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どうやら、楽しい食事の時間らしい

 

「テオドール様、この度は当店をご利用頂き……えぇ、と、出直した方がよろしかったでしょうか?」

「いやいや、心配には及ばないよ! どうぞ、そのまま続けてくれるかな。あぁ、店員さんも。冷めない内に料理を置いてしまって構わないからね」

「は、はぁ……。そう、仰るのでしたら……?」


 ブサによる報復が行われている真っ最中に、この店のオーナーらしき人物と、その背後に料理を載せたワゴンを押した店員が現れた。

 早速テオドールに挨拶しようとするが、その言葉は途中で切られる事となってしまう。チラチラとテオドールの、正確には頭の辺りを気にしながら告げるオーナーの言葉は、全く問題ない! と言い切ったテオドールに先を促された。

 そのまま居住まいを正して、一つ咳払いをしてから改めて言い直す。


「ゴホンッ! えー、テオドール様、並びにお連れの方々もこの度は当店をご利用頂き、真にありがとうございます。(わたくし)当店のオーナーを勤めておりますバジルと申します。これ以上お時間を頂くのはお食事の邪魔となってしまいますので以降は割愛させて頂きますので、どうぞ、ごゆっくりとお食事をお楽しみ下さい。何か足りないものなどありましたら、そちらのベルを鳴らして頂ければ係りの者が参りますのでそちらに申し付けて頂ければと存じます。それでは、ごゆるりと……」


 ほぼワンブレスで言い切ると、配膳をした係りの者を連れてそそくさと退散する。ドラゴンに手を出すは真の勇者か蛮勇の者のみである、とばかりの決断の素早さだ。それもまた、店を成功に導いた大事な要素でもあるのだろう。この場においても遺憾なく発揮されている。

 ある意味、能力の無駄遣いとも言えるかもしれない。


「さ、さぁ! ブサ君、ほら、料理が冷めてしまうから、ね? そろそろ許して貰えると嬉しいんだけどなぁ……?」

「ぐるるるる!(どうせ、俺は猫舌である程度冷めないと食えねぇよ!)」

「おーい、ブサぁ。その辺にしとかねえと、料理全部サミュエルの腹に消えるぞ?」

「ぐにゃっ!?(は!?)」


 ロランの言葉に慌ててブサが振り向くと、配膳されたのはつい今し方だというのにも関わらず、すでに空になった皿が2枚。そして3枚目に取り掛かろうとするサミュエルの姿だった。


「ぎなぁぁぁぁぁん!(俺の飯ぃぃぃぃぃぃ!)「うぐっ!」」


 それまで齧り付いていたテオドールの頭を勢い良く蹴り飛ばしながらテーブルに着地し、慌てて料理を抱え込もうとする。が、猫の体ではどうにもならず、右往左往としているのを見たアンリが、手に持った皿に取り分けると言うので喜んでその案に乗るのであった。最初からそうしてやれ、と思わないでもない。

 なお、アンリの鼻から伸びる赤い筋には満場一致で見て見ぬ振りである。


 無事に料理を取り分けられた皿を前に、熱くない料理からがっつき始めるブサ。一口食べた瞬間、尻尾がピンッ! と伸びて、そのままフルフルと震えてから再び料理を貪り始める。相当、美味かったらしい。にゃぐにゃぐと漏れる声も気持ち鼻声になっている。

 そんなブサの様子をほっこりしながら見るロラン達も自分達の分を取り分け、各々食事を始める。すでに食べ始めていたサミュエルは別として。


「……助けてくれても良かったんじゃないかな」

「冗談を言って良い場合と、悪い場合があると思いますよ」

「ブサの事だから、適当に美味いもん食わせてやれば、すぐに機嫌を直しますよ。ところで、評判のパイはどれなんですかね?」

「はぁ……まぁ、今回は自業自得だね。ちなみにパイは今焼き上げているところだと思うよ。客が到着してからじゃないと、提供時に焼きたてを出せないだろう?」

「……そういやそうですね。おい、ブサ! 名物のパイはこれから出るらしいから、その分の腹は空けとけよ!」

「ぎなっ!(了解っ!)」


 慌てて食べる量をセーブし始めるブサ。言われなければあれもこれもと食べて、パイが出て来た時には満腹になっており、涙を呑むしか無い状況になっていただろう。

 ちなみに、ロランの言葉を聞いたサミュエルだが、こちらは食べ進めるスピードは全く落ちない。おかわり? まだまだ余裕ですが、何か?

