どうやら、とある転生者の記憶らしい
この話は急遽書き上げたお詫び閑話となります。
内容的にはお詫びになりませんが、あくまでも閑話としてお読み頂ければ幸いです。
……何故、俺がこんなに責められなければならないんだ?
俺は今の会社に勤めてから、今まで一度も事故を起こした事も無いし違反だってした事は無い。それなのにあの時のバカが……。
あれは、完全に向こうから俺の車に突っ込んで来たんだ!
あのバカが道路に飛び出して来た時、即座に俺はブレーキを踏んだ。だが、ブレーキ音で気付いたあいつは俺の車を見て、何を考えたか俺の車の方に自分から突っ込んで来やがった!
その結果は相手は即死。俺は殺人者になった。
その後の調べで道路に飛び出したのは相手側という事、ブレーキ痕から人が飛び出したのに気付いてすぐにブレーキを踏んでいたという事、目撃者の証言で少年が自分から車に突っ込んで行った事が分かった。
それでも、俺が人を殺した事には違いない。
俺が人を殺してしまった結果、会社からは自主的に退職する事を求められ、相手の遺族から責められ、自分の家族からも責められ、テレビの報道でも相手が未成年であった事から俺の方が悪のような報道をされている。一応は向こうの過失ってのも報道しているが、巻き込まれたこっちからしたら堪ったものじゃない!
……はぁ、もう、うんざりだ。
いっその事、あのバカと同じような死に方でもしてやるか?
だが、そんな事をすれば今の俺と同じ気持ちを抱えた人間を一人増やすだけだ……。どうしたら良い? どうしたら……。
あぁ、そうか。なら、自分だけで、死ねば良いのか。
そうすれば誰も困らない。俺が死んだところで、誰も。
なら、そうしよう。
決断したなら早い方が良い。決心が鈍っても困る。もう、あんな好奇の視線に晒されるのはごめんだ。
あぁ、でも、出来るなら……
「最期にもう一度、子供達に会いたかったなぁ……」
* * * * * * * * * *
『ん……ん? 俺は……死んだ筈だ……。なのに、何故?』
死に切れなかったのかと首に手をやるが、手には何も触れた感触が無い。
慌てて体を見下ろすが体すらも無い。腕も! 足も!
確かに体がある感覚はするというのに、自分の目には何も映らない。手を握っても、握ったという自覚はあっても感触が無い。
何だ、これは……。やはり俺は死んでいるのか……? なら、これは一体?
「お前に、チャンスを与えようか?」
『誰だ!?』
「私が誰であるかはどうでも良い。どうせ、お前からは私は知覚出来ない。それより、先程の問いの答えはまだか?」
『……問い、だと? チャンスを与えるとかってやつか?』
「問いに問いで返されるのは好まない。だが、その質問には是と答えよう。私は答えた。お前の答えは?」
『状況が、分からない。決断する為に何らかの情報が欲しい』
そうだ、突然チャンスと言われても何が何だか分からない。死んだ筈の俺が意識を保っている事も、体が無いのに、あると自覚しているこの状況も。何もかもが不明だ。
何も分からないまま、与えられたものを受け取るのは恐ろしい。何か裏があるのでは無いかと考えてしまう。……死んでいる以上、そんな事を考えるのは無駄かもしれないが。
「……ふむ、それなりに慎重なのだな。つい先程の男とは大違いだ」
『俺の前にも、別の人間が?』
「あぁ。自身の境遇を哀れみ、だが自らは行動を起こさず、誰かが手を差し伸べれば喜んでそれに縋り付き善意以上のものを求める、情けなく強欲で無謀な男だ。だが、その後の行動は驚きであったな。自身の覚悟と称して複数の人間を殺し、挙句の果てには全く無関係の人間に自分を殺させた」
『……殺させた?』
「車と言ったか。人の乗り物だ。その前に飛び出して自らを殺させたのだと言っていた。何でもテンプレ? だそうだぞ? 『本当ならテンプレ的にトラックの方が良いんだけどな! 丁度良いのが無かったから、手近なアレで代用してやったんだ』……というのが、先程のアレの言葉だ。一字一句間違い無くな。」
自分から、飛び出した? 車の前に? それは、ひょっとすると……
「お前が殺した男、だな。正確にはお前に殺させた男、か?」
……っ!?
