はこの場で尋問を見ている者達にはバレバレだ。そもそも、最初の憎々しげな表情もしっかりと見られていたのだから、誤魔化しようが無い。


 ただ、アンリの仲間の中で唯一、ミシェルという盗賊ギルドの脱走奴隷の女だけはアンリと共感するように、アンリの様子が豹変したのと同時に暴れ出した為に衛兵によって取り押さえられていた。床に強引に押さえ付けた体からは、ゴリゴリと骨が床を擦る音が聞こえる。音から察するに、その体にはかなりの痛みが走っている事だろう。

 だが、ミシェルは痛みなど一切感じていないように、獣の様な唸り声を上げながら暴れ出そうとするのみであった。恐らく武器を手にしていたら、躊躇(ためら)い無くその武器を振るっていただろう。アンリの障害となるものを排除する為に。

 ミシェルは、アンリの姿がこの場から消えても暴れようとしていた為、最終的には治癒師によって強制的に意識を落とされる事になった。獣のように暴れていたミシェルだが、意識を落とされるのは一瞬だった。それだけ、あの治癒師の腕が良いのだろう。


「おー、やるなぁ。あの兄ちゃん」

「怪我の痛みで暴れる患者を大人しくさせるのも、治癒師の手並みの見せ所ですよ。同様に、痛みや毒で錯乱した患者を落とすのも。時折、酔っ払いの騒動に駆り出されているのを見る時はまぁ……微妙な気持ちになりますけどね……」

「そんなのまで治癒師の仕事なのかヨ!? っかー! 面倒くせえもんだナ」


 そんな治癒師の手並みを見ながら賞賛するのはサミュエルである。いつの間に仲良くなったのか、教会から護衛として付けられた者と気軽に世間話をしていた。そこにリュシアンも参加する。


 階下の喧騒を他所に、和気藹々と談笑するその護衛兵もなかなかに肝が据わっていると言えるだろう。神経が図太いとも言えるのかもしれないが。

 そんな事を考えながら、結局確実に今日だけでは終わらない事が確定した尋問の行く末に不安を感じ、大きく溜め息を吐いていた。そしてそれはヴィルジールとセヴランも同じ。意識せずともピッタリとタイミングが合ってしまっていた事に思わず顔を見合わせ、苦笑を交わし合う。


「どれ、今日はもう此処までだろう。一度ワシの部屋へ寄れ。茶くらいは出そう」

「あ、それでしたら軽食代わりと言っては何ですが、良い物がありますよ。丁度良いのでその時渡しますよ」

「ほう? そりゃ楽しみだ」

「おや、私も良ければご相伴に預かってもよろしいでしょうか? 実は、書類整理が忙しくて昼を食べ損ねていたんです……」


 セヴランが茶に誘うので丁度良いと、テオドールから預かっていた物の存在を思い出し提案する。

 それを聞いていたヴィルジールも、僅かばかり気まずそうにしながらも参加したい、と口に出していた。と、同時に小さく腹の音が聞こえる。顔を赤くしている辺り、発生源はどうやらヴィルジールらしい。

 うっかりそれに気付いてしまった護衛兵達は、今起こった事は絶対に口に出さないよう、墓まで持っていくべし、と決心する。某会員に知られたら嫉妬で睨まれるどころでは無い。ヴィルジールの腹の音に加え、赤面した顔まで見たとなれば本気で脳みそを開かれかねない。もちろん、そこに世にも希少な『美中年』の腹の音と赤面顔の記憶が詰まっているからだ。本気でそんな事を心配しなければいけない辺り、犯罪者が出る前に取り締まった方が良いような気がする。


「あら? 楽しそうなお誘いね。私も参加させて貰っても良いかしら?」

「……オレリア。やはり、あなたでしたか……」

「お知り合いで?」

「私と同じ、枢機卿の一人ですよ。何故ここに?」

「来たくて来たんじゃないわよ。教会からの証言者の一人として、よ。彼女の治癒師資格承認試験の担当したというのは間違ってないわよ? 書類で落としたけど」

「……まぁ、そう、なりますよね」

「ろくに実績も積んでいない見習いが、何を考えて承認試験を受けようと思ったのかしらね? そんなの落とされるに決まっているでしょうに」


 セヴランとヴィルジールが話している中に現れたのは、先程アンリに質問を投げ掛けていた人物だ。フェリシーの資格試験の担当をしたとかいう。もっとも、書類選考であっさり落とされていたようだが。

 何より目を引くのは、動く度に激しく自己主張をしてやまない二つの物体だ。思わずロラン達もガン見した程の。逆にヴィルジールは苦笑を浮かべながらさり気無く顔を逸らしている。紳士だ……というにはちょっと事情があるようで、どこか笑いを堪えているようにも見える。

 それと、尋問の間はビビッてリュシアンの上着の中に身を隠していたブサだが、尋問が矯正終了して後のオレリアの登場には目をキラキラ……では無く、ギラギラと輝かせてジッと熱く見つめていた。この場合、熱く見つめている先はもちろん、オレリアの自己主張激しい二つの物体である。口は半開きで、その内よだれすら垂らしそうな勢いだ。ついでに鼻息も荒い。

 もちろんそんなブサの様子は、護衛兵達と他愛も無い話をしながらもリュシアンがしっかりと見張っており、不埒な真似をしようとしたり、自分の腕によだれを垂らそうものなら容赦無く締め上げる準備は出来ている。何しろ今のブサは、リュシアンの小脇に抱えられてる状態なので。そのまま腕を締めれば一発だ。


 セヴランやヴィルジールと話していたオレリアだが、話しが付いたらしく……というよりも押し切られて、何故かロラン達もお茶に同席する事になった。平穏は何処。

 自分らは適当に討伐依頼とか、盗賊退治をしている方が似合っているのになぁ、と心の中で零しつつも当然ロラン達に拒否権は存在しない。粛々と同席を拝命するのみである。


 何故、こんなにも面倒そうな権力者とのコネが出来ていくのか、と考えればどう考えてもブサを拾ってからの出来事ばかりで、転生者アンリの熱望する主人公的な巻き込まれ属性というか、トラブル誘引体質的なものはしっかりとブサにも備わっているようである。

 本猫は美人とお近づきになれればそれで十分なので、あの男が知ったらさぞや歯噛みをする事だろう。

 だが、そんな事は当然ロラン達は知る筈も無いので、ただ、妙にトラブルに巻き込まれる事の多くなった我が身の不幸を嘆くばかりであった。


 とりあえず、後でブサは締めよう。


 何となく決意した事だが、原因としては間違っていない為、ある意味ブサの自業自得……とも言えない事も無いのかもしれない??


(巨乳シスター! 巨乳シスターだ!! 二次元の妄想が今、此処に! 俺の目の前に!! おぉ、神よ……感謝します……!)


 視界に映る人類の至宝とも言える物体に、涙さえ浮かべながら神に感謝するブサであった。

 当然ながら尋問より大事なものとはブサにとって、というわけで。

 

 尋問<巨乳


 さて、この巨乳さんは一体誰なのか?

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