どうやら、穏やかな朝らしい(ただし、俺は除外)
しょっぱなからご飯時にそぐわぬ表現があります事を深く謝罪致します。気になる方は時間をずらしてお読み下さるようお願い致します。
「ぐ……ぎぅにぁ~~……!(うぇっぷ……気持ち悪いぃ~~……!)」
「お、起きたカ」
「……ぐにゃ?(……あん?)」
翌朝、頭部を断続的に襲ってくる痛みと、込み上げてくる気持ちの悪さにブサが呻いていると、ガチャリと部屋の扉が開きリュシアンが部屋に入って来た。というよりも、そもそもこの部屋はリュシアンが使っている部屋なのだが。部屋にお邪魔しているのはブサの方である。
グッタリと力無く倒れ伏したまま、腫れぼったいまぶたと、襲い来る頭痛に目をショボショボさせながら声の聞こえる方を見る。霞む視界にイラつきながら、目を細めてジーッと睨む。正直猫相が悪すぎる。
「何睨んでんだ、おめぇハ」
「……ぎな(……うるせぇな)」
普段から口は悪いが、二日酔いのせいでさらに悪くなっているブサである。せめてもの幸いだったのは、猫であるが故にその言葉が相手に伝わっていない事だ。
とはいえ、雰囲気などである程度は把握出来るのだが。
何度かまばたきを繰り返したおかげで、霞む視界も何とか復活した。はっきり見えるようになったところで改めてリュシアンを見る。
H A N R A 。
半裸である。寝起きに男の半裸など、一体誰が見たいのだろうか。水でも浴びていたのか、髪から水を滴らせているのをガシガシと布で拭きながら怪訝そうにブサを眺めている。
それにしても、無駄に体が引き締まっているのがむかつく。うろ覚えながらも人であった頃の自分の肉体を思い出して、記憶との差異に悪態を吐きたくなる。少なくともメタボでは無かった筈だが。
しかし、無駄にも何も、体が資本なのだから体が鍛えられているのは当然だ。実際に昨日ギルドにいた男達も揃ってムキムキである。当然、リュシアン以外の三人もムッキムキである。何故か四人の中で一番ムキムキなのは、魔法使いであるアンリなのだが。
それにしても、二日酔いの寝起きでムキムキしい男の半裸は辛いものがある。主に、胃に。
オボロロロロロロロ……
「てめぇ! 一度ならず二度までモ!!」
リュシアンに合掌。
* * * * * * * * * *
「おーっす、リュシアン遅かったな……って、ブサが何かしたか?」
流石の信頼力。不機嫌な様子のリュシアンを見て即座にブサの仕業と言い当てた。
それにしても、ブサを拾ってからは明らかに騒動の種類が増えている。以前は盗賊と間違われるか、強盗と間違われるか、とりあえず通報されるか程度しかなかったのだが。
以前などは、ロラン達が宿に帰るために夜道を歩いていただけで通報された事もある。
その時通報した人の言い分はこうだ。『大通りからずっと付けて来るから、てっきり襲われるかと思った』との事だ。その時は宿泊している宿の名前も出して、宿に帰る途中だと説明して何とか事無きを得た。その後、勘違いした事はキチンと謝罪して貰ったのだが、通報した当の本人はアンリを超える身長を持ったどうみても男が女装しているようにしか見えない男だ。声もドス低いものだった。
通報を受けた衛兵はむしろロラン達よりもそちらを警戒していた。疑われたロラン達は物凄く、釈然としない出来事であった。
そんな裏話はまたの機会があれば話す事もあるかもしれない。
が、今はそんなことよりも、この後大事な仕事があるのでそちらを優先させるとしよう。まずは朝食を食べるのが最優先……なのだが、部屋から出て来たリュシアンは明らかに不機嫌な様子だった。そんな彼の左手には、ぐったりとしたブサが無造作にぶら下げられている。頭部にはいつか見たよりも大きなコブが複数出来ていた。
「アンリ、今夜からコイツお前に預けるワ」
「それはとても嬉しいですが、何があったんですか?」
「二日酔い。さて、連想するものハ?」
「「「あぁ……」」」
これから食事であるが故にぼかしてはいたが、連想出来るものは一つしかなかった。それは不機嫌になるのも納得である。
アンリに預けるのは、ブサにとってはこれ以上無い苦痛であろう。アンリからしたらご褒美でしか無いが。すでに今夜の事を想像しているのか、顔がにやけていた。一体何を想像しているのか。
「とりあえず食おうぜ。今日はこの後アレだしな」
「「「あぁ……」」」
全員がげっそりした顔になる。周囲の耳があるので、この後の仕事の事は口にはしない。
それにしても返事がさっきと同じである。声のトーンも同じく。
しかし、ブサは気絶させたままで良いのだろうか? このまま朝食を抜く事になると、確実に後で文句を言いそうなものだが。
