どうやら、楽しい時間は一瞬で過ぎ去るものらしい
昨日は投稿できず申し訳ありませんでした。
本日は昨日の分とお詫びも合わせて合計3話投稿とさせて頂きます。
こちらは一話目、二話目は13時投稿、三話目は14時投稿とさせて頂きます。
「うぐるに゛ゃー!(うんめ゛ぇ――!)」
感動のあまり声が濁った。いや、だみ声は元からなのだが。
店員が皿を置いた瞬間、熱いから気を付けるよう言われた事も忘れて一気にパイに食らい付く。
サクッとした生地と、その下のトロリとした熱々のソースに涙目になりながらも、その熱さを超える美味さに食らい付くのが止められない。ハフッ、ハフッ! と熱い息を漏らしながら食らい付いては咀嚼、飲み込む。食らい付いては咀嚼、飲み込むの反復行為。
その内に皿さえも平らげそうな程の勢いは、横から声を掛けたところで完全に黙殺されるだろう……というよりも、そもそも声を掛けている事すら気付かれない可能性の方が高い。それ程のがっつきっぷりだった。
そんなブサの様子を見ていたロラン達も、どうやら相当に気に入ったようだと思いながら店員から給仕を受け、目の前に置かれたパイに齧り付く。
次の瞬間、まず口の中に広がったのは驚く程の熱さだった。
ロラン達が普段利用する食堂の類はそう多くない人数で食堂を回している為、せっかく出来上がったばかりの料理でも配膳に時間が掛かり、料理ガテーブルに届いた時には軽く冷めてしまっている事が多い。フランシスの食堂では出来るだけ出来立てのものを提供するようにしているが、それでも客の注文の頻度次第ではどうしても料理が放置されてしまう事がある。
だが、ここの店のパイは『焼き立て』と言って間違い無いものであった。口に入れた直後ハフッ、と口を開いて中の空気を逃がさねば我慢出来ない程の熱々具合。軽く口を手で扇ぎながら、噛んで、飲み込む。
そしてまた一口、今度はきちんと味わうべく食らい付く前に息を吹いて冷ます事を忘れない。しかし冷まし過ぎてはせっかくの焼き立てが台無しになってしまうので、程々のところで止めて再び齧り付く。
二口目に感じたのはまず匂いだった。パイの表面の程好く焦げた、香ばしい匂い。そして、ソースに使われたであろう野菜や果物の甘い香りと、ふんだんに使われた香辛料、そして何より勝るのは肉々しいとでも表現するべきだろうか。圧倒的なまでの存在感を持った肉の香りだった。
もはやパイの虜となったロラン達を止めるものは無く、ブサに負けじと各々パイにかぶり付く。手元のパイにかぶり付きながら、空いている方の手で『おかわりを寄越せ』というかの如く、店員に手で合図する。如くも何も、その通りだ。店員もまたロラン達のその反応を予想していたのか、特に慌てる事なく、とはいえロラン達を待たせる事もなくパイを切り分け、ロラン達の手元に運ぶ。が、運ぶそばからパイはあっという間に食い尽くされ、追加で持ってきたパイも瞬く間に消え行く始末。
この分ではまだまだ足りぬ、と判断した店員がテオドールに目配せをすると、パイを頬張りながらも一つ頷いたため、目礼してから追加のパイを至急焼くようにと部屋の外に控えさせていた店員に言い付ける。
先に届けられたパイが無くなるのが先か、追加のパイが焼き上がるのが先かと店員がやきもきとし始めた頃、新たな店員がおっかなびっくりワゴンを押しながら現れた。すかさず店員がワゴンに近付くと、素早く小声で報告がなされる。
「皆様、大変お待たせ致しました。テオドール様よりご注文頂いていた、スペシャル仕様のパイが焼き上がったとの事です。是非とも焼き立ての状態をお楽しみ頂きたく「やっとかね! 待ち侘びたよ!」お待たせして大変申し訳ありません。当店名物のものよりも、どうしても焼き時間が必要でして……」
「ふぅむ、そういう事なら仕方ないね。待つのも楽しみの一つだろう。早速だけど、切り分けて貰って良いかな?」
「はい、ただ今お切り分け致しますので、少々お待ち下さい」
どうやら、最初に聞いていたスペシャル仕様のパイとやらが焼き上がったらしい。
テオドール以外の全員がパイを食べる事に専念していた為、その言葉を何となく聞き流していたのだが、店員がパイを切り分けるべくナイフを入れた瞬間、その動きが止まった。
次の瞬間、ザッ! と音を立てそうな勢いで一斉に店員へと目を向ける。全員の視線を集める事と哀れな店員が一瞬体を震えさせるも、そこは訓練を受けた店員――何の訓練なのかは気にしない方が良さそうだ――すぐにパイへと神経を集中させ、手早く切り分ける。
切り分ける大きさは均等に。万が一にも大きさの差で乱闘騒ぎになってはたまらない。表面上は冷静に見えながらも、実際その心の中では半泣き状態であった。
『今日の仕事が終わったら、明日は彼女を連れてデートをするんだ……』店員ちょっと待て、それは死亡フラグと言うモノでは無かろうか。口に出してはいないからセーフなのか?
そんな感じで見た目冷静、心中滂沱の涙を流している店員が、それぞれの前に切り分けたパイを置いた所で視線が自身からパイに向けられた瞬間、安堵の溜め息を吐いたのは誰にも内緒である。テオドールにはバレバレなようだが。震える肩がその証拠である。
「さぁ、そんなにじっと見てても味は分からないよ。遠慮無くどうぞ」
テオドールの言葉に返事を返す余裕も無く、ロラン達が一斉にパイにかぶり付く。
ちなみに、店員が皿を真っ先に置いたのはブサの目の前であった事を追記しておこう。理由は言わずもがなである。
パイを一口齧ったその瞬間、全員の動きが止まった。と、思いきや、唯一サミュエルだけは手に持ったパイにかぶり付きながら、すかさずおかわりを確保しようと腕を伸ばす。が、その腕はさらに三方向から伸びてきた腕に掴まれた事によって阻まれた。
チッ、と思わず舌打ちが漏れる。そんなサミュエルに鋭い視線を向けるのはロラン、アンリ、リュシアンの三人である。緊迫した空気が流れるが、全員の頬がリスのように詰め込まれたパイで膨らんでいるので、色々と台無しである。なお、この時もブサは硬直したままであった。
結局、乱闘は免れないのか!? と絶望の淵に立たされた店員だが、タイミング良く――持って来た店員には非常にタイミング悪く――追加のスペシャル仕様と通常のパイの両方が持って来られた事によって、無事乱闘は免れる事となった。
早速とばかりに手が伸びるのはスペシャル仕様のパイばかりで、通常仕様のパイにはもはや見向きもされないのが哀れである。特に、慌ててパイを焼き上げねばならなかった調理場の人間には。
そちらの通常仕様のパイはテオドールから土産として持ち帰れるようにして欲しいと言われ、完全ではないものの焼き立てを維持できるようにした持ち帰り用の箱に詰められる事となった。ちなみに、実はこれは地味に魔道具の一つである。テオドールの出資した金の使い道の一つだ。
* * * * * * * * * *
「はぁ……食ったぜぇ……」
「お前は特にナ」
「んだよぉ? 食える時に食うのは常識だろうがよぉ」
「それに異論と唱えるつもりは無いが、少しは遠慮してくれ……」
「私としてはここまで喜んで食べてくれると、食べさせる側としては嬉しいものだけどね」
「そう言ってサミュエルを甘やかさないで下さい。店員さん達の事も思いやって下さいよ……」
アンリの言う通り、ひたすら給仕に徹した店員の惨状たるや。客の前では如何なる場合でも店員としての矜持を忘れるべからず、と言われていたのは何処へやら、この部屋の担当を任された店員はワゴンの上に体を突っ伏し、ピクリとも動かない。よく見ると背中がうっすら上下している事から死んではいないようだが、明日のデートに赴けるかどうかは不明である。
このピクリとも動かない人物は、先程の死亡フラグを立てた店員であった。合掌。
店員のその姿を見て、少しばかり自重すべきだったかと頬を掻くが、まぁ過ぎた事は仕方ないとアッサリと意識を切り替えられてしまう辺り、今日の不憫担当はこの店員で決定か。
そんなカオスな状況など知らぬとばかりに、パツンパツンに張った腹を天井へと向けて、ゲフリと大きくゲップをするブサであった。
前書きにも書きましたが、体調不良につき投稿が不可能でした。
話の内容的に、食べ物系を色々やヴぁい時に考えるのは不可能に近かったです。想像するだけで吐き気がしたり、などなど。
私の場合は文章を書く際、想像出来るものは出来る限り情景を想像しながら書いているので、食べ物系はお腹が空きます。体調が悪いと軽く死ねます。
改めてこの場で謝罪をさせて頂きたく思います。
今後はなるべくこういった事が無いよう、努めさせていただきますので今後ともよろしくお願い致します。
本日後二話投稿いたしますので、そちらも良ければよろしくお願い致します。




