どうやら、尋問も一筋縄では行かないらしい
「その方、アンリ。今日この場に立たされる事に、何か心当たりは無いか?」
「……ギルドの中で暴れたって事でしょう。けど! その位なら他の奴らだって!「否」……は?」
「その程度の事で真偽官、ギルド関係者、教会関係者を集めてこのような場を設ける事などあり得ない。そんな些細な事で手を煩わせられなければならない程、この場に集められた方々に暇な方は居ない。他に心当たりは?」
「…………」
「沈黙は肯定とみなす。自身が行って来た犯罪行為の自覚は無いのか。であれば、この場に集まった関係者の証言も用いてその方の罪を明らかなるものとしよう」
「……俺は、何も……っ!」
セヴランやヴィルジール、ロラン達の見守る中尋問は始まった。尋問とは言っているが、実際行われている事は断罪である。
すでに関係者達の集めた情報、証言により彼らの罪は確定していた。真偽官の能力も用いての証拠集めである為、冤罪は起こり得ない。
ちなみに、この証拠集めの最中に自身の罪をアンリに被せてしまおうとしたギルド員もいたのだが、あっさりとその目論見は露見して、そのギルド員はその罪に応じた罰を受ける事となったというプチ断罪劇も起こっていたりする。
正直、出来レースとも言えるこの場の目標……と言うか目的は、アンリとその仲間達に罪を認めさせるのが目的である。
本人たちが大人しくそれを認めるかどうかは別として。
もし異論があったとしても、それに対してしっかりとした弁論が出来なければ全くの無意味だ。少なくともアンリ青年には不可能な芸当だろう。それが可能なら、そもそもこの場には立っていない。
「(なぁ? 正直、コレってやる意味あんのかぁ?)」
「(おい、サミュエル。黙ってろ)」
「(だってよぉ、あいつらの罪は確定してんだよなぁ? しかも、相手はあのバカ共の集まりだろぉ? 言っても分かる気がしねぇんだがなぁ……)」
「(ソコから一人だけ抜いといてやれヨ。セリアっつー嬢ちゃんはまだまともだったロ)」
「(それでも初対面時は完全に染まってたんですよ……?)」
始まった尋問を他所にコソコソと小声で話し合うロラン達を、教会から付けられた護衛達がチラチラとロラン達を窺う。だが、サミュエルがバカの集まりと言った時に頷いている辺り、彼らも向こうの性格ややらかして来たアレコレは聞いていたらしい。というよりも、全く知らない人間がこの場にいる筈も無いのだが。
「(お前らなぁ……一応正式な場なんだから私語は慎め)」
「(まぁまぁ、彼らにはやりたくもない仕事を押し付けているのですから。むしろ、私自身がこの場から立ち去りたい位ですよ。何しろ、彼女の妄言は聞き飽きていますので……。それと残念な事に、対外的な理由でこういった場は必要なんですよ)」
ロラン達のフリーダムっぷりにセヴランが我慢しきれず突っ込みをいれるが、ここでまさかのヴィルジール(枢機卿)参戦である。参加して良いのだろうか?