 そんなサミュエルを若干引いた様子でリュシアンが眺めているが、こちらもかなりの量を朝から食べているので、実はあまり人の事は言える立場では無い。


 ちなみに、ロラン達パーティーの中で食事の量でランキングを作るとサミュエル>リュシアン>ロラン>アンリとなる。だが、体格が一番大きいのはアンリなので、その筋肉やら何やらがどこから来ているのか非常に謎だ。あるいは、サミュエルのどこにその大量の食料が消えているというのか。

 どちらも謎は尽きないが、どちらも純然とした事実である。


「大変お待たせいたしました。当店名物の肉詰めパイでございます。テオドール様には日頃ご贔屓頂いておりますので、本日は大変良い肉が手に入りました為スペシャル仕様と、日頃当店でお出ししている味とを食べ比べて頂きたく、二種類のパイをご用意致しました。お楽しみ頂ければ幸いでございます」

「それは楽しみだね。ちなみに、おかわりも出来るのかな?」

「パイ一つがかなりの大きさがありますので、先にご注文された料理も合わせますとかなりの量に……あ、いいえ、何でもありません。おかわりですよね? はい、係りの者に申し付けて頂ければご用意は可能です。ですが、焼きあがるまでに少々お時間を頂く事だけはご了承下さい」


 お目当てのパイを食べるべく、サミュエル以外の面々が食べる量をセーブし始めた頃、先程料理を運んできた店員がやって来た。

 ちなみに、その頃にはテーブルの上には料理は殆ど残っていない。辛うじて残っている料理も、着々とサミュエルが引き寄せては皿を空にしていっている。気付けばサミュエルの前には大量の空になった皿が積み上げられていた。


 テオドールの言葉に『おかわりは無理じゃないかなー?』と思っていた店員も、テーブルの上の現状とまだまだ行けそうなサミュエルの様子に発言を速やかに撤回し、これは前もって厨房に伝えておいた方が良いかも知れないと思い始めていた。


 サミュエルも、テオドールの言った『おかわり』という単語に、口いっぱいに食べ物を含みながら無言で親指を立てる。

 私はまだまだ食べられます。パイが二種類? 喜んで! おかわり? 当然頂きますとも!

 おかわり可能と知って、パイを運んできた店員の言葉に喜びを隠さない。この男、どこまで食べるのか。一度限界を見てみたい。


「ぎなっ! ぎなっ!!(早く! 早く寄越せ!!)」


 タシタシと前足で椅子を叩き、お目当てのパイを催促する。

 チラリと店員の視線がブサに向かうが、店員が部屋に猫がいる事に文句を言う事は無い。店員にもブサの事は周知されているらしい。安心してブサも食べられるというものだ。もっとも、本人はそんな事など綺麗さっぱり忘れているのだが。

 頷くテオドールに店員がパイを切り分け、皿に乗せられたそれがブサの前に運ばれる。


「焼き立てでまだ熱いので、お気を付けてお召し上がり下さい」


 店員がブサに一言声を掛けるが、パイに釘付けになっているブサの耳に入っているかは定かでは無い。

 その様子を見て、果たしてまだ熱いコレ(・・)を置いて良いのか悩む店員に、ロランから助け舟が出される。


「構わねえから置いてやってくれ。火傷したところで自業自得だ。店側に文句なんざ付けない」

「あ、いいえ、そこは心配しておりませんが……」

「なら問題無いさ。置いてやってくれ。そろそろよだれが椅子に垂れそうだ」


 気付けばブサの口から垂れるよだれが滝のようになっていた。粘性のあるそれは未だブサの口元に留まっているが、あと少し経てば容赦無く椅子に滴り落ちるだろう。店員の顔が引き攣る。

 猫が火傷をする可能性を取るか、店の椅子を取るか。だが、客は構わないと言っているし……と、店員が悩む。脳が高速で働き、その答えを導き出す。実際に悩んだ時間はほんの一瞬だった。


「どうぞお気を付けてお召し上がり下さい」


 椅子を取った。

 ちなみに、オーナーさんが入って来た時、テオドールの頭にブサが齧り付いています。比喩無しで。ガチで。

 最初は爪を立てたり引っ掻いたりしていたのですが、『何故か』全く傷の付かないテオドールに業を煮やしたブサにより頭部攻撃へとシフトチェンジされました。だが効果は全く無いようだ……。

 見た目のインパクトは抜群ですが。

 なお、引っ掻き攻撃、噛み付き攻撃は効果は無かったものの、偶然による頚動脈蹴り飛ばし攻撃は効果があった模様。少しだけですが。呻く程度。


『ドラゴンに手を出す~』の辺りは『触らぬ神に祟り無し』的なことわざと思って下さい。適当デス。ニュアンス的なものデス。


 ちなみに『とても良い肉』の提供元はテオドールです。つまり、ワイバーン。高級品ですよー。食べると溶けます的な肉イメージ。

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