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どうやら、人(猫)生は甘くは無いらしい

「……ふぅ。久しぶりのちゃんとした朝飯だったからちっと食い過ぎタ……」


 あれだけ大量にあった朝食も、気付けば全て無くなっていた。それどころか、リュシアンはあの大きなオムレツも2回おかわりしていた程だ。明らかに食べ過ぎである。


「依頼中でも食事はしっかり取ってはいますが、色々と忙しないですからね。それでも普段から私達の場合はかなり上等な方ですよ? マジックバッグがありますから、保存食のみという事にはなりませんからね。それに、今回はテオドールさんが一緒でしたから、普段以上に豪華だったんですよ?」

「それは分かっちゃいるがナ。それでも落ち着いて食えるのはありがたいゼ……」


 ちなみに、ロラン達の場合はマジックバッグを各自が持っている事から新鮮な野菜や魚、それに調理道具なども色々と持ち歩く事が出来るので、依頼中や討伐中で町を離れている間でも食事のメニューはかなり豪華だ。水も大量に仕舞ってあるのでスープなども定番である。基本的にはパンと、肉と野菜を入れたスープが基本で、それに焼いた肉や魚、果物などが付く。


 マジックバッグを持っていないパーティーの場合、それほど大量の食材は持ち歩けない。基本的には木の実の練りこまれた日持ちのする固焼きパンと干し肉、それに木の実やドライフルーツである。

 基本的に、新鮮な野菜は食べられないと思って貰いたい。野草を見つければそれを食べる事も出来るが、野草は基本的に生食には適していないので、茹でるかスープにしたりなど、火を通す必要がある。

 フライパンがあれば焼く事も可能だろうが、かさばるので持ち歩く者は少ないだろう。持ち歩くなら基本鍋だ。鍋なら使っていない間は調味料などを仕舞う事も出来るからだ。

 フライパンはいざとなれば武器にも出来るが。実際に過去には包丁を武器に、フライパンを盾にした戦う料理人もいた。倒した魔獣を料理して食べるのを生涯の目標としていたらしい。今日(こんにち)広まっている料理には、彼が広めたものも数多くあるようだ。何となく転生者の気配がする。


「それは同感だなぁ。護衛中は基本早食いだしよぉ。それに、腹一杯食う訳にもいかねぇもんなぁ……。昨日も久しぶりに腹一杯食ったぜ。酒もなぁ?」

「酒と言えば……」


 ロランの視線がブサに向く。それにつられてサミュエルの視線もブサに向いた。ちなみにアンリは食べ終わった頃からブサをガン見である。一応リュシアンも不貞腐れたようにしながらもブサに視線を向ける。


 ロラン達の視線の先では相変わらずブサが椅子の上に横たわっていた。

 最初は普通に腹這いに置いたはずだが、気付けば仰向けに寝ている。直立不動で。いや、この場合は直寝不動か? 両前足がきれいに体の横に揃えられている。

 普段のブサの寝相はぐにゃんぐにゃんしていて、まともな体勢で寝ている事は無いのだが、何故か酒が入った時は異常なまでに姿勢良く寝る体質……体質? のようだ。今回初めて知った事実である。

 この寝相を見てしまうと、再び酒を飲ませても良いかな? とチラッと思ってしまう。被害にあったリュシアン以外は。

 やたらとアンリがハァハァしながら見ているのが無性に気になる。触りたい衝動を必死に我慢しているのか、ワキワキと動く手が気持ち悪い。


 正直なところ、昨夜の酒の入ったブサは面倒以外の何者でも無かったが、現在の寝姿を見ると非常に気が抜ける。今日の午後に入っている予定が頭から消えず、いつもよりもピリピリとしながら目を覚ましていただけに、この光景による脱力具合は半端無かった。

 宿に泊まっていた客が朝食を食べ終わり、部屋に戻ろうとして足を止め、二度見してからわざわざ戻って確認していく程の奇妙な寝姿だ。

 フランシスがおかわりを持って来た際に気付いたブサの寝姿に、うっかり皿を落とし掛けて、フランシスよりもおかわりを頼んだリュシアンが慌てていた、という小さな騒動も起こっていた。


「……凄く気の抜ける光景だよな……。こいつ、こんなに寝相良かったか? ……いや、これ寝相が良いって言って良いのか??」

「あー、俺らが拾ってからは良く馬車の隅っこで寝てたけど、気付いたら色んな所に挟まって寝てたりしていたよなぁ? あと、いびきはかなり酷かったぜぇ? テオドールさんと添い寝してた時は知らねぇけどなぁ」

「あれって添い寝と言えんのカ? むしろ捕獲じゃネ?」

「……今夜からは私が添い寝をしても良いんですよね? ……フフフ」

「「「うわぁ……」」」


 ドン引きである。一体何を想像しているのか。

 ブサの中身はおっさんなのだが、それと添い寝をして喜んで良いのだろうか。

 ブサにとっては物凄い苦痛だろう。知らないとは幸せである。

 

 そういえば、良くペットで可愛らしい服を着せられている犬を見るが、年齢を聞くと5歳とか、8歳とか。人間に換算するとアラフォーやアラフィフである。雄でも問答無用で着せられているので、人間として想像してみるとなかなかにエグイものがある。

 別にペットに服を着せる事に反対する訳では無いが、どちらかと言うと裸族派だ。ただし、イベント時の仮装は可。イベントぐらいはっちゃけても良いじゃない!