小声ながらもうんざりした様子で愚痴を零している。
彼女の、と言いながらチラリとフェリシーのいる場所を見下ろす。フェリシー自身はもはやアンリの方を見る事すらせず、ヴィルジールだけを熱く見つめていた。溜め息を吐きながら視線を外す。
ヴィルジールの視線につられ、落ちないようにしっかりとリュシアンに爪を立てながらブサも下を覗き込む。すると、ヴィルジールを熱く見つめる彼女の目をバッチリと見てしまい、瞬間的に走った悪寒に思いっきり目を逸らす。
(あの女、色々とヤベェ……)
フェリシーもブサには言われたくないと思うが、ブサの感想は決して間違ったものでは無い。
現在のフェリシーはある種の狂信状態というか、催眠状態というか。完全に自身を被害者と思い込んでおり、必ずヴィルジールが自分をここから助け出してくれるものと確信しているようであった。正直言って怖い。
ヴィルジールも何をどうしたら彼女がそういった考えに行き着くのかと、その思考回路に怯えて背筋を震わせていた。それをセヴランが慰める。
そして、ここに立場を超えた友情が生まれていた。
事の収拾が付いた後、セヴランが某会員に刺されない事を祈りたい。まぁ、刺されはしなくとも嫉妬の視線は送られるのは免れない。
ヴィルジールの護衛として付いた者達は、自分達も後で嫉妬の視線に晒されるんだろうなー、と世の不条理を嘆いていた。自分達は、上から申し付けられただけの、ただの仕事なのに。
つい昨日、ヴィルジール枢機卿の護衛を命じられた直後、一部の仲間から半ば血走った目で詰め寄られた事を思い出す。何故知っているのか。恐らくは似たような出来事がこの後セヴランを待っているだろう。
美貌の枢機卿のファンは至る所にいるのだから……。
そんな現実逃避にも似た思考に陥っている彼らの正面では、着実に尋問は進んでいた。
すでにいくつかの事柄については追求がなされ、アンリもその事について必死に反論しようとするが、その内容も妄想と思い込みに満ち溢れている為に悉く反論し返される。尋問が始まったばかりの時は、すぐに開放されるだろうと言わんばかりにふてぶてしい態度を隠そうともしていなかったが、自分の思い通りに進まない事に次第に焦りを露にしていた。
また、他の仲間達……早い段階で自分達の行いの悪質さを自覚したセリアとは違って、あくまでも自分達は正しい事をしているのだと信じ込んでいたエルフ、獣人の二人は自分達の思い込みの悉くが間違っていた事にようやく気付かされ、顔を蒼白に染めていた。
不安に駆られて周囲を見回すと、証言者として召集された者達の中に以前、自分達が護衛を途中放棄した商人も混じっている事に気付く。当然ではあるが、彼らが自分達に向けられる視線はどれも厳しいものばかりだ。
だが、この時点でブサも違和感に気付く。アンリの仲間は5人いるのだ。だが、一人だけがほぼ何の反応も示していない。まるで自我が存在しないかのように。
体を完全に拘束されたまま武器を持った兵に囲まれて立っているが、それだけだった。その事にも悪寒が走る。
そして、ついに内容はフェリシーの出奔、それと同時期に起きた教会の治癒師への襲撃、重要書類の焼失と運営資金の盗難事件に及んだ。その話題となった瞬間、分かりやすくフェリシーの表情が歪み、アンリの目が泳ぎだす。
フェリシーが出奔して来た経緯――ただし、フェリシーによって捏造されまくった経緯だが――は聞かされていたものの、襲撃やら盗難に関しては一切知らなかったセリア、アンリエット、ララの三人が驚愕する。信じられない思いでアンリを見やるが、その視線が交わる事は決して無かった。
「……以上、こちらで集めた被害状況とそれに対する証言だ。これらについて、何か言い分はあるか?」
「……証言は全部出鱈目だ! その襲撃を受けたと言っている女は日常的にフェリシーに危害を加えていたんだ! それに、フェリシーの扱いがどんなだったか知ってるのか!? 怪我や病気で苦しんでいる人を助けに行きたくても行かせて貰えず! ずっと教会の中に閉じ込められて、毎日、毎日! 襲撃されたって言ってる女から暴力や暴言を振るわれたりしていたんだぞ!「それに対する証拠は?」……証拠?」
「こちらの集めた証拠によると、貴殿が言うフェリシーと言う『元』治癒師見習いの「待て! 見習いだと……!?」……何か異論でも?」
「訂正しろ! フェリシーは立派な治癒師だ!」
「訂正する必要は無い。フェリシーという治癒師は存在しない。過去には同名の治癒師も存在したが、それは71年前の事で本人はすでに死亡している。それと、つい先日まで……見習い資格を剥奪されるまではフェリシーという名の治癒師『見習い』は確かに教会に所属していた。だが、現時点ではその登録も抹消されている。抹消の理由としては「嘘!!」現時点ではそなたの発言は認めていない。衛兵!」「ハッ!」
尋問が開始される前に口を布を噛ませて封じられていたフェリシーだが、真偽官がフェリシーの事を話す毎に暴れる力が強くなり、衛兵と揉み合う内に口布が外れてしまった。口が自由になった途端、フェリシーが絶叫する。
だが、抵抗むなしく再びその口が布で閉ざされようとした時、中段辺りにいる人物から待ったが掛かった。
尋問と言いつつ、裁判です。もっとも、実際の裁判の様子を見た事は無いのでイメージなどで補完してあります。
ですので、こんなの違う! と思ってもスルーして頂けると助かります。