『俺が考えている事が分かる、のか?』
「……ふむ、どうもお前は質問ばかりだな。だが、その問いにも是と答えよう。他に質問はあるか?」
『チャンスと言ったのは、どんなチャンスか聞いても?』
「生まれ変わり、転生だ。だが勘違いはするな。元の世界で生き返る訳では無い。お前の生きた地球では無い別の世界、私が管理する世界の一つにお前を生まれ変わらせてやろう。対価は求めぬ。どうだ?』
『正直、話がうますぎる気がするんだが……何か俺にさせたい事でも?』
「……出来れば、私が先に送り込んだアレの監視をして欲しいがな。送り込んだのは私自身だが、どうにも騒乱しか巻き起こしそうに無い」
『……何でそんな奴を転生させたんだ?』
「……む、アレが先走り強制的に制約を作ってしまったからだ。その結果、こちらもアレの要望に応えざるを得なくなってしまった」
『……俺に、後始末を、しろと?』
「ぐっ……! 代わりに、お前の望みもある程度は叶えよう。アレの始末さえ付けてくれたら、その後は自由に生きて貰って構わない。……どうだ?」
何を考えてこの男、男、か? ……まぁ、性別不詳ではあるが言っている事に嘘は無いと思う。少なくとも今話していた内容については。全てを話しているとは思わないが。
だが、俺をこんな目に合わせたあの男に復讐出来るのなら、悪い話では無いように思う。
復讐……復讐、か。
『あの男への復讐は可能か?』
「構わない。基本的には好きに生きるが良い。その上でアレを監視、あるいは殺しても一切問題は無い」
そうか、ならば……
『望む能力をくれるのか?』
「全てを与える訳では無い。それと忠告しておくが、私の与える能力は『スキル』あるいは『技能』と言って、本来は繰り返しの鍛錬の果てに芽生えるものだ。それを最初から持っているということは、基礎が出来ていないにも関わらず技能が使えると言う事。未熟な能力となる。技能を持った素人と、鍛錬を重ねた技能を持たぬ達人では、圧倒的に達人が勝る。本当の意味で使いこなすならば『技能』を使わずして己を鍛え、その域を高める必要がある。ある意味ではゼロから鍛えるよりも厳しい道にもなろう。それでも構わないか?」
……言っている事は納得出来る、な。
突然力を与えられて達人だ、と言われても微妙だ。何の努力も無しに得た力が、努力の果てに得る力に勝るというのは俺も釈然としないしな。
しかし、最初から『技能』を持っているとデメリットにもなり得るのか。
『最初から持っていてもデメリットの無いものはあるか?』
「ふむ、そう来たか。身体強化系の能力はある意味それに当たる。その上で己を鍛えれば、さらに能力は上昇するだろうな」
『ではその能力が欲しい。それとは別に能力強化と言う事は出来ないのか?』
「む、自動的強化と能動的強化という事か。可能だな。だが、体に掛かる負担は大きいぞ?」
『構わない。それよりも、確実にあの男に復讐できる能力が欲しい。それと、情報も欲しい。これから俺が転生する世界、それとあの男の情報を出来る限り欲しい』
その世界の情報は必要だ。どんな世界にどういう状況で転生するのかは分からないが、知識があれば生きる可能性も上がるだろう。
それと、相手の情報は必須だ。何も知らないで復讐相手を探せ、と言われても不可能だ。相手の持つ能力、容姿、名前は最低条件。可能であれば住所も知れるなら……とは思うが望み薄か。あるいは、あの男の行きそうな場所とか、目的地でも構わない……。
「ふむ……。お前はあの男よりも余程考えているのだな。アレは思い付く限りの能力を言いおったぞ。相手の技能を奪う『強奪』とか、どんな女性も虜にする『魅了』とか、自分の行動全てが良い結果になる『豪運』を寄越せ、とか。流石に却下した。代わりに『剣術』『魔術』『肉体強化』などは許容したが。あとは容姿か。世界一の美形にしろだのなんだの、赤ん坊からは嫌だと言い出して、十四~五才位からが良いだの。……本当に何故、あんな奴を転生させねばならなかったのか。最後の方はもはや適当にやっていた気もするな……(む、他には何を与えたのだったか……)」
本当に、何でそんな奴を転生なんてさせたんだろうな。制約とか言っていたが、最初に約束があってその条件を達成したか、呑んだかしたから転生させなければいけなくなった……ってところか?
俺からしたら迷惑極まりないが。しかもさっき言っていた内容を思い出すと、死ぬ前に殺人も犯していたのか? そんな奴がのうのうと、異世界とは言え生きているのはとてもじゃないが許せそうに無い。
『そちらの要求を呑む。転生した後は、あの男は必ず殺す。監視などという悠長な事は出来そうに無い。その代わりに、さっき言った能力や情報が欲しい』
「契約成立、だな。他にも望むものがあれば出来る限り叶えよう。望むなら、アレよりも前に転生させる事も可能だ。アレが彼の地に降り立った際には、お前がある程度の力を付けていられるように」
……っ! それは考えていなかった。
あの男の方が先に転生しているのだから、向こうが年上でもおかしくは無い。俺自身が鍛えたところで、相手も鍛えていたら年齢分どうしても劣ってしまうだろう。
『それは私にとって、とてもありがたい申し出です。今更ですが、初対面の方相手に失礼な態度を取り続けていました。申し訳ありません』
「畏まる必要は無い。そもそも、お前がこの状況になったのは私が原因とも言える。……彼の地に降り立った後、お前の望みが叶う事を祈ろう」
『ありがとうございます。せっかく頂いたチャンスなので、悔いの残らないよう励みます』
「……もう行くが良い。お前の希望も叶えられるだけは叶えた。二度目の人生、悔い無く生きろ」
その言葉を最後に、俺の視界が真っ白に染まった。
……体は無い筈なのに、視界が白く染まるってのも不思議なもんだなぁ?
さて、まずは頑張って生きるか。せっかく貰った知識も役立てないとな。
本日三話目の投稿、無事終了致しました。
今回は急な体調不良で毎日更新目指していたのが止まってしまい、自分でも非常に残念でした。発破代わりに書き上げた閑話でしたが、最後までお読み頂きありがとうございます。
なお、今話の登場人物は作中に既に登場している人物の過去話として書いてみました。
今後も異世界モフモフ()ハーレムをよろしくお願い致します。
明日は猫又公開日となりますので、次話は19日の12時公開となります。猫又もよろしくお願い致します。