 ゴホン、話がずれた。


 かなり長い時間微動だにせず、仰向け状態で静かに寝ていたブサだが、アンリの邪念を感じ取ったかビクッと大きく震えてから目を覚ました。そのままババッ! と警戒態勢を取ろうして椅子から落ちる。


「ぎにゃっ!?(痛ぇっ!?)」

「見事に落ちたな」

「ぐにゃ~……(ちくしょう、痛ぇ……)」

「ブサ、大丈夫ですか? それと、二日酔いの方も大丈夫でしょうか?」


 全く心配する様子を見せないロランと、心配そうな様子を見せるアンリ。

 この場合、正しいのはアンリの方なのだろうが、先程の笑いを思い出すとどうなのだろうかと不安になりそうである。


「ヴゥ――……(どっちも痛ぇ……)」


 床の上に蹲ったまま、低い声でうなり声を漏らす。


「辛そうだナ。この分なら朝飯はいらねえナ。おーい、おやっさん! さっき頼んだコイツの分の朝飯、キャンセルしと「ぎにゃぁぁぁぁぁ!!(ふざけんなぁぁぁぁぁ!!)」……何だ、食うのかヨ」


 大人気無い。

 しかも二日酔いなのに叫んだものだから頭痛が一気に来たらしく、再び蹲ってヴー、ヴーとうなっていた。アホめ。


「……おぅ、やっとそいつぁ目ぇ覚ましたのけ。んで、飯はどうすんだらぁ? 食えんのけ?」

「……ぎなー(……食う)」

「……何て言ってんのか、さっぱりだぁな。ロランよ、分かるけ?」

「あー、多分『食う』って言ってんだと思うぞ。さっきリュシアンがコイツの飯をキャンセルしようとした時、物凄い声で叫んでたからな。二日酔いだったもんであの(ザマ)だが」

「さっきの叫び声はそれか。まぁ、食うってんなら作って来らぁな。ちぃと待っとれ」


 叫び声に気付いたフランシスが顔を出すと、ブサの分の朝飯を頼む。さっきのリュシアンのセリフは本気にしなかったらしい。ブサにとっては幸いである。リュシアンは軽く舌打ちをしていたが。この男、根に持ち過ぎである。


 頭痛も治まったのか、昨夜も見たようにピシッ! とお座り状態でフランシスの持ってくる食事を待つ。昨日の夕食の味から物凄く期待しているようだ。今いる食堂にもとても良い匂いが漂っているので。


 このすぐ後に物凄く落胆する事となるが。


「ほら、おまぁの飯だ。食え」

「ぎにゃぁぁぁぁ……ぁ?(いっただっきまー……ぁ?)」


 目の前に置かれたのはオートミールのような物体。むしろそのものである。

 ミルクの中にオートミールを入れて温め、しっかりとふやかしてから猫でも食べやすいような温度に覚ましてある。そこにスープで煮込んだ鳥肉と、刻んだ野菜が混ぜ込まれていた。


「ぐにゃぁ~……?(なぁに、これぇ~……?)」

「お前の飯だ。ちゃんと食えよ」

「ブサは二日酔いなのでしょう。普通の食事は胃が受け付けませんよ。二日酔いは自業自得なのですから、それを食べて下さいね」


 不満気に無くブサに対してすげなく返すロランと、珍しく厳しいアンリである。

 ションボリとブサの尻尾が下がる。ヒクヒクと匂いを嗅げば確かに良い匂いはするのだが、食堂内に漂う匂いとは全く違っていて正直、食欲が湧かない。

 期待を込めてフランシスを見る。


「おまぁの飯はそれだ。残そうってんなら今後わぁ(・・)は、おまぁの飯は作らんでな」


 あっさりと撃沈する羽目となった。

 これ以上食事を無駄にするなら、絶対に許しません。結局昨日のブサ用の食事もほぼ手付かずだったので。

 ちなみにそちらはロラン達が部屋に戻った後、宿の裏手にいる野良猫に振舞われる事となった。ブサとは違い、ウミャウミャ言いながら大喜びで食べていたのがせめてもの救いである。その後、足元へのスリスリサービス付きである。堪らん。


 どう頑張ってもこれ以外は貰えないと悟ったのか、渋々とソレに口を付ける。


(……美味くも不味くも無ぇ。正直微妙……)


 二日酔い用メニューの上に、猫用の味付けなので。

 ブサの朝食タイム。

 猫用味付けなので、ほぼ食材の味です。スープの出汁はしっかり染みているので、それが救い。人間用だと味付けあり。


 もっとも、私はオートミール食べた事無いので想像で書いてますが。

 コーンフレークなら好きです。牛乳かけないで、おやつ代わりにぱりぱりそのまま食べてました。牛乳はそのまま飲みます。


 明日は猫又公開日なのでお休みとなります。

 次話は4月9日となりますのでよろしくお願い致します。

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