どうやら、戦闘(処刑)終了らしい
おっさん無双&修羅降臨のお時間です。
「おやおや、君達もう終わりなのかい? わざわざ盗賊なんてやる位なのだから、もう少し頑張って貰わないとね」
……どちらが悪者か分からなくなりそうな光景である。
テオドールの周りや足元には、水揚げされた魚のようにゴロゴロと盗賊達が転がり苦痛の呻きを上げている。
盗賊の数人は完全に戦意をへし折られているようで、地面に倒れ伏したまま白目を剥いて転がるばかりだった。戦意をへし折られて、と言うよりも完全に意識を失っている。死んではいないようだが。
「……っ、ぐっ……! てめぇ、バケモンかよ……っ!」
「失礼な事を言うね。私はただの商人だよ」
(((((((((嘘だっ!!)))))))))
とうとう、盗賊達の心境すらもシンクロし始めたらしい。どれだけなのだろうか、この男は。
そして、当のテオドールは、と言うと
「ほら、まだやれるだろう? ずっと馬車の移動でね、体が鈍っているんだよ。もう少し付き合って貰えると嬉しいね」
超、やる気である。
殺る気でないのがせめてもの救いだ。ゴロゴロ転がる盗賊達を見ると、どちらの方がマシなのかは不明だが。
「っ、ふざけんなよ……商人風情が……っ!」
「その商人風情に良いようにしてやられているのは君達だがね」
「〜〜っ!!」
まるっきり挑発してるようにしか見えないが、実は完全に素である。挑発しているという意識は皆無だ。……本当に盗賊達が哀れに思えてくる……と、思ったが自業自得であった。
本当に哀れなのは
「……本当に俺達、いる意味あるのかぁ?」
「……道中の暇つぶしとか」
「……それだったら、俺らじゃなくても良いんじゃねぇカ?」
「……ま、まぁ。多分、テオドールさんにも何か考えが……」
あまりにも規格外すぎる依頼人に呆然と見守る事しか出来ない護衛達だ。下手に手を出す事も出来ないので世間話位しかする事が無い。
「あると思うかぁ?」
「…………」
「目ぇ逸らしてんじゃねえヨ」
「ぐにゃ(お前らイラネェな)」
「今、猫にも存在を否定された気がするぜ……」
鋭い。その通りである。
ちなみに、この会話の裏では相変わらずの光景が繰り広げられている。
「ハッハッハッ! まだまだぁっ!!」
「いい加減、くたばりやがれ……っ! この化け物がぁっ!」
「いやだぁぁぁっ! 離せ、はな……やめ……っ! げぅっ!!」
「ぅ、うわぁぁぁ!? こ、こっちに来んじゃ、……っひぃ……っ!?」
本当にカオスである。
「ちくしょぉっ!! てめぇらにゃぁ何の被害も出てねぇだろうがっ!! 俺ら以外にも盗賊はいるだろうがよぉおっ!!!」
「護衛を雇っているのだから被害が出たら困るだろう? 他の盗賊にも対応は同じだよ」
テオドールの言い方の場合だと、護衛に被害が出たら困る、あるいは、荷物に被害が出ると困ると言っているように聞こえる。この場合だとどちらが正しいのか。
「ハハッ……俺ら、いる意味あるのかな……」
「ぶに(イキロ)」
どうやら、ロランには前者に聞こえてしまったらしい。ロランが乾いた笑いを浮かべたくなるのも、仕方のない事なのかもしれない。
「くっそぉぉぉぉぉ!!! 化け物てめぇ、いい加減にしろよ!? 俺らに何の恨みがあって……っ!」
「恨み? 恨みならあるに決まってるだろう」
盗賊の一人が発した言葉にテオドールの持つ雰囲気が変わった。
「恨みなんてあったのカ?」
「むしろ恨まれてそうじゃねぇかぁ?」
「失礼ですよ。商人の知人が被害に遭った、とかでしょうか?」
「? 何で商人と関わりが……って、そういえば一応あの人商人だったな。時々忘れるのは何でだろうな」
「ぶなぁー(誰もあのおっさんが被害者とは思わねぇのな)」
全くもって失礼な連中だ。そして、どうやら猫は突っ込み体質のようであった。
「恨み!? てめぇ、何の恨みがっ!!」
「……君達のせいで」
「君達のせいでっ! 気持ち良く寝ていた猫君が起きてしまったじゃないか!!」
(……は?)
「しかも、目を覚ました後睨まれたんだぞ!? 君達のせいで猫君に嫌われてしまったじゃないかぁぁぁぁぁっ!!」
(あのおっさん何言ってんのぉぉぉぉ!!?)