フンス、と鼻息も荒いリュシアンは放っておけと言わんばかりである。朝の爽やかな気分を台無しにされた事はそう簡単には忘れられない。きっちりと根に持っていた。
そんなリュシアンに苦笑を返しながら、フランシスに後でブサ用の食事を作ってくれるように頼む。二日酔い用のものだ。正直、昨夜の食事の後では不満以外の何物でも無いのだが、そこは自業自得なので納得させる。いざとなれば物理的な手段で。
そう結論付ければ後は早く、ガツガツと各人朝食を平らげていく。
ちなみに今朝の朝食は、まずはかごに山盛りになったブールのようなパン。一つ一つが手のひら位の大きさがあるので、一つだけでも食べ応えはありそうだ。それがごろごろと盛られている上に、希望があればおかわり無料である。
客の中にはおかわりしたパンをこっそりとお持ち帰りして昼食にする者もいる。当然フランシスは気付いているが、その辺りは見逃している。フランシスの宿は他の宿と比べると高め設定故に。
それと刻んだ野菜がたっぷり入ったトマト味のスープ。こちらもおかわりは自由だ。流石にスープを持ち帰る客はいない。カップ毎持ち帰ろうとした客は過去にいたが、がっつり絞られる羽目になった。当然である。
さらにフワフワの巨大なチーズとたまねぎ入りオムレツが一皿に、歯を立てればパキッと音をさせそうな程に身のしっかりと詰まったソーセージ。それが一人当たり3本ずつ。
そして、カリカリに焼けたベーコンチップの散らされたサラダと、果物の盛り合わせである。
盛り合わせと言っても、丸ごとのりんごとオレンジが無造作にかごに盛られているだけだけだが。これは各人のテーブルでは無く、別のテーブルに置かれているのを自由に取って食べて良い形式だ。ちなみにこちらもお持ち帰りする客は結構いる。部屋で食べるも良し、仕事の合間におやつに食べるも良し。
なお、果物サービスは宿泊客限定なので、一般客は手出し厳禁である。知らない一般客がうっかり手に取ろうとすると注意されるだけで済むが、知っているのにわざと盗ろうとすれば……。
それにしても、朝から物凄いボリュームの食事である。
かごに盛られたパンはすでに無く、おかわりが運ばれて来たがそれも綺麗に無くなっていた。今は三度目のおかわりをするべきか、サミュエルが悩んでいる最中である。好きにしろ。しばらく悩んでいたが、結局おかわりをする事に決めたらしい。良い笑顔だ。
夜の食事も美味だったが、朝食も美味である。
月猫亭は食事の美味さでも有名なのだ。それ以上に有名なのは店主の乱闘だが。それ程有名なのに食事処兼、酒場で暴れる客が絶えないのは何故なのか。謎である。
朝食の最中は全員が食事に集中している。うっかり口を開くと、午後の憂鬱な仕事の内容の愚痴になってしまいそうだからなのだが。
せめて食事中だけでも穏やかに過ごしたいものだ。午後の惨状が想像出来るが故に。
真っ先に食べ終わったロランが、それを見越したフランシスに丁度良いタイミングで食後の茶を出され、それに口を付ける。
ふぅ、と一息。穏やかな時間である。
窓の外を見ればとても良い天気のようだ。こんな日は適当に手近な討伐依頼でも受けて、体を動かして気分をスカッとさせたいものだ。……午後の予定が決まっている以上、叶わぬ願いだが。
二日酔い……体験した事が無いので正直どんなものか分かりません。ぶっちゃけ酒を飲む気が起きないタイプです。興味はあるんですが、何故か機会が巡ってきても手を出す気になれないという。何故でしょう?
文中の通報案件。現在は色々と珍通報もあるようで。
・声を掛けたら通報
・道に立っていたら通報
・追い抜いたら通報
・道を歩いていたら通報
などなど、ネタか本当なのかは分かりませんが、色々とあるようです。中にはガチな変質者案件も混じっていますが。
なお、『声を掛けたら通報』に関しては挨拶をするのもアウトだとか。
『追い抜いたら通報』に至ってはどうしたら良いの。かと言って追い抜かずに後ろをついて歩けばきっとそれも通報される事になりかねないという。
かく言う私も一度付き纏われた事がありますが。
犬に。
帰宅途中にワンコに遭遇。目があったものの、飼い主も近くにいなかったので手出しはせずにスルー。そのまま歩いていたら背後に気配。
後ろをついて来てるぅぅぅぅぅぅぅ!?
走ったところで犬に勝てる筈も無し、普通の速度を心掛けて家まで歩きました。無事にドアを閉めて一安心。
そのまま細々した用事を片付けて、ふと窓の外を覗いたら
さっきのワンコがまだいてらっしゃるぅぅぅぅぅぅぅ!?
その時すでに、帰宅から軽く1時間以上は経過しておりました。もはやその日は外に出る事もせず、翌日外に出なければならない時はそーっと窓の外を確認してから出ました。流石に翌日にはいなくなってましたが、あのワンコは一体何だったのか。
今でも謎です。




