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どうやら、悲劇は続くものらしい

 ここから断罪編です。

 あまり長くならないようにしたいのですが……それでも数話分にはなりそうです。

「流れ自体には私達自身には問題はありません。ですが、それとは別に気になる事が」

「……ホールでの騒ぎの事だろう。それはワシから説明する」


 昨日と同じく、途中からロランから会話を引き継いだアンリが今日も交渉を行うらしい。

 枢機卿の予定に関しては昨日聞いていた通り――尋問に参加するメンバーで一部知らないものもあったが――のものであった為ロラン達としても異論は無く、その通りに動く事を約束する。

 だが、やはり気になるのは先程通り過ぎたギルドホールでの騒ぎの事で、どう見ても尋常では無い様子であった。

 それについては眉間にぎっちりと深い皺を刻んだセヴランが説明する。

 感情を抑えるように握ったこぶしが書類も握り潰しているようだが、大丈夫なのだろうか? 後でセヴランの負担が書類一枚分増えない事を祈る。

 思わず逸れた意識を戻し、セヴランと目を合わせる。合わせた先でセヴランは大きく息を吐くと、極力感情を抑えた声で話し出した。


「村が一つ滅んだ」


 セヴランの話した『村が滅ぶ』というのは実はそう珍しい事でも無い。特に開拓村などは防衛も頼りなく、開拓している最中に魔獣の襲撃に遭って全滅する、という事もざらにある。

 だがこの状況で、今の時期に起こった出来事であるならば、あの(・・)転生者が関わっている可能性が高い。

 そう関連付けたアンリがロランを見やるとロランもどうやら同意見のようで、小さく頷き返された。それを見て今度はアンリからセヴランに質問する。


「それは、今回のあの男に関係する事……ですよね?」

「……あぁ。……あのバカがっ! 考え無しの行動でどれだけ他人に不幸を振り撒くつもりだ!! しかも! 今回は村を一つ滅ぼす原因にもなったのだぞ!? 何人の命が奪われたと思「ギルドマスター」……すまん。お前達に当たる事では無かったな。猊下、止めて下さり感謝します」

「いえいえ、この件に関しては私も怒り心頭なので。ギルドマスターの気持ちは良く分かりますとも」


 やはりロラン達の想像通り、あの転生者(バカ)がやらかした何らかが原因であったらしい。それが村一つ滅ぶという結果だ。

 しかもそれで終わりという訳ではなく、未だ脅威は継続中らしい。それが先程見たギルドホールの喧騒の理由であった。


「この情報が入ったのは明け方でな。村が魔獣に襲われ滅んだ、と。これだけならばさほど珍しくも無いのだが……原因の魔獣が、な」

「……何の、魔獣なので?」

「キラーウルフの群れだ。何とか逃げ出してきた村人の証言によれば、恐らくマーダーウルフに率いられているものと思われる」


 キラーウルフ。名前が示す通り狼系の魔獣で、その中でも攻撃性の高い魔獣だ。群れで行動し、主に肉食。厄介な事に、本質的には人間を食う為に襲う事は無いのだが、人肉の味を覚えた個体がいるとそれは群れ全体に広がり、途端に人間を集中的に襲うようになるという性質を持つ。その為、人を襲うようになった群れは全滅させる事が求められる。1匹でも逃がしてしまえば、別の群れが人を襲うようになるだけなのだから。

 そして、マーダーウルフはキラーウルフの上位種になる。このマーダーウルフに率いられた群れは知性と残忍性、執拗性が跳ね上がり、食う為だけで無く殺すのを目的として積極的に人を襲うようになるのだ。


 一つ目の村が滅んだのはこの群れに襲われた為だと言う。

 狼達は村の人間を蹂躙し、殺し尽くし、食い尽くした後は更なる被害者を求めて次の村を襲う。

 この情報をギルドに持ち込んだのは最初に襲われた村の被害者が逃げ込んだ先の村の住人だ。彼が伝令として村を出たすぐ後に、狼達の群れに襲われるのを見たと言う。どうやら逃げ込んで来た村人は次の獲物への釣り餌だったようだ。わざと逃がして次の獲物を見つけようとしたのだろう。逃げた人間が、助けを求めて別の村に逃げ込むと確信して。

 それでも情報を届けなければ更に被害が広がる事になると、背後で狼達に襲われている真っ最中の自分の村に戻りたい気持ちを振り切り、自身の家族の無事を祈りながら必死に近くのギルドに馬を走らせたのだそうだ。なお、その村人はギルドに情報を伝えた後すぐに村に戻ろうとしたが職員が必死に留められ、思い出せる限りの状況を話した後、ギルド員や職員の制止を振り切り自分の村へ戻って行ったらしい。


 この時点で確実に一つの村が滅んでおり、二つ目の村の生存もほぼ絶望的であった。だが、まだ可能性はゼロでは無い為に『滅んだ村は一つ』としている。


 セヴランの言葉にロラン達も掛けられる言葉が無く、ヴィルジールも静かな顔で目を閉じ、沈黙したままだ。だが、組まれた手が白くなる程握り締められている。この件に関してのヴィルジールの怒りが分かるというものだ。