「な、なぁ、アンリヨ」
ふいっ
「思いっきり目ぇ逸らしてんじゃねぇヨ、ハゲ」
「燃やしますよ」
「それより、あれ放っておいて良いのかぁ?」
「……良くはねぇんじゃねぇかな」
どうやら修羅降臨は猫が原因だったようである。当人には全く身に覚えがない——確かに寝起きにテオドールを見はしたが、睨んだ覚えは全くない——猫だった。
強面の男達四人が集まってぎゃいぎゃい、わあわあと一頻り騒いだ後、全員が示し合わせたかのように猫をじっ、と見た。
「ぅ、ぐにゃぅ……(な、何見てんだよ……)」
「おい、猫。これはお前が原因で起こった惨劇だ」
彼らにとってこれは、戦闘ではなく惨劇であるらしい。
「ぎにゃぁ(俺の所為にすんじゃねぇよ)」
「お前には、これを止める義務がある」
「ぎにゃぉ(ねぇよ)」
真面目な顔で、真面目な話を猫に語り掛ける、強面の男。
美人や子供ならば許される。目の保養と癒しだ。だがこの男の場合、傍から見るとただの変人だ。
「な、なぁ。ロランの奴大丈夫かぁ?」
「ど、どうなのでしょうか。私も、もしかしたらさっきは言い過ぎたかもしれません……」
「こ、このまま変なままだったらどうすル?」
「「「…………」」」
「聞こえてるからな、お前ら」
「ぶにゃ(全員アホだな)」
思わず突っ込みを入れる猫。もはや、突っ込み体質というのはある種の呪いであるのかもしれない。
猫が突っ込みを入れた瞬間、再び全員の視線が集まる。目が合う。尻尾爆発。
「…………(…………)」
「…………」
フイッ
ガシッ!
「きしゃ—————っ!!(離しやがれぇぇぇぇぇ!!)」
「お前には、この惨劇を止める義務がある」
「ふしゃ—————っ!!(セリフ繰り返してんじゃねぇぇぇぇぇ!!)」
残りの三人も互いに顔を見つめ合う。そして、各々頷き合う。
「てめぇにゃ、テオドールさんに飯を貰った恩があるよなぁ??」
「俺らにもお前を馬車に乗せてくれるよう、頼んだ恩もあるんだゼ??」
「まさか、恩を仇で返すなんて真似、しませんよね??」
「「「ね?(ぇ)」」」
「……なぅ(……はぃ)」
強面一人+三人の威力に屈した猫であった。
「テオドールさんを止めてくれたら、町で美味しいものをご馳走しましょう」
その言葉を聞いた瞬間、猫の尻尾がピン! と立ち上がった。単純なものだ。
さっきまでの及び腰は何だったのか、尻尾を高く立て、足取りも軽く修羅の元へ行く。
修羅の周囲は地獄であった。先程の盗賊の言葉をきっかけに、完全にブチギレたようである。
しかし、相変わらず死人は一人として出ていないところが恐ろしい。
テオドールに近付くにつれ、猫の尻尾も少しずつ垂れ下がってきた。しかし、『美味しいもの』を心の支えに、とうとうテオドールの背後まで近付く事が出来た。
猫の視線の先には、喉元を掴まれ吊り下げられ痙攣している盗賊と、逆の手に頭部を握られてグッタリしている盗賊が居た。ここはいつから地獄の刑場になったのか? 男の職業は果たして獄卒であっただろうか?
非常に止め辛い。そもそもどうやって止めれば良いのか。ひとまず、声を掛けてみる事にした。
「ぎにゃぁ〜(あの〜)」
グリンッ!!
(ひぃっ!!)
機械仕掛けのホラー人形のように、テオドールの首が180度真後ろを向いた。
そして、猫の姿を認めると、両手に掴んでいた物体を放り投げ——その際に何とも言えない潰れた悲鳴が聞こえたのは聞かなかった事にする——此方へ向き直ると、にこやかな顔でしゃがみ込んだ。
「やぁ、猫君。どうしたのかな?」
「ぎにゃう(一応、止めに来たんだが)」
「あぁ、待たせてしまったようだね。申し訳ない。もう終わりにするから、もう少しだけ待っていて欲しい、な!」
言うが早いか、足元に転がっていた物体を「な!」と言う言葉と共に踏み付ける。踏まれた方は、一度Vの字になってからクタリと意識を失った。
此処まで登場人物全員猫好き設定です。
やっとバトル終了しました。
これ、バトルシーンになってますよね??