 何しろ最初に襲われた村と次に襲われた村の両方に、自身が手掛けた治癒師が派遣されていたのだから。教会からの護衛を付けているとはいえ、それは基本的に対人を想定した護衛だ。魔獣相手もある程度は善戦出来るとはいっても、キラーウルフの群れでは相手にならないだろう。それがマーダーウルフに率いられているとなれば、なおの事。そうなれば守る者のいなくなった治癒師がどうなるかは、言わずとも知れるだろう。

 現時点で、治癒師両名の生存は確認されて、いない。


「ギルドからの救援は?」

「出来る限り迅速に行っている。すでに襲撃を受けた二つ目の村の周辺の村へは、直近のギルドから人員を派遣して避難なり防衛なりを開始している頃だ。追加の人員は各ギルドからも送る。王都ギルド(ここ)からは物資もだ。これ以上被害者を増やす訳にはいかんからな……!」

「この件に関しては教会からも治癒師を可能な限り派遣しております。対魔獣にも長けている護衛も併せて。もちろん、怪我人や避難民の受け入れも請け負ってます」


 先程の怒りを完全に抑えて、淡々と説明を続けるセヴランとヴィルジールの忍耐度や如何に。

 可能ならば、自分達が現場に立って陣頭指揮を執ったり、魔獣の殲滅を受け持ちたいのだろう。だが、実際には彼らは動く事が出来ず、他人に任せるしか無い。立場的なものでは無く、すでに請け負ってしまっている件がある故に。

 そして、それはロラン達も同じ。自分達も魔獣の殲滅の方に回りたいと思っているが、ヴィルジールやセヴラン自身が耐えているものを自分達だけが強行する事は不可能だ。いくら自分達の能力が対魔獣戦に向いていると自覚していたとしても。


「それで、尋問はいつから開始されるのでしょうか?」

「今からだ」

「必要な人員はほぼ揃いました。ならば無駄な時間は省いて、少しでも早くあちらへ労力を割いた方が余程建設的というものでしょう。それでも文句を言ってくる人が居るなら、その人物をこそあちらに回せば良いでしょう。戦う事は不可能でも、囮位にはなるでしょうからね」


 ……笑顔のままだが、ヴィルジールが明らかに黒い。

 こういう相手には逆らうべからず。失言の多いサミュエルですらも、空気を読んで無言を貫いていた。一番の不安要素であったブサは現場の緊迫した雰囲気に完全に呑まれており、一言も発する事も無いままに震えるのみであった。



 * * * * * * * * * *



「それでは、尋問を開始します」


 そう告げる真偽官達の前には今回の件の最重要人物であるアンリと言う名の青年、そして少し離れた場所には彼の仲間達、そこからまた少し離れた場所には盗賊ギルドからの逃亡奴隷であるミシェルと、治癒師見習いとしての資格を剥奪された()治癒師見習いのフェリシーが周囲を武器を持った兵士に固められて立っていた。

 この場に立たされた彼女達の表情は様々だが、自己嫌悪の見て取れるセリアとは違い、元治癒師見習いのフェリシーの様子は相変わらずだった。ヴィルジールの姿を見つけた途端に必死になって、聞くに堪えない自己憐憫(じこれんびん)的な妄言を喚き散らそうとした為に物理的な手段でもって口を塞がれている。その様子にアンリ(バカ)が暴れ出そうとしたが即座に取り押さえられ、また、自身の能力がこの場では一切使えなくなっている事に気付いて呆然としていた。

 真偽官の発した尋問と言う言葉、前世においてもテレビなどで見たであろう裁判所の雰囲気にも似たこの場に立たされている事など、能力を封じる方法があるというのは少し考えれば分かる事なのだが。何しろ、一晩声も能力も全く意味を成さない部屋に隔離されていたのだから。


 一番低い場所に立たされている彼らから一段高い場所には、ギルドや教会の関係者。その上の段には招集された証言者が。一番高い場所に枢機卿であるヴィルジールと、ギルドマスターのセヴラン、そしてもう一人。恐らくは盗賊ギルドのギルドマスターであろう人物が彼らの様子を見下ろしていた。


 ロラン達は、というと。ヴィルジールの背後に護衛として、教会から選出された護衛達と共に付き従って立っていた。

 教会の護衛達からは何かしらの文句なり嫌味を言われるかと、少しばかり覚悟していたのだが、実際にはそんな事も無くただ静かに『本日はよろしくお願いします』と挨拶をされただけであった。

 この辺りはヴィルジールが、自身の護衛に付ける人員には融通の利く人間を選んでいるらしい。針のむしろの中で護衛をしなければならない事も覚悟していたロラン達にとっては不幸中の幸いであった。

 尋問と称した断罪スタート。今まで散々好き勝手やってきた事には報いを受けて頂きます。

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